06 隠された三~七ケタ
「……んッ?」
浮かび上がったギルドカードの中から、特に目を引く一文。
【Lv】17
これどういうこと?
俺は改めて自分のパラメータを覗いてみる。
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【名前】リューヤ
【Lv】8,347,917
【所持スキル】なし
【ちから】27,493,300
【すばやさ】28,998,234
【たいりょく】31,009,616
【ちえ】25,444,671
【まりょく】26,418,077
【うん】21,560,111
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よかった……!
ちゃんとレベル八百万ちょっとだ。
パラメータは自分自身のものしか見ることはできない。
だからこその紙面に表示し、自分以外の人が確認できるギルドカードが重要な役割を果たす。
項目は簡易的だが。
「<スキルなし>は申告通りとして……、レベル<17>は駆け出しとして充分な数字だね。これが修行の成果ってことかい?」
そんなことないですよ?
俺としては青龍との地獄のような修行の真の成果が表示されないのは非常に不本意なのですが。
……あ。
そういえば青龍さんがいつか言ってなかったっけ?
「ロンドァイトさん。人間のレベル上限って<99>までって聞いたんですが、本当ですか?」
「んあ、モノの本にはそう書いてあるらしいねえ」
やっぱり。
ということは……。
「とは言っても実際に<99>まで上げたヤツなんて見たことはないけどね。冒険者でもレベル<50>まで上げれば充分A級になれるし、<60>以上なんて伝説の領域だよ」
「なるほど……」
つまりギルドカードは、登録者のレベルを<99>以内にしか想定していない。
だからそれを超える俺のレベルは表記可能な部分のみしか表記されない。
俺の本来のレベルは<8,347,917>。
その下二桁<17>だけがギルドカードに刻まれているということかッ!?
「なんか釈然としねえ……!?」
「レベル<20>が一人前と言われている中、<17>までよく一人で上げられたもんだ。しかも<スキルなし>で。よっぽど苦労しただろう?」
「はい……!」
その苦労がまったく報われた気がしない。
ここで『違うんです! 本当はこれの十万倍以上あるんです!』と言っても頭の可哀想なヤツとしか思われないだろうし、黙しておこう。
「犯罪歴もないから、まったく問題ないね。よし登録完了! 今日からアンタも冒険者だ! 一緒に頑張っていこうじゃないかよろしく頼むよ!!」
と言ってロンドァイトさんから肩を叩かれた。
これで冒険者になれたのか。
意外なほどに簡単に終わったな。もっと山あり谷あり紆余曲折あって感動的にフィナーレするのかと思いきや。
「あ、すみませんロンドァイトさん。もう一人登録をお願いしたいんですが」
「もう一人ってまさか……!?」
「そう、この子です」
終始ピッタリとくっついていたノエムを前面に押し出す。
彼女の事情は、奴隷商討伐の話の流れで伝えておいたからロンドァイトさんも斟酌してくれるとは思うが……。
「レアスキルを授かってしまったがゆえの葛藤かい。よくある話だね。よくないけど」
「お、お願いします! ここで働かせてください! リューヤさんと一緒に!」
涙ながらに懇願するノエム。
対してロンドァイトさんは眉間にしわを寄せながら……。
「スキルを授かったってことは祝福の儀は済ませたってことだろ? ってことはもう立派な成人だ。大人が決めたことを周囲がとやかく言えないし、そしてギルドは『来るもの拒まず』が信条……」
「じゃあ……!?」
「でもわかっているのかい。ギルドに登録するにはギルドカードに自分の情報を記載しないといけない。そこには所持するスキルもしっかり出る。それは先にやったリューヤの登録でしっかり確認したろう」
そこを指摘されるとノエムはうぐっと押し黙る。
何しろ授かったスキルがきっかけで奴隷商に攫われ、危うく売り飛ばされるところだった。
そのせいで人間不信にまで陥った彼女。原因となったスキルをそう気軽にさらせるものだろうか?
「……ギルドカードの選んだ項目を隠すことはできないんですか?」
「それはできない。スキルは特にね」
答えが重くのしかかる。
「何故ならスキルは冒険者にとって……いやあらゆる人間にとってアピールポイントだからだ。自分は何が得意で何ができる、っていうのを如実に表したものがスキルだ。パーティメンバーを募集する時、クエストの受注判断を下す時。所持スキルは大きな判断材料に使われる」
むしろ冒険者ならば最大限自分のスキルを喧伝し、スキルの性能=自分の価値を周知徹底させる。
中には『切り札は隠しておくべきだ』などと知った風な口を利くヤツもいるが、そんなものは素人考えだ。
勝負の場に登る前から切り札の心配などしても仕方がない。
「アンタにとっては辛いことだろう。それでもやるかい?」
「や、やります!」
丁寧なロンドァイトさんの説明に、深く頷くノエムだった。
「リューヤさんと一緒に冒険者になれるなら。私にはもう他にないんです。だからできることは精一杯やります」
「いい答えだ。やっぱり女は度胸だね」
新たなブランクカードを取り出すロンドァイトさん。
「じゃあ、この針で指を突いて血を滲ませな。一滴程度でいい。それをカードに吸わせればそれだけで登録完了だ」
「はい」
言われた通りの動作をそのままに実行し、カードに自分の情報を読み取らせる。
さっき俺がしたのとまったく同じように光り輝き、光が収まったカード面に刻まれたのは……。
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ギルド登録情報
【名前】ノエム
【Lv】1
【所持スキル】錬金王
【犯罪歴】なし
【所属】冒険者ギルド:センタキリアン王都支部
【等級】F
【適正ジョブ】錬金術師
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「これは……!?」
所持スキル……錬金王?
たしかに凄そうな名前だが……『王』とかついてるぐらいだしな?
「ちょっと待ってな」
ロンドァイトさん、カウンターの奥をごそごそ言わせて何かを取り出す。
それは一冊の本だった。
やたら分厚い。表紙には『スキル名鑑』との題名が刻んであった。
「えーっと、……『れ』、『れん』、『れんぞく』……いや『れんきん』……。あったこれだ!」
パラパラとページをめくり。
「スキル<錬金王>は……錬金術の最上位スキルじゃないか!?」
「え? 何それ凄いんですか?」
「そりゃ凄いよ! そもそも錬金術師は生産系の職業だけど、その中でトップクラスなんだ! 調合師と鍛冶師と機師をごっちゃにしたようなもんで、そのすべてに精通している!」
「は、はあ……!?」
よくわからんがロンドァイトさんの迫力に気圧される俺。
「錬金術師が一人在住しているだけで、その街の価値が倍に跳ね上がるっていう話もある。その中でも錬金術師適性を最大まで引き上げる<錬金王>のスキルは間違いなくレアスキルだよ! スキル名鑑の格付けによると……SSSランク!!」
「なんか凄そうなのきた!?」
ロンドァイトさんは一気にまくしたて、息切れするまで続けると急に静かになり、背後にあった椅子へ倒れ込むように座った。
そして天井を見上げて、息を吐く。
「……アンタの故郷の連中が血眼になるのもわかるよ。こんな凄まじいスキルが降って湧いたら誰でも浮かれちまうだろうね」
「今のロンドァイトさんみたいにですか?」
「そうだよ! 煩いねぇ!」
俺たちがやりとりしている間も、当の本人であるノエムは黙り込んだまま。
「改めてスキルの恐ろしさってものを実感するよ。超強力なスキルは、ただ使い物になるって概念を超えてすべてを変えちまうんだ。スキルを所持した本人も、その周囲さえも……」
そしてロンドァイトさんはノエムに向かい合い、真っ直ぐ語り掛ける。
「いいかいお嬢ちゃん。アンタの授かっちまったスキルはおいそれと扱えないものだ。アンタがそのスキルを使いこなせるようになれば今まで誰もできなかったことができるようになる」
「た、たとえば……?」
「不老不死や、死者を甦らせる霊薬を作り出せるかもねえ」
ひえええ……。
「だからそのスキルを持っちまったアンタ自体を、アタシたち全員が慎重に扱わないといけない。アタシの意見を言えば、アンタはここよりもクラフトギルドに登録した方がいいと思う」
「クラフトギルド……?」
「さっき言った生産職の連中が集まるギルドさ。この子を正しく伸ばしていくなら専門家に任せた方がいいだろう?」
「嫌です」
ノエムは即答した。
「私は……、リューヤさんと一緒じゃなきゃ嫌です。私のことを助けてくれたリューヤさんしか信じられません。今は。だからリューヤさんと離れるのは嫌です……!」
初日投稿はここまでになります。以降はしばらく一日一回、毎日20時更新の予定です。
よろしくお願いします。