決死の無茶
【『深層』ダンジョン 下層付近】
『Gyaaaaaaoooooooooooooooooo!!!』
「ぬぅおおおおおおおおお!!!!」
「ひいいいいいいいいいい!!!!」
「あははははははははやばーーーーーー!!!!」
一匹の咆哮に三者三様の悲鳴(?)をあげ、ダンジョン内を疾走する一団。
マギたちは、先ほどよりも下層部分で逃亡劇を続けていた。
『このままじゃ、龍を地上に引き寄せてしまう。
標的になってるのは、一度ヤツを殺した僕と、最初に標的にしたエマ。
はい、あとはわかるね?
というわけで、僕らが囮になって引き付けるので、冒険者のみんなは次の分かれ道で離れて、地上へ逃げてねー。
こっちはこの人数ならなんとかなるので、心配しないで。
あ、そうそう。
僕だけならともかく、エマを守りながら逃げるってなると、ちょっとフォロー役が必要だから、ソル君よろしくー』
というわけで、ここまで手伝ってくれた冒険者の方々を出口へ向かわせ、『マギ・クラフト』の面々で絶賛引き付け中なのだった。
念のため、冒険者たちには街へ避難を呼びかけるよう言伝してある。
最悪の場合――――――僕らが全滅して、龍がそのまま地上に出てくる――――――を想定して、だ。
「マギーーーー!笑ってる場合かてめ無神経コラ!!どうすんすか!どうすんすかこの状況!!」
囮側に巻き込まれてガチギレのソル。怒り過ぎて、いつもの敬称から呼び捨てに変わっている。
「いやーーーーーー、思ったよりキッツいねーコレ!!わー、足止めどころか何も出来んわーははは」
「だから笑ってんじゃねえ!!もう”閃光(flash)”も切れて、”炸裂(burst)”は近接用しか残ってねえし!!
”拘束(bind)”みたいなシンプルな足止めはヤツ相手に拘束時間が短くて意味がねえ!
道具にもう余裕ねえんだぞ?!なんとかなるって言ったのはどこのどいつだ、ぇえ゛?!」
状況が悪くなる一方なせいか、本気でマギを恫喝するソル。それに対してマギは。
「わー・・・・ソル君、そんなガラ悪い一面あったのねー。ショック―」
「ちょっとびっくりしましたね?」
「ねー?いつもは気を遣ってくれてたんだねー、ごめんねー」
「だーーーーーー!!!このフワフワ夫婦!!緊張感もて!!!!!!!!!!」
なぜか、抱きかかえられたエマごと、ちょっと引かれてしまった。
ソルは「おれか?おれがおかしいのか????」と、極度の緊張と怒りで錯乱してしまっている。
「まー、だいじょぶだいじょぶ!とりあえず、目的地、着いたから!!」
「は?!目的地って・・・・・・え」
永遠に続くかと思われた通路に、変化が現れる。魔術的な意匠が施された壁と天井があらわれはじめ、直後。
「ぅお・・・・っ?!」
・・・・・広い空間へ出た。
壁には、通路から引き続き術式のような模様が天井まで広がっており、空間の中心には・・・・
「・・・あっ!移動陣!!」
「そゆことー♪」
下層のどこかにランダムに跳ばされる、移動陣が光っていた。
『Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!』
その存在を確認したところで、追撃してきた龍も到着する。
血走った眼でこちらを睨みつけ、いまにも襲い掛かってきそうだ。
「・・・・ソル君」
マギが、ソルを呼びつける。
「・・・なんすか」
「一瞬でいい、そっちに引き付けて」
「・・・・・・言ってる意味わかってます・・・?」
「ごめん。でも注意がちょっとでもそっちに向けば、あとはこっちがなんとかするから」
と、伝えたところで。
『Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaooooooooooooooooo!!!!!!!!!』
龍はここぞとばかり、マギたちに炎を吹き付ける!
ソルはその場を離脱し、
「じゃよろしく!!”防壁(shield)”!」
マギは炎をを盾で受け止めるものの、身動きがとれなくなる。
「・・・・・あーーーーもう!!!!借金、まけてもらいますからね!!!!!」
ソルが、離れた位置から相手をうかがう。
龍は、向こうの二人しか相手にしていない。さっきのことが、よっぽど気に障ったのだろう。俺は眼中に無しだ。
なら、こっちに注意を向けるのなら・・・・・・・くそったれ。やるしかねーか。
「ぅ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ソルが龍へ突撃する!
