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50 試験急転

 試験官が逃げた。

 仕方がないので自分らで元の試験会場へ戻ることにした。


 徒歩にて。

 俺たち<スキルなし>にはそれ以外の移動手段がないもんな。


「でもダンジョンに無理やり移動させられたのはスキルによってだから、どういう道順でどれくらい歩けばいいか全然わからんな。どうしたものか……?」

「オレたちに任せておけば大丈夫だぜヒャッハー!」


 モヒカン先輩!

 またしても頼りになる!


「オレらはあのダンジョンにも探索経験があるって言ったろ? 周囲の地理情報もしっかり頭に叩き込んであるぜー!」

「元会場のコロッセオは充分徒歩圏内だぜー! オレたちが引率するからテメエらついてきやがれー!!」

「地元の方々の迷惑にならないように二列で歩くんだぜー! 荷車や子どもの飛び出しに注意しろやー!」


 モヒカン先輩たちの見事な引率によって俺たちは些細な交通トラブルもなく闘技場へ戻ってくることができました。


 到着してみると、アビニオン越しに覗いていた乱闘騒ぎがすっかり収束し、人もまばらになっていた。

 俺たちの飛ばされる前に数百はいた人混みが、今は二十人にも満たない。


「おやおや、キミたちは?」


 入場してきた俺たちに気づいたのは、例のリーダー格の試験官。

 ソーエイデスとかいう現役A級冒険者だったか。


「キミらはセンテンスに落とされた<スキルなし>たちじゃないか。何しに戻ってきた?」

「試験の続きを……」

「戻ってきたということは諦めて失格になったのだろう? 現地解散でもよかったというのに、わざわざ戻ってくるとは律義な連中だ」


 こっちの話を聞きゃあしない。


「こちらは今しがた一次試験が終了したところで、脱落者はさっさとお帰り頂いたよ」

「それで前より人数が少ない……?」

「今年は不甲斐ない候補者どもばかりだ。一次試験でこの程度しか残らないとは。確実に受かりそうな人員が最低一人いることだけが救いだな」


 そう言って試験官の視線が向かう先にノエムがいた。


 彼女も一次試験を突破したようだ。まあ映像で確認したけど。


「まあ不合格のキミたちには関係のない話だ。さあキミらだって未練がましくしてないでさっさと帰りなさい。無能者のキミらは忙しなく日銭を稼がないと明日の蓄えだって尽きるのだろう? 無能者に相応しいくだらない日常を送りたまえよ」

「受かりましたが」

「うん?」

「予備試験に合格しましたと言っているんです。だからこうして戻ってきた。本試験を受けさせてください」


 そう言うとソーエイデス、鼻でせせら笑って。


「冗談も休み休み言いなさい。……まったくこんな無能どもの相手を私にさせるとはセンテンスのグズは何をしているんだ?」

「あの痩せた試験官なら早引きしましたよ」

「早引き……?」

「試験の途中でダンジョンが崩壊しまして、その責任を負うのが嫌で逃走しました。代表試験官さんへ『お前が全部の責任をとれ』と伝言して」

「なん、だと……!?」


 ソーエイデスの顔色が変わった。

 そして乾いた笑みを漏らし……。


「そんな……そんなバカな……!? ダンジョンが崩壊するわけが……何かの間違いだろう? 勘違いとか見間違いとか?」

「いえ、確実に崩壊しました」

「バカを言うな! ええい無能相手では話にならん! グリンドこの場は預ける、私はルブルム国有ダンジョンがどうなったか、この目でたしかめてくるぞ!」


 と言って駆け去っていった。

 俺が報告してやったんだからわざわざ確認するまでもないだろうに、時間を無駄にするな的なことを自分で言ってたのにねえ。



 一時ほどして戻ってきたソーエイデスは、息も切らして顔面蒼白だった。


「本当になくなっていた!」

「だからそう言ったじゃないですか」


 報告したことを自分で行ってたしかめてくる二度手間。


「ウソだ! どういうことだ!? ダンジョンが消滅することなんてありえるのか!? センテンスのヤツは一体何をやらかしたんだ!?」

「強いて挙げれば、彼の試験設定に不備があったってことでしょうか?」


 彼のスキルでダンジョンの出入り口は封鎖され、物理的にはどうしようもないのでダンジョンそのものを崩壊させるしかなかった。


 直接手を下したのは俺だけども、そうせざるを得ない状況を作りだしたということで試験官側に落ち度がある。

 証明完了。


「何をバカな……、ダンジョンを破壊したのは……お前、お前だというのか……?」

「試験をパスするためにやむを得ずしたことです」

「何をバカな……!?<スキルなし>……スキルのないお前がそんなことできるものか! そんな自分の無能を棚に上げて出まかせを抜かすんじゃない!」


 信じないなら信じないでいいけど。


「……いや、できるできないなど今さらどうでもいい。お前がやったと言うなら、その罰を受けてもらう。誰か! この者を拘束しろ!」

「やったことを認めないのに拘束するのか?」


 それは筋が通らないんじゃないか?


「煩いぞ! ここのダンジョンは、