現状打破の博打と魔力(マナ)
【『深層』ダンジョン内中部上層にて】
「・・・っく。しっかり、捕まっててくださいよ」
「あ、ああ・・・」
力ない背中からの声。救助者の彼はだいぶ血を流してしまい、体力を消耗している。
ソルは、そんな彼を背負いながら、できうる限りのスピードでダンジョン脱出を試みていた。
が、負傷者の体力にも気を配りながらなので、どうしても普段より速度は落ちてしまう。
(アイテムを追加でもらったとはいえ、一人で抜けるのはキツイな・・・)
そう、脱出を試みているのはソルと救助者の彼のみ。
倒れたマギと、その介抱にあたっているエマは、いまだダンジョン下層部である。
――――マギが負傷して意識を失った。
原因は、救助者の彼がはなった特別製スピンニードル。
針の一部が防ぎきれず、マギのコア部分へ突き刺さり、ヒビをいれてしまっていたのだ。
・・・・事態を把握したエマのうろたえようはひどかった。
マギの名を呼びながら泣き叫び、抱きしめたまま「どうしよう、どうしよう」と震えていた。
・・・・・あんなに冷静さを失ったエマさんを見たのははじめてだ。
逆に俺は、そんなエマさんを見て冷静になることができた。
なので、エマさんを気付けし、要救助者がいる現状を伝え、落ち着くよう説得。
・・・・・・ありがたいことに、エマさんはぎゅっ、と目をつむった後、いつもの冷静さを取り戻してくれた。
その上で―――――現状の、狂っているともいえる、提案をしてきた。
通常、人形はダンジョンから発生するマナ―――自然発生した魔力を原動力としている。
マギに関しても例外ではなく、定期的にダンジョンを見回っているのは活動を続けるために必要なことだったのだ。
・・・マギは意識を失っているものの、マギの起動の要になっている核は、活動を続けていた。
割れた部分を治そうと、自然治癒をはじめていたのだ・・・マナを大量に消費しながら。
マギが意識を失ったのは、治癒を優先するための睡眠なのだ、との見解だった。
ちなみに、地上・自然などには、魔力はあるものの、ダンジョンに比べ非常に密度が薄い。
街などに関しては人間が生み出すオド―――意識の混じった不純な魔力―――などはあるものの、マギとは相性が悪いため、少量の摂取ならましだが、大量に摂取すると調子を崩すなど、不具合が出てしまう。
「マギ・クラフト」には魔力を備蓄しているメンテナンス機、なるものを用意しているものの、動かないマギと救助者を連れて出口へ向かうのはかなり厳しい。
ダンジョン街周辺にも、魔力の摂取に適した場所は見当たらない。
つまり、いま一番マギの治癒に適している場所は―――――――
「ダンジョンで覚醒を待ちます、ってか。
―――――強ぇ女性だわ、ホント」
ぼそ、っと思わず声が漏れた。本当、惚れがいのある、かっこいい女性だ。マギがうらやましい。
――――二人を残し、動ける自分が救助者を連れて先に戻る。
全員でダンジョンへ残ってマギさんの覚醒を待つは確実だが、救助者がもたない。
ソルが残り、エマさんが救助者を脱出させようとしても、移動しながら救助者を守りつつ、なんてのは、非戦闘員の彼女には無理がある。
『ゲートのおかげで、防衛戦には多少、覚えがありますので』
と言っていた、涙の跡が残る、凛々しい顔がまだ頭に残っている。
となれば、一か八か、ではあるが。
成功すれば、負傷者二人を抱えて地上へ戻るより、ずっと生存率が高くなる。
・・・もちろん、自分が救助者の救出を完了できたなら、だが。
「・・・戻ってきてくださいよ、絶対。意外とあの店、居心地いいんすから」
たかだか数日ほどの自分だが、学ぶことも多く、気を使わない楽な空間。
そんなあの店を、失いたくはなかった。
もちろん。自分も無事に帰りたい。
「さーーーて!救助者さんよ。すいませんけど、頑張って生きてくださいね!速度あげて・・・・いきますよぉ!!」
前方へ火薬の詰まったボールを転がす。すかさずスイッチで火をつけ、衝撃が発生。
・・・・・複数たむろしていた人形の足部分が吹き飛び、動きを鈍らせた。
その横を、精いっぱいの速度で駆け抜ける。背中の悲鳴にはもう気を使ってられない!
―――――――倒すよりも、通り抜けること優先!救助者の命が続くうちに、とっとと脱出せねば。
(ま・・・・療養所についたところで、治癒の痛みが待ってはいますがね)
背中の救助者のうめきを聞きながら、そんなことを考えた。
あそこが一番の山場かもしれんなぁ。生きるってのは大変だ。