60 S級冒険者になろう
わぁい。やったぁ!
A級冒険者になれるぞ!
次の試験なしにいきなりA級になれるなんて、やっぱり善行は積んでおくべきだなあ!
ん? ちょっと待って?
その次にまた聞き捨て置けないことを仰りませんでした?
たしか……。
「S級冒険者……?」
っていうのはたしか、冒険者等級でA級の上にある最上等級のことですよね?
とはいえ、あまりに就任条件が厳しくてA級にまでなった猛者ですら資格を得られず、世界中にもほんの数人しかいないとか?
「A級冒険者は各国に数人ずついる程度だが、S級冒険者は世界に数人。真に選ばれた者だけへ与えられる究極の称号じゃ」
「あまりに希少すぎてシステムに組み込めず、それゆえ実質的にA級冒険者を最高ランクとして運営されるほど。我がルブルム国では過去数百年を遡ってもS級冒険者を輩出した記録がない。それほどに希少なのだ」
ルブルム王様まで説明に加わって、S級冒険者のどれだけ凄いかを解いてくださる。
なるほどすげえ。
「しかし待ってください? 俺たちが受けにきたのはA級昇格試験ですよ? それなのにAをすっ飛ばしてS級なんて、いいんですか?」
「A級についてはそなたたち二人は合格決定じゃ。ワシの評議員としての権限をもって確約しよう」
「やったー」
俺たちA級冒険者になれたぞ。
しかし何故だろう、まったく達成感がない。
こんな話の流れでポコッと言われたからだろうか。
今回の最終目的であったはずなのに、それが果たされてまったく実感が伴わないのはいかがなものかと。
「はわわわわわわわ……?」
ほら、ノエムも事態についていけすに困惑している。
それにもう一つ、A級になったという実感も伴わないうちに、さらに上のS級になろうぜって話まで出てきてるんだぞ。
目まぐるしすぎるわ!
「S級への昇格は試験によって決められぬ。A級冒険者が、みずからの冒険の果てに実績を打ち立て、その中で偉業と呼べるものに我ら評議会が話し合って判断を下す」
「あくまで実績が必要だと?」
「そうじゃ、そしてそなたたちはもう既に実績を挙げている。前代未聞の大功績が」
うーん……。
もしかして昨晩の、魔神霊オケアネスとの攻防のこと?
「国一つを救った功績など、過去に昇格したS級冒険者でもなかなかないわ。文句なしにS級へ推薦する根拠となる」
「いや待ってください」
この国を大津波から助けられたのは決して俺一人だけの功績じゃない。
もちろんノエムの働きもあるが、アビニオンの助言もあってのことだし、それに避難誘導に当たってくれた多くの冒険者の手柄でもある。
「もっとも大きな手柄を立てたそなたたちを差し置いて他の者たちを評することはできまい。皆、納得してくれるはずだ」
「そうでしょうか……!?」
「そのためにまず、そなたをA級とした。その決断はワシ一人でも可能じゃが、S級には他の評議員たちとの合議がいる。ここでの諸々の案件が片付き次第ワシは冒険者ギルドの本部へと戻り、評議会に提案するつもりじゃ」
なんだか凄いことになってきた。
元々A級冒険者になることが目的であったというのに、気づけば大ジャンプでさらに上のS級冒険者になろうとしている。
あまりに急ピッチなペース過ぎて、地に足ついてない感覚がする。
「リューヤさん……! 私がS級? 本当にいいんでしょうか? SはSでも『しょぼい』のSでは……!?」
現実を受け止めきれない人はここにもいた。
ノエムしっかりして。
「『しょうもない』のSかもしれないな」
「『世知辛い』のSかも!」
からかうのは楽しいけどこれ以上は可哀想なのでやめておこう。
「我が国を救ってくれた英雄なればS級の叙勲は当然のこと。私からも大いに口添えさせてもらおう」
再びルブルム王が口を開く。
「無論それとは別に、我が国からも卿らからの恩に最大限報いるつもりだ。何か望みはあれば遠慮なく申してみよ」
「…………」
俺は一瞬考えてみたが……。
……考えるまでもないな。
「ゼムナント王子への仕置きをしっかりとお願いします。騒動の発端は、アイツの過剰な野心にある」
「その通り。あの甥は、親族の贔屓目で見たとしても王の器にはとても届かん。それなのに過ぎたる夢を抱くのは母方の縁がある我が国を後ろ盾と思っているからだろう」
ルブルム王様は寂しげな視線で一瞬、虚空を見詰めた。
甥とはいえ親族、そんなアイツがどうしようもない唐変木だと知れば、色々寒々しい気分になるか。
「彼の処分はセンタキリアン王に任せるとしても、我が国は彼との縁を切り、どんな些細な支援もしないことを約束しよう。それでよいか?」
「ありがとうございます。……できればもう一つ」
「?」
俺は母国センタキリアンで、次期女王に指名されたレスレーザが庶子であること。
後ろ盾もなく、立派な心構え&実力と実績だけで王座に就こうとしているということを伝えた。
「ゼムナントみたいなのが蠢動するのも、レスレーザの足元がしっかり固まってないからだと思うんですよ。それを改善するために……」
「なるほどわかった。他国の事情においそれと口出しはできんが、そのレスレーザなる女性が即位する時には我が国から大きな祝意を示そうではないか」
「助かります」
他国から大きな賛同を得られれば、レスレーザにとって少なくとも追い風にはなるはずだ。
A級冒険者になるという目的を果たしただけでなく、けっこういいお土産まで貰って、俺たちはルブルム王国でも用をすべて果たしたのだった。
「……あ、そうだ。壊したダンジョン元に戻しておきますね」
「えッ?」
忘れたまま帰るところだった。
危ない危ない。
◆
こうして正式なA級合格の認可を頂いた俺たち。
『こんな簡単でいいの?』というにはかなり不安もあるものの、そこで尻込みしてもしょうがないから、この街のギルド支部へ行って正式な手続きを済ます。
俺とノエム、それぞれのギルドカードを更新だ。
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ギルド登録情報
【名前】リューヤ
【Lv】17
【所持スキル】なし
【犯罪歴】なし
【所属】冒険者ギルド:センタキリアン王都支部
【等級】A
【適正ジョブ】すべて
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ギルド登録情報
【名前】ノエム
【Lv】38
【所持スキル】錬金王
【犯罪歴】なし
【所属】冒険者ギルド:センタキリアン王都支部
【等級】A
【適正ジョブ】錬金術師
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【等級】A。
もう一回確認するぞ?【等級】Aだ!!
「やったー! リューヤさん私たちA級ですよおおおおお!」
「そうだなやったなああああッ!」
ノエムのレベルがしれっと<38>まで上がっているのも空恐ろしかったが。今刮目すべきは等級の欄!
金色に輝く『A』の文字! エースの『A』! いや知らんけど!
「A級になるとギルドカードの色も変わるんですね! 金色です! 金ぴかですよ!」
「しかもプリズム加工してあるぞ! キラキラで目に眩しい!?」
しかもこれがほどなくS級になるかもしれないというから恐ろしい。
S級になったらギルドカードは何色になるんだろう?
やはりゴールドカードの上はブラックカードだろうか?
「よう、お先に試験合格したんだってな、おめでとうだぜ」
ギルド前で喜びに沸き返っていると、親しげな雰囲気をまとった一団が近づいてきた。
「おお! アナタ方は!」
モヒカン三人組の皆さん!
それに他にも数人、ダンジョン脱出の苦楽を共にした<スキルなし>の受験者仲間ではないか!
「オレたちはこれから最終試験さ。その結果如何でA級になれるかが決まる」
「お前さんが一足先にA級に上がれたのは当然だと思ってるぜ! お前さんが大暴れして津波防いでくれなかったらオレら全員死んでたんだからなあ!」
「本当に、メチャクチャな野郎だぜ! ヒャーッハッハ!」
いい加減このテンションにも親しみが湧いてきた。
なくなったら寂しいとか思いだしたら、どうしよう?
「これだけの人たちが最終試験に残ったんですか?」
「ああ、災害時の活動を評価されて、十人ちょっとが残った。奇しくも全員<スキルなし>だ。スキル持ちも通常一次で何十人か通ったのに軒並み不合格になったようだなあ」
ビステマリオ評議員さんから聞いた。
オケアネス襲来に恐怖し、一目散に逃げだした冒険者は皆すべてスキル持ちの能力者であったと。
与えられた力に頼るあまり、碌なピンチも経験してこなかった彼らは、自分の力がまったく通用しない状況に陥った時逃げるしか選択肢を持たなかった。
常に不利な状況で、崖っぷちを生き延びてきた<スキルなし>に粘り強さで届かなかったのだ。
モヒカン三人組を含めて十数人。
この中から新たなA級冒険者が選出される。
「折角もらったチャンスだ。お前さんのあとに続けるよう全力を尽くすぜ」
「健闘を祈ります」
応援と共に握手を交わした。
最終試験に臨む一人一人の全員と。
「ゲーッヘッヘッヘ! じゃあ行くか野郎ども! 使える<スキルなし>がリューヤの兄ちゃんだけにあらずってことを、ギルドのお偉い方にも教えてやろうじゃねえか!」
「「「「「「ヒャッハーッ!!」」」」」」
ああッ、他の受験者たちにも伝染した……!
この不屈に包まれた集団が無事最後の試練を突破できるかどうか、俺も見届けなければならないのかもな。
少し更新お休みをいただきます。次の更新は1/2(土)の予定です。