プロローグ
初投稿です。よろしくお願いいたします。
【ダンジョンショップ『マギ・クラフト』店内にて】
「平和だねぇ・・・」
ぽつり、とカウンターにいる『女性』が漏らす。
この世界には珍しい赤髪、金色の目。
顔にはうっすらと傷のようなものが縦に2本。
口元が隠れるローブのような服をくしゃりと歪ませながら、
この店の店主である彼は、気だるげに「くあっ」とあくびをかました。
「こう平和だと、つい、なにか刺激のある出来事がおきないかなー、
とか考えちゃわない?」
とろんとした目のまま、なにやら物騒なことをのたまっている。
「・・・やめなさいよ、マギ。平和に過ごせるならそれに越したことはないわ」
棚の整理をしていた人物が、あきれた様子で言い返す。
こちらはシルバーの髪に褐色の肌。エプロン姿がよく似合う美女であった。
いまは店に誰もいないため、普段モードだ。
「いやー、ここ2、3日なーんにも騒動がないでしょー?
身体がなまってギシギシ言い出しそうでちょっとこわいよねー」
マギと呼ばれた店主はうーん、と背伸びをしながら、腕をぐるぐるとまわして
身体をならそうとする。
が、狭い店内なので棚に当たってしまい、バランスを崩した商品が落ちそうになってあわわ、と棚を押さえる羽目になっていた。
「・・・もう。鈍るわけないでしょ、あなたが」
と、美女店員はジト目で反論し、店主はそれもそっかー、などと能天気な返しでからから笑っていた。
実に平和的な光景だったのだが・・・・
どおおおおおおおん!!!
突然の轟音。そして震動、悲鳴、怒号。
瞬時に平和から緊急時に切り替わった状況に、今度はエプロン美女があわてて棚をおさえる。
「マギ!」
「だいじょぶ、エマは待ってて。商品よろしく」
さきほどだらけていた姿とはうってかわって、顔を引き締めた店主が、いつの間にかカウンターからエプロン美女「エマ」の傍に来ていた。
「あ・・・あの、気をつけて」
突然のギャップに少し頬を染めながら、それを悟られまいとうつむきつつ見送ろるエマ。
「ん。いってくる」
それを微笑ましく見ながら、出口の『暖簾』をくぐる――――
外は戦場だった。
巨大な芋虫のような化け物が、地面から飛び出して街の人間に襲い掛かっている。
人々は様々な武器で立ち向かっているものの、あまり攻撃が利いているようには見えない。
「ワームかぁ・・・ずいぶん大型だねぇ」
そんな中、悠長にそれを見上げているマギ。
武器などなにも持たず、まるで散歩に向かうような足取りでワームと呼ばれた芋虫へ近づいていく。
―――なぜか右腕を掲げながら。
「おい!あんた何してる!!さっさと逃げろ!」
その危機感のない様子に、芋虫と戦っている男が怒鳴りつける。
被害を広げまいと必死の形相だ。だが、マギはあわてる様子もなくただ、
「”装填(Loading)”」
一言、呟いた。
瞬間、マギの右腕が開く。
3本の筒が、まるで花弁のように腕の周りに展開し、そして。
「”発射(Shoot)”」
爆音とともに、筒から弾き出された3本の光弾が、芋虫へ突き刺さった。
光弾は芋虫の身体を貫通し、空中で霧散。
芋虫は、身体に大穴をあけられて沈黙。そのまま崩れ落ちた。
「うし、討伐完了!!」
呆気にとられる民衆を尻目に、一仕事終えたマギは、ゆうゆうと店に戻っていく。
「な・・・なんなんだ、あいつ・・・」
さっきまで死ぬ思いで戦っていた男は、一瞬で片をつけた救世主に向けて呟く。
「ああ、お前、この街はじめてか」
「え?」
そこへ、さきほどまで共に芋虫と戦っていた男が話しかけてくる。
「あれはな、うちの街の守り神だよ」
「守り神・・・?」
「そ。『深層』のダンジョンを知り尽くした、意思を持つアーティファクトにして
この街最初の店『マギ・クラフト』の店主―――」
こちらに気づいたのか、店に入る前にマギが振り向く。
「さっきは心配してくれてありがとー。なにか入用になったら、
うちの店よろしくねー♪」
気軽に振られるあの芋虫を撃ち殺した腕は、鈍く光る装甲でできていた
「マギ・クレイマン。神が創った奇跡だよ」
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