・・・・正直、怖い!それなりに冒険者をしているが、伝説級の種族なんて、戦うどころか見たこともなかった。
いずれは、と夢見たこともあったが、こんなにすぐ戦うことになるなんて。
「っ!!」
近づいたソルへ、龍が炎を吐いたまま、めんどくさそうにこちらへ爪を、尻尾を振るう。
・・・野郎、片手間だな。目にも入らん虫が邪魔をするな、ってか!
「おおおおおおおおおおおおおおお!!”拘束(bind)”拘束(bind)”拘束(bind)””拘束(bind)”拘束(bind)”拘束(bind)”!!!!!!」
残っていた拘束球をありったけ、投げて起動。龍の爪一本一本、尻尾の先端から根元までをぐるぐるに拘束し、一瞬攻撃がこちらへ届くのを防ぎ、その隙にヤツの胴を駆け上がり・・・
「っ・・・おらぁ!!」
龍の顔面に一撃、拳をお見舞いしてやる。
そしてそのまま、
「”炸裂(burst)”!」
術式起動。小手に装着されていた爆破術式が発動し、龍の頭を弾き飛ばす。
思いがけない衝撃に、マギへ向けていた炎が途切れる。
『?!?!?!?Gyaa!!!』
ダメージはほぼないものの、驚いた龍がソルへ向いた。龍にかけていた”拘束(bind)”も解かれた。
空中で身動きがとれないソルは、
ああ、俺、死んだわ。
と悟り、龍が自分へ息吹を吐こうと、息を吸い込んだところで・・・・
「”魔力炸裂(mana burst)”」
背後から、詠唱が聞こえた―――――――直後
『Gya?!?!?』
衝撃。
龍の後頭部を、先ほどの”炸裂(burst)”とは比べ物にならない衝撃が襲う!!
『!?っ!?っ!?』
一度どころではなく、2度、3度、死角から衝撃が加わり、部屋の中央へ吹き飛ばされていく。
『っGyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaooooooooooooooooooo!!』
たまらず、その方向へ息吹を吹きかけるが・・・・そこには、なにもいない。
龍はわけがわからないまま周囲を見回すが・・・・突然、目の前に腕が現れた。
『Gyaaaaaaaaaaaaoooooooooooooooooooooooooo!!!』
驚きつつも息吹を吹きかけるが、その腕はまったく勢いが止まないまま、その炎を抜けて龍へ飛び込み、
『Goaっ!!?』
”防壁(shield)”を張った腕が、さっきまでと同じように頭を殴ってくる。
その衝撃で、龍は先ほどよりもさらに中央付近の移動陣へ近づく。
『Gya・・・・aaaa・・・・aaa・・・・・・・aa』
いくら頑強な龍とはいえ、頭を揺さぶられ過ぎてふらつきだした。なんとか攻撃しようとそこかしこへ炎を吐くが、先ほどまでのような灼熱の息吹ではなく、なんとも弱々しい。
「チェックメイト、かな。エマ、ラスト」
「はい」
その様子を見て、マギが腕を振るい、エマが構える。
「ばいばい、龍くん。”魔力炸裂(mana burst)”」
―――――瞬間。マギの腕が高速で射出される。
『魔力炸裂(mana burst)』。簡単に言えば、魔力を圧縮して放つ魔力弾なのだが、出力するのは、魂すら保持する容量を持つマギの核。
一般的に流通している魔力を蓄積する魔石の、数倍の大きさを誇る容量を持つ核からの、魔力一極放出。
おそろしい速度で発射されたマギの腕が、エマへ向かう。
「”門(gate)”!」
その腕が、ここまでの時間経過で魔力が回復したエマの術式で、その勢いのまま空間を移動し、
『GYaAaっ!!』
Hit。龍の頭をとらえた。そしてそのまま。
「”拘束(bind)”」
腕から放たれた拘束術式が龍の首と頭をとらえ、その勢いのまま部屋中央へ。
「ソルくんっ!!」
「人使いが、荒いっすよ!!!」
マギの声掛けにより、ソルが部屋に仕掛けられた装置を起動。
龍が乗った状態の移動陣が輝き出し、術式が発動する。
拘束された龍は、マギの腕ともども、移動陣の光の中へ消えたのだった―――――――――――――