77 婚約発表そして
冒険者ギルド支部での用事をすべて終えてきた俺たち。
帰還してセンタキリアン王都に着いた俺たちは盛大に出迎えられた。
「よくぞ戻った! 我らが英雄たちよ!」
王様が超浮かれ具合。
子どもみたいにはしゃいでおるではないか、どうしたの?
「既に報せが届いておるぞ! 無事S級冒険者に昇格したようじゃな!」
「はい」
「めーでーたーいーぞぉおおおおおぉんッ!!」
王様落ち着いて。
国王乱心の噂とか流れたら国家の運営に支障をきたしますぞ。
「ついに! ついに我が国からS級冒険者が誕生したか! 史上初の快挙じゃぞ! いや知らんけど!」
「しっかり裏取ってから発言してください」
「少なくとも一、二百年は絶無だったはずじゃ、我が国出身の冒険者がS級にまで上り詰めたのは! もはやリューヤは我が国の誇りじゃあああああッ!!」
「あんまり俺ばかり持ち上げないでください。S級に上がったのは俺一人だけじゃないですので」
そう、結局ノエムもあのあとすぐに昇格が決まり、晴れて二人揃ってS級冒険者になったのだった。
一度に二人のS級昇格。
しかも同国出身。
これは地元も沸き返ることであろう。
「うむ! 我が国に一度に二人ものS級冒険者が誕生した。このような快挙は今後二度と起こるまい! それに加えてまたしても魔族を退け、冒険者ギルド本部を崩壊の危機から救ったと聞く。リューヤは疑いなき我が国の……いや世界の英雄じゃ!!」
周囲から沸き立つような歓声が上がる。
ここ王都城門前には人で溢れかえっており、王様もいればそれを守る衛兵、付き従うような文官貴族、さらには野次馬の平民さんたちなど詰めかける人々に身分の隔たりがない。
こんなして一体何を目当てに集まってきたのか?
俺か?
「レスレーザも大儀であったな。救援隊を率いよく働いた」
俺と共に戻ってきたレスレーザにも一声かける王様。
血を分けた愛娘なんだし当然か。
お姫様にして女騎士でもあるレスレーザは、今回魔族襲来を受けた冒険者ギルド本部の救援のために一隊を率いていた。
実際現地に駆けつけ、瓦礫の除去など復旧作業に尽力している。
「功績のすべてはリューヤ殿とノエム殿のもの、私は後始末をほんの少し手伝ったにすぎません」
「全世界に対して大きな役割を持つ冒険者ギルドへ、国として救援を送らぬわけにはいかぬし、それをリューヤとノエムに任せきりにするわけにもいかん。そなたが率いた救援隊は我が国の義務であり、その役割を果たしたのはそなたじゃ、褒めぬわけにはいかんのう」
という王様の表情はいかにも朗らかであり、娘の成長に満足しているかのようだった。
「さてリューヤよ、そなたも晴れてS級冒険者となり、世間に対してひとかど以上の男となった。もはや迂闊にそなたを侮るなど誰もできまい」
「はあ……」
「そこで、そろそろあの件を公にしていい頃合いかと思う」
王様、おもむろに振り向く。
語り掛ける相手を俺たちから、ここに集う全群衆へと切り替えるように。
さっきも言ったように兵士文官、貴族、平民と身分を問わず詰めかけております。
「我が国の親愛なる民たちよ。今日はそなたらに告げるべき慶事がいくつもある!」
王様語る。
ノリノリで。
「まずは我が国から新たなS級冒険者が生まれたことじゃ! これはかねてから噂になっておる通りで皆よく知っていることと思うが、ここにいるリューヤ、そして錬金術師ノエムが晴れてギルド評議会より認められ、S級冒険者を名乗ることを許された!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!
……って歓声。
「S級冒険者は、勇者と並び人類の頂点と称えられる存在。かようなる者を輩出せしことは母国にとって誉れじゃ! 余はセンタキリアン国王として、この二人を国の誇りと認める!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!
また歓声。
「さらにはこの二人が冒険者ギルド本部にて魔族を退けたこともまた知れておることであろう。その噂は本当じゃ。かつて我が国においても魔族を滅ぼし窮地を救ったリューヤが! 再び奇跡を起こしたのじゃああああああッ!!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!
歓声起こしすぎて疲れない?
「これほどまでに国に民に、世界に尽くしてくれたリューヤに、余は心よりの賞賛を与えたい! いや、形ばかりの賞賛では足りぬ、もっと形あるもの、実質的なもので報いねば、この英雄への礼節を欠くのではないか!? 皆もそう思うであろう!?」
「アジらないで王様」
その口調どことなくアジテーションになってますよ?
「そうだぁー!」
「英雄リューヤにはもっと報いが必要だあああああッ!!」
「こけぇえええええええッ!!」
呼応するな群衆!!
「そこでさらに皆への報告がある! 余は英雄リューヤへの褒賞と、より密なる結びつきのため彼を、我が娘レスレーザと娶せることにした!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」」」」」
昂揚がもう取り返しのつかないところにまで行った。
どうすりゃいいの、この群集心理。
「レスレーザは、側室との娘として王族の籍に入れていなかったが、我が血を受け継ぐ娘であることに変わりない! いや、近頃数々の功績を立て、今ではもっとも責任ある立場に相応しいのはこの子ではないかと思えるほどじゃ! ……そこで!」
「「「「「そこで!?」」」」」
「そーこーでー?」
「「「「「そこでッッ!?」」」」」
気持ち悪い引きやめろ。
溜めるな。
「S級冒険者リューヤを婿に取ったレスレーザをこそ、我が後継者、次期国主として正式に任命しようと思う! 命を懸けて民を守らんとした彼女こそ、国家の担い手に相応しいと思うのじゃ!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」」」」」
今日一番の歓声が上がった。
衝撃だが、この国の皆レスレーザが女王様になることに賛成なのか?
「レスレーザ様バンザイ! 女王バンザーイ!」
「あの気高き姫騎士が女王に! なんと望ましい!」
「あのバカ第一王子やアホ第一王女が即位したら亡国まっしぐらと思っていたのに! 危機が回避されたあああああッ!!」
「みずからが矢面に立って民を守らんとするレスレーザ様こそ我らの指導者に相応しい!」
「レスレーザ様の御母上も生え抜きの女騎士であられた! 余所の国から来た妃の子よりよっぽど受け入れられるわうおおおおおおおおッ!!」
レスレーザってこんなに国民から人気あったのか。
いや、あの第一王子第一王女が不人気すぎるだけか。
「国王陛下! ご英断にございます! これで我が国百年の安泰は約束されたも同じですぞ!」
「そうじゃろう? 余ナイス判断じゃろう?」
重臣ぽい人に両手を握られてまんざらでもない王様!
「なおかつ後継者指名と共に婚約発表を同時に行われる手際のよさ! しかも婿たる方が英雄リューヤともなればご文句の出ようはずもなく! 未来のレスレーザ女王の治世は既に盤石ですぞ!!」
「そうであろう、そうであろう?」
王様得意満面だった。
「ちなみに言っておくともう一人のS級冒険者ノエムもリューヤに嫁ぐ予定になっておるからな。無事挙式となればレスレーザとノエムは姉妹も同然よ」
「それはッ!! 実質二人のS級冒険者がレスレーザ様の両脇を固めるようなものではないですか! そんな賢王を誰が脅かせましょう!?」
「はっはっは! そういうことよ! レスレーザによる最強国家を残すことこそ我が務めよ!」
調子に乗るのやめてください王様。
とにかくギルド本部からの凱旋の場は、王様ならではのアジ能力によって見事婚約発表、王位継承者正式指名の場となり大盛り上がりとなった。
「も、申し訳ありませんリューヤ殿……!」
そんな中、話題の渦中にいるレスレーザが詫びに訪れた。
諦観の混じった気だるい表情をしている。
「国家を背負う覚悟はあったのですが、ここまで騒ぎになるとは……! 正式に女王になる前から心が折れそうです……!」
「まあ、俺が力の続く限り支えていくから……!」
一応、夫として……!?
「そうですよレスレーザさん! 私だってついています! 頑張って立派な女王様になりましょう!」
「ノエム殿!」
皆レスレーザに期待してるんだから強気に行こうぜ。
「よし、そこのヤツらよ。せっかくの発表会なのじゃからもっと国民サービスするがよいぞ」
「国民サービスってなんだ?」
せめてファンサービスと言ってくれ。
「腕でも組んでみてはどうじゃ? 新婚ほやほやの夫婦の仲睦まじさをアピールできるぞえ?」
「まだ婚約してる段階ですけどね!」
調子に乗りやがって王様!
少しは懲りろ!
「わ、私もリューヤ殿と腕を組みたいです……!」
「私も、私も!」
当のレスレーザやノエムが乗り気なのでおれも無下にはできなかった。
「それとも、仲睦まじさをアピールしたいなら他にチューという手段もあるぞ? というかそっちの方がアツアツっぷりをアピールできるんではないか?」
「ホント調子に乗るなよオヤジ!」
それはもはや公害の域ではないか!
仕方ないので三人で腕を組み、仲よしぶりをアピールすることにした。
俺、レスレーザ、ノエムの順番で……。
「なんか順番おかしくない!?」
男、女、女の面子なら男が間に挟まれるべきなのに、なんでレスレーザが真ん中なの!?
あぁ、未来の女王様だから!?
たしかにそうかもしれないけど納得いかない!