レンタルビデオの誘惑
2月14日、バレンタインデー。義理、本命に関わらずある程度の容姿があり、人と十分に話せる自信があれば自然とチョコが舞い降りて来る日。
なぜもう、今はそんなイベントとは無縁となってしまった僕がわざわざ、こたつのぬくぬくから抜けて外に出なければいけないかと言うと、そう今日こそ一週間前に借りたレンタルビデオの返却期限日なのだ。
レンタルビデオと言うのは映画好きの僕にとって、言わばとっておきのスイーツの様な物だ。借りて来たビデオをプレーヤーに入れ、部屋を暗くし、傍にはコーラと都合したお菓子。 それらを片手に見る映画ほど僕を楽しませてくれる物は無い。
しかしその反面、僕が使役するディスク達は完全に僕の奴隷と言う訳じゃない。 つまりそれらのディスク達はレンタルビデオ店の統制に置かれ、返却期限と言う烙印を押されて、僕に見出されるのを待っている妖精達なのだ。
彼らは2週間、もしくは1週間、悲しいことにもっと短いのでは3日という期限付きで僕のコンパニオンとなってくれる。 そしてもしその期日を一日でも過ぎようものなら、彼らは僕の物では無くなると同時に、僕の下に舞い降りた当初の輝きを失い、必死に僕に語りかけてくる。
「これ以上あなたの所に居てしまっては、あなたに延滞料が課せられてしまうわ。それは洗濯されずにカゴに溜まっていってしまう洗濯物の様に、後々あなたを苦しめていってしまうのよ。 私たちはまたいつか巡り会えるわ。 だからお願い、あなたのためにも、私をもう一度あの檻へと戻してちょうだい。 そしていつかまた、絶対よ、絶対にまたあなたの手の下に抱いて...」
そうして僕は朝6時に寝て、昼の3時に起きると言う絶賛不規則生活邁進中の中、川を隔てた橋の向こう側にある、妖精たちのザナドゥへと足を進めるのであった。