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68 天翔ける……

「あ、アタシも行くにゃ! A級冒険者であるからには最後までギルドのため戦うにゃ!」


 シーガルは健気に言うが、戦いに行こうにもそれは不可能だと見ればわかった。

 ギルド本部が魔族によって陥落するか否かの瀬戸際。

 一秒でも早く救援を呼ぼうと限界以上の速度で、ここまで走ってきたのだろう。

 足が千切れんほどの全力以上を出して。


 その代償はキッチリと彼女の体に負担として表れている。

 体力は尽き、筋肉は大けがを負ったかのようにガタガタ。立っているのもキツいはずだ。


「キミは自分の使命を立派に果たした。あとは俺たちに任せて、お城で休ませてもらいなさい」

「……ごめんなさいにゃ」


 いや別に謝るようなことは。


「あの時バカにしてごめんなさいにゃ。<スキルなし>だからって見下して、アタシが間違ってましたにゃ」

「そっちのことかよ」


 しかしシーガルの表情は真剣そのものだった。


「ルブルム国でも、大津波で国ごと沈みそうなのを救ってくれたのはアナタだったにゃ。アタシたちも街にいたのに、どうしていいかわからずオタオタするだけだったにゃ。あの時も今もアタシたちは役立たずで、バカにしたアナタに助けてもらうしかないにゃ……!」


 大きく頭を下げるシーガル。

 フラフラでつんのめりそうになるのを慌てて支える。


「全部謝りますにゃ……! だからギルド本部の人たちを助けてほしいにゃ! あそこには友だちやお世話になった人たちがたくさんいるにゃ! 死んでほしくないにゃあああ……!」

「わかっている。全力を尽くすよ」


 俺の返事に安心したのか、潰れかけの体を支えていた緊張が切れ、崩れ去るように意識を失ったシーガル。


 彼女の体をレスレーザに預ける。


「俺に遅れてでもいいんで、援軍を率いて来てくれないか? 向こうがどういう状況になっているかわからない。人手が必要になるかもしれない」

「アナタが望むなら何なりと。それに弱き者を守るのは騎士の責務です」


 女騎士レスレーザの本領発揮だな。

 後顧を託して憂いなく、俺はレコリスを引きずり出陣する。


「嫌だ! 嫌だ行きたくない!! 自分から殺されに魔族の下へ行くなんて嫌だああああッッ!?」

「うるせえ」


 シーガルやレスレーザの覚悟を少しは見習ったらどうだ?


 さてあとは……。

 ノエムだが……。


「リューヤさん! 準備完了しました!」

「お、いた」


 スッと姿が見えなくなったが、この短期間で何してたの?


「外へ出てください!」



「何だコレ?」


 ノエムに言われるまま城外に出てみると、大空の下に見慣れぬ正体不明の物質があった。


「何だコレ?」

「高速移動用グライダーです!!」


 だから何それ?


 説明されてもまったくわからん。

 木で組まれて、その間を薄い布のような膜で覆われていること以外なんもわからぬ物体だった。


 何の用途に使われるのかも無知な俺には想像もできん。


「リューヤさんが、ちょっぱやでギルド本部へ急行しないとという話になっていたので、用意しておいたんです! 錬金技術の粋を凝らして組み上げたグライダーの機体は空樽よりも軽く、風を掴めば空を飛び目的地まで一直線で行けます」

「マジかよ」

「さらに錬金技術で合成した推進剤を使い、音以上の速さで飛ぶことができます!」

「マジかよ」


 錬金術万能すぎくない?


 ノエムの便利さが全知全能の域に達しつつある。


「目的地まで走っていくつもりだったが、そんなに早いなら乗っていこうかなあ?」

「お城の人に冒険者ギルド本部の位置と距離を聞きました。これに乗っていけば十秒以内に到着できます」

「乗ろう」


 えーと、どこに乗ればいいのこれ?

 これが座席?

 そうすか。


 簀巻きにして身動きできないレコリスはこの荷台に詰め込むとして……。


「よし準備完了ですね! それでは発進しますよ!」

「待ってノエムも行くの?」


 当然のように前部座席に座ってハンドルを握っておりますが?


「当然です! リューヤさんはグライダーの操縦できるんですか?」

「できません」

「私が作ったものですから、私が操縦できるのは当然です! 見ていてください、私の操縦技術で十秒を八秒に縮めてみせます!」

「頑張って」


 俺とノエムとアビニオンと、他。

 結局いつものメンバーで固定。俺たちらしいともいえるが。


「アビニオンは? 霊体だから重さないし乗ってもよさそうだよね?」

『わらわは瞬間転移で先に行くぞえ。向こうで会おうぞ』

「コイツ!?」


 さすが超越者、できることはビックリするほど多かった。


 俺たちは移動用の機体に乗り込み、猛スピードで出発進行。


「では、エンジン点火ー」

「うおおおおおおおおおおおおおッッ!?」


 飛んだ!?


 半信半疑だったけど走り出したら本当に空を飛んだ!?

 うわああああ、地面がどんどん離れていくうううううう!?

 大空に抱かれているうううううッ!?


 これが空を飛ぶ感覚!? 気持ちいい!


 などと感想を様々浮かべているうちに……!


「着きますよー」

「もう!?」


 そういや十秒以内って言ってたからなあ。


「これってどうやって止まるの?」

「止まりませんよ。地面にぶつかって粉砕されるだけです」

「なんだって!?」

「なのでリューヤさん、追突の寸前で私を抱えて飛び出してくれませんか?」


 無茶を仰る!

 しかしやんなきゃレベル八百万の俺はともかくノエムが五体が粉々になって死ぬ!


 仕方なくノエムと、あとついでに簀巻きのレコリスを抱えてグライダーから脱出!


「うおおおおおおおッ!?」


 ゴロゴロ地面を転がりながら衝撃を和らげ着地成功したのだった。

 その間グライダー本体は、推察通りに地面にぶつかって大破、粉々となった。


「飛び立つことはできても着陸はできない。リューヤさんの能力頼みで強制脱出するしかない。まだまだ未完成のシロモノです」


 地面に降り立ったノエムは、バラバラとなったみずからの作品の残骸に手を合わせた。


「アナタの犠牲のお陰で緊急事態を乗り切れます。この経験の果てに、必ず完成品を拵えてみせます」


 決意をあらたに顔を上げるノエム。


「時間を取ってしまってすみません。行きましょう!」

「いや、ノエムのお陰で劇的に時間が短縮された。たしかにここは冒険者ギルド本部だ」


 目の前に、要塞のような建物が聳え立っていた。


 四方をグルリと取り囲む壁……城壁か。

 敵を内部に入れさせないための設備は強固で高く、冒険者という戦闘職の本拠地に相応しい物々しさだった。


 しかし、城壁の内側から幾筋もの煙が上がっている。


 明らかに異常の証だった。

 それでいて耳に届く音は、風のざわめきしかなく、恐ろしいほど静か。


 戦闘中ならもっと騒然としていていいはずなのに。


「まさか……、もう?」


 これだけ急いできたのに、間に合わなかった……!?

 城壁の内側は魔族によって根絶やしに。


『……お、やっときたかえ主様ども。遅かったのう』


 そこへ『ドロン』と音を立てて現れたアビニオン。

 瞬間移動で先行したというが……。


『主様たちを待っている間暇なので、先に様子を調べてみたぞえ。あの壁の内側の様子をな』

「マジで!?」


 俺たちとアビニオンの到着時差って精々数秒程度しかなかったはずだけど!?


「どうだった!? 中の人たちは……、やはり皆殺し……!?」

『いや、魔族らによって制圧はされていたが、人間どもは皆無事じゃ。拘束され、自由を奪われてはおるが生きておる』

「なんと!?」


 最悪の想像をしていただけにアビニオンの報告に安堵が沸き上がる。

 そして同時に不思議にも感じる。


「魔族が人間を……殺しもせずに捕まえている?」

『そうじゃ、この件おかしなことばかり起こるのう。普通、魔族が人間を生かしておく理由などないはずなんじゃが』


 これまでのパターンであれば、あらかじめ襲ってくると予告し、単独で襲来し、立ち塞がる人間は遅疑なく皆殺しにするはずの魔族が……。

 予告なしの奇襲を加え、しかも数人単位ではあるが徒党を組み、しかも制圧しながら人間を殺さず拘束するのみ。


「セオリーから外れすぎ、か……。何か理由に心当たりはないかアビニオン?」

『さあのう、所詮魔族など我ら魔神霊からすれば虫けらのような存在ゆえ。虫の考えることにそこまで察しはつかんよ。本人どもに聞いた方が手っ取り早いのではないかえ?』

「そうだな」


 中の人間たちを解放するためにも、俺は行く先を共にしてくれた皆と連れたって城壁の中に入る。

 中で待ち受けるのはいかなる魔族か。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 簀巻きのレコリスは草
[一言] かなり薄っぺらい設定すぎて、最早限界、、、最後まで読む気がしない
[良い点] やはりスキルの力は偉大だな。
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