これまでの僕/これからの僕
【??? 待合室】
先ほどの確認が済んで、しばらく。
今度は、上の階の”待合室”に案内された。
やはり役所と同じシステムらしく、何度かの書類などの確認・審査を経て、次の転生先が決まるのだそうだ。
――――そう、死後の世界。
天国や地獄、黄泉の国。呼び方はなんでもいいが、そういう認識であってるそうだ。
・・・システマチックな『あの世』もあったものだが、現世の人口増加などに対応していった結果らしく「ずいぶん楽になりましたよ」としみじみ『受付』の方が言っていた。
・・・さて。僕自身だが。
最初に多少の混乱はあったものの、死んでいたこと自体にショックは少ない。
事故などで突然死んだ場合はショックを受ける人も多いそうだが、寿命・病気などで死んだ人々は、おおむね僕のようにすとんと受け入れる人が多いそうだ。
重ねて。
僕の場合、幼少の頃に壊死して失った手と足があること。
薬の副作用で全身にあった倦怠感や痛みが感じられないこと。
・・・・それらが、ここを現世ではない、と信じさせるのに十分な理由となった。
『受付』の方曰く「ここにいる間、支障がないように」とのことだったが、結果。
「・・・蒔田さん、ありがたいですけど、すごく素直に書類内容受け入れてくれますね?
いやありがたいんですけど、ちょっと珍しいもので」
珍しがられるほど、素直に受け入れてしまった。
・・・実は、手が使える、足で歩けることに浮かれていて、あまり他が気にならなかっただけなのだが。
そんなことを繰り返し、十階まで登ってきた。
案内してくれた方にどうも、と頭を下げ、扉を開く。
「・・・・ようこそ、蒔田さん。おかけください」
入ってすぐ、声をかけられた。他では順番待ちだったのに・・・システムが違うのかな?
呼ばれた仕切りの席に座る。すると、目の前に、二人の人物が現れた。
「十階までお疲れさまでした、蒔田さん。ここの書類確認で、申請は完了です。
転生されるか、少しこちらでゆっくりされるか、選べますよ」
丁寧な対応をしてくれる、ここまで見てきた市役所の職員っぽい方と、
「できる限り早めの転生を所望する。こちらは待ちくたびれているのでな」
なんか不遜な、黒スーツの厳つい顔の人だ。
「魔王さん、そうはいっても向こうの意思を尊重しないと。クレームで尊厳値落ちますよ?」
「ぬ・・・・またか。それは困る」
・・・・なんか揉めてる。ぇえー、ここに来て面倒なタイプの職員に当たっちゃった?
あと、なんか魔王とか言ってる。え、なんか偉い人?あと尊厳値ってなに?
「・・・蒔田さんすいません。ちょっと事情がありまして」
申し訳なさそうに、職員っぽい方が説明してくれた。
なんでも、人間への転生はやっぱり人気で、かなり順番待ちしないと転生できないそうだ。
とくに、地球への転生は、ちょっと人口的にも大変らしく、遠慮してもらっているとのこと。
が、他世界では、事故や戦争・獣害などで人口が減少しがちな世界もあり、
そこへの人間へ転生を検討してくれる方には、順番待ちもなく、更に特典を付与して転生してもらっているんだそうだ。
今回、隣にいた魔王さんも、少々困った事情を抱えた世界の主、だそうで。
「・・・・わが世界は、魔物被害による人間の減少が、思っていたよりもずっと早い。
このままでは、魔物に人類が淘汰されてしまいかねん。
勇者と呼ばれる人間による一時しのぎは、いままで何度もしてきた。
だが、それだけでは根本的な解決にはならん。つまりシステムとして、人間が死ににくくなる環境を作らねばならんのだ。
とはいえ、魔物を全滅させてしまっては、わが世界の根本のバランスが崩れる。
どうしたものか、と思っていたところに、貴様の話が聞こえてきた」
・・・なんでも。生前の自身の身体について、ひとつも恨まなかったこと。
誰かを羨んだり憎んだりしなかったこと。
そういった事が、『類まれな精神性』として評価され、他世界へ転生するなら通常よりも特典が付く、とのこと。
・・・単に、生まれた時からその状態だったから、他の快適さを知らなかっただけだったんだけど。
あと、羨むもなにも、わりと、好き勝手やらせてもらってたからなー。
手先が器用な父さんに改造してもらった電動車いすで、病院内を爆走したり、とか。
PC使って文章代筆するアルバイトとかさせてもらって、ちょっとお金稼いでみたりとかもできたし。
・・・羨んだり憎んだりする必要、なかったもんな。
だから最後、声の出ない口で「ありがとう」って言って死ねたんだと思う。
「貴様を・・・わが世界に迎えたい。ただ魔物を倒すもの、ではなく、人類の成長を促す起爆剤として」
なんていう、魔王さんの世界のプレゼンを受けた。
いわゆる魔法がある世界で、魔物が跋扈するダンジョンが各地に存在するんだそうだ。
なんでも、これまで転生した『勇者』たちへの対応と世界の管理で、だいぶクレームがついてしまったらしく。
世界における内申点、的な、尊厳値というものがだいぶ下がってしまったとのこと。
尊厳地が下がる=世界の環境が落ちる、んだそうだ。
つまり、内申点がそのまま世界の存亡に関わる、と。えげつねえなぁ、神様の世界。
ビシッと「起死回生の一手となるのだ」と決めていたけど、表情が不安そうだった。
自分が直接関われないもの、だもんなー。そりゃ不安か。これまで失敗してたっぽいし。
自分の世界を守るのに必死なんだなー。えらいなー、と魔王にちょっと好感を持った。
・・・・正直、特典が付く、と言われたって、自分に何ができるかわからないけど。
「あ、書類の確認できました?・・・・・お」
職員の方に、最後の書類を渡す。
『異世界への転生は検討していますか?』という項目の、『はい』に印をつけて。
ま、何をしたらいいかまだわからないけど。思いついたことは、全部やってみよう。
どうやら今度は五体満足で生きられそうだし。
あとは・・・・好きな種族になれるなら。
「む、特典のリクエストか。よい、ここで聞こう。」
僕からの希望。
今度は、失わないように。失っても、どうとでもできるように。
「ご・・・・・・・・・ゴーレムへの・・・・転生??」
さきほどの世界説明で聞いた、人形が、僕の希望に合いそうだったのだ。