侵入者(イレギュラー)と死闘・帰還
【『深層』ダンジョンにて】
「・・・っく!!しぶとい!!」
複数の球体が地面を転がっていく。目的の場所へ接近するのを確認し、詠唱。
「”炸裂(burst)”!!」
球体が炸裂。地面がえぐれ、対象の足が空いた穴に落ちる。ようやく、動きが止まった。
「・・・”照射(ray)”!!!」
側面から接近し、ゲートからマギの腕を出現させて照射。獅子型の人形の胴を切り裂き、動きを止めた。
・・・・・・あれから、数時間。
いや、実際にはそこまで時間は経っていないだろうが、それほど長く感じる。
ここは道の突き当りで、敵がくるのは正面からのみであるものの、誰かを守りながら戦う、というのはずいぶんと気を遣う。
しかも、そろそろ店の在庫も切れた。
結構な数あったはずなのだが、敵の攻撃による破壊、無理な連続使用による故障など、様々な要因によって瓦礫と化してしまった。
仕方なく、無理やりマギの装備を自身の魔力で使っているが、相性の関係で燃費が悪い。
ポーションはとっくに切れてしまっている。
本来戦闘員ではないエマは、後方で身軽に動くために重くなる防具をつけておらず、攻撃を受けるわけにはいかないので、敵はできるだけ迅速に倒す必要があった。
そのため、最初から高出力の武器を使い続けていたのだが・・・・さすがに、魔力切れが近い。
周囲が魔力で満ちたダンジョンだが、それを受け取り自身の魔力とするのは、そういったアイテムか、自然の力を司る、精霊に近い種族でなければ難しい。
いわば、素材はあっても調理器具がない状態、なのだ。
その状態で、なんとか持ちこたえていたエマだったが、
「・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・」
さすがに限界だった。
いま、何度目かの人形ラッシュを食らい、もはや満身創痍である。
・・・きつい。魔力切れなうえ、思ったより長く血を流してた。意識、ぐらつく・・・・・。
少し、時間をおかないと。
ゲートから店の棚や、加工用の素材である鉄板などを引き出し、手前に配置。ついでに破損した武器・アイテムの残骸も使って、簡易バリケードを作成。
次に来るのが小型程度なら・・・・少しは時間稼ぎになるだろう。
マギの隣に座り込む。
先ほどより核の明滅が激しくなっている気がするが、いつ起きるのかはわからない。
・・・・はやく、起きなさいよ。
涙目でマギをにらみつける。
もう、起きたら絶対に埋め合わせしてもらう。
しばらくは抱き枕にしてやるから、覚悟しなさい。久しぶりに首都へ行って買い物もしたいし、甘いものだってご馳走してもらおう。
そういえば、主都のほうで相談事がある、って連絡あったんだった。マギに解決させよう。
お店の在庫だってあなたを守るのに使い込んじゃったんだから、制作するためにいっぱい働いてもらう!
休ませてなんてあげない!たまには人形らしく、昼夜問わず労働に勤しみなさい!!
全部終わったら、寝るころには・・・・・・・・いっぱい、愛してあげる。もう、全っ部、ストレスごと吐き出して受け取ってもらうから、覚悟なさい・・・・寝かせてあげないんだから。
最後に、ぎゅっ、と倒れた彼を抱きしめて、ため息をひとつ。
「・・・・よし、元気出た」
補充完了。不安も怖さも、とりあえず抑え込めた。
・・・・が。名残惜しいので、もうちょっと堪能させてもらおう。
ふんふん、と、鼻息荒くマギの香りを堪能しながら、ちょっと強めに抱きしめてみたりしていると・・・・
ばごん!!!!
―――――――――バリケードにしていた鉄板が横に吹き飛んできた。
次の敵が来たのか・・・・くそう、空気を読まない人形め。
と思い、吹き飛んできた先を確認すると・・・・・・
「・・・・・・え?」
そこにいた”敵”は、生きていた。
全身を覆う土色の鱗は、爬虫類の中でもトップクラスの堅さを誇り、鋭い爪は一本一本が剣のようだ。
吐く息にはぶすぶすと黒煙が混じっており、今にも炎を吐き出しそう。
その生物の、鋭く、血走った目。縦長の瞳孔が『獲物』である我々を捉えている。
「・・・・っ!!」
――――とっさに壁際へ飛んだ。
瞬間、いままで自分たちがいた場所が爪によって切り裂かれる。
・・・・・・龍。
生態系の頂点にして、荒ぶる天災の化身。
魔物すら食す悪食、爬虫類の長。
そんな悪夢が、人形しかいないはずのダンジョンで、わたしたちの目の前に姿を現した。
「・・・・・!!」
・・・・・堅固な壁や床が、いとも簡単ににえぐれている。生身の自分はおろか、人形であるマギでさえ、あの爪の前では危険すぎる。どころか。
「Gyaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
―――――当然、次の攻撃が来る。
黒煙を上げていた口から、高温の炎が噴き出された。
「っ、”防壁(shield)”」
ゲートでマギの腕を呼び出し、魔力で繕った盾を繰り出した。の、だが。
「・・・・ぅ、ぐ、あっ・・・・!!」
・・・出力が足りない。竜種特有の息吹というものは、桁が違う。
「・・・・・・・・・・・こん・・・・・な・・・・・・無理・・・・・!!!」
たまらず膝をつくエマ。尽き欠けた魔力で、出力の悪い代替品では太刀打ちできない。
防壁(shield)はヒビが入り、崩壊寸前。もはや、ここまで――――――――
『”防壁(sheld)”』
――――――――――――――エマの発したものではない単語が聞こえた。
瞬間、ヒビ割れた障壁は、魔力から魔力へ上書きされ、より堅固な盾となる。
「・・・・ずいぶんな侵入者が現れたもんだ。
龍、生態系の長とはね。ちょっと、冗談にしては笑えないかなー」
間延びした、緊張感のない喋り方。
延ばされた腕から発した魔力の盾が、噴き出された炎を防ぎきる。
「”炸裂(burst)”」
炎を吐ききった隙に、”砲(canon)”で龍の顔面を爆破。ひるんだところへ、
「”照射(ray)””照射(ray)””照射(ray)”!!」
接近し光線で胴体を切り裂く。胴体のど真ん中にある堅い鱗をそぎ落とし、
「”発射(shoot)”」
鱗を落とした部分へ、射撃。貫通はしないものの、体に穴が開き、龍が悶えた。そこへ、
「――――――――”神星爆破(supernova)”」
接近したマギが、胸部の巨大な核から龍の体内へ巨大な”炸裂(burst)”術式の光弾を送り込む―――――――――――!!
「gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
結果・・・・・・・・・・生態系の頂点は、体内からその身体を爆発四散させた。
「・・・・・・・・・・・遅くなってごめん。待った?」
龍の血肉が降る中、一体の人形がこちらを振り返る。
懐かしい、優しい、腑抜けた表情を、こちらへ向けている。
「・・・・・・もうっ。もうっ!!」
涙がこぼれる。かけたい言葉が、山ほどある。
でも、泣いてしまって、うまく喋れない。それが、ちょっと悔しくて地面に八つ当たったりして。
本当、ほんとうに文句くらい言ってやりたいけど。それよりも。
「・・・・・・・ばか。心配、したんだから」
――――――――嬉しい。
あなたが、帰ってきた。無事に、戻ってきた。
そんな考えばかり巡ってしまって。さっきまでの恨み言なんか、どこか消え失せていて。
「――――――――――――――――――――おかえり、マギ!!」
目いっぱいの笑顔で、自分の主人の帰還を、喜んだ。