救助者確認と、想定外
【『深層』ダンジョン 中腹にて】
「人形・・・・!寄るんじゃねぇ!!」
「あー、警戒しなくていいですよー」
「!?喋っ・・・」
「あ、はい、救助に来ました。ダンジョンショップ『マギ・クラフト』のものでーす」
もはや慣れた流れなので、少々端折り気味に説明する。
さすがに、武器を向けられたまま救助は無理だ。
「・・・・いや!信じられるか!どうせ、だまくらかしてぶち殺す気だろ・・・?
これだけ性悪なダンジョンなんだ、それぐらい仕掛けてきてもおかしくねえ」
「えー・・・?わりと素直なダンジョンだと思うけどなぁ」
基本、『深層』のダンジョンは障害となるモンスターが堅牢な人形のため、
倒すための知識や技術・力を必要とするものの、いたってシンプルな構造だ。
トラップはあるが、それはどこのダンジョンでもあるものだし、冒険者として対策は必須科目。
性悪、などと言われるほどではないのだが・・・・
「・・・もしかして、侵入者・・・・?」
「だいたい、救助だってんなら、頼んだのは誰だ!?」
「あ、それは・・・・」
ここで、マギは致命的なミスを犯す。
・・・・やばい。依頼主の名前、エマに聞きそびれてる!!!
「えっと、名前、名前~・・・」
「それみろ!!やっぱ騙そうとしてやがったな!!」
瞬間、救助者の構えていた武器から炸裂音。無数の針がこちらへ撃ちだされた。
・・・ああ、この武器かー。
人形相手には効果が薄いので、忘れていた。
たしか、スピンニードル、とかいう―――――鎧を突き抜ける針を射出する武器だ。
「・・・・な?!」
「痛っ・・・・・たいな、もぉ・・・・」
両腕でガードし、大部分を防ぎ切った。
・・・なんか、聞いてた威力よりだいぶ強い。人形である僕の腕の装甲を傷つけるどころか、内部まで食い込んでるんだけど。
「ばかな・・・・龍の鱗も貫く特別製だぞ!?なんで防げる?!」
「ああ・・・特注なのね・・・?どーりで」
普通なら表面で防げるのに、体中に刺さったままだ。
普通、弾いて終わりなんだけどなー。どっかの工房の新技術かなー。すごいなー、いたいなー・・・。
「くそっ・・・・・打ち止めだ!・・・・・もう、好きにしやがれ」
どうやら、いまの攻撃で武器も尽きたらしい。
よくよく見れば、近くには折れた剣や空っぽの袋などが散乱していた。相当、奮闘したのだろう。
「あ、よかった。じゃあ、救助しますね?」
「・・・・いや、悪趣味な真似は、もういいからよ。殺すなりいたぶるなり、好きに・・・」
「えと~・・・だから、救助に移らせてもらいます。依頼されてますし・・・」
「・・・・ん??」
「え?」
と、すれ違いが起こっていることにお互いが気づいたタイミングで・・・
「マギさーーーん!大丈夫っすかー!なんか爆発音が・・・うぉ、生きてた!!エマさーん、どっちも生きてまーす」
「ああああああもう!!マギ!あなたいい加減心配かけるのやめて!!ほんと怒るわよ!」
周囲を警戒していた二人が、爆音を聞いて飛んできてくれていた。
「・・・・ほんとに、救助、だったのか?」
「・・・・あー、はい。すいません、紛らわしくて」
「・・・・・・・・・・・・ああ、そう」
今まで気を張っていた救助者の彼は、脱力して、その場にごろん、と倒れこんでしまった。
悪いことした、かな?
「・・・・あ。オレ状況把握しました。そらそーだわ!人形が『救助に来た』つっても信じられるわけねーわ!ここ『深層』ダンジョンだし!」
一息遅れで気が付いたソルと、もー、と唸って頭を抱えたエマ。和やかな空気が流れたが。
「あ、れ?」
マギが、ぐらついた。
緊張が切れて油断した?いや、力が入らない・・・・というか。
視界が、狭くなっていく・・・・・・
「マギ・・・・・・?」
エマから掛けられた声が遠い。それからすぐ。
マギの意識が――――――――途切れた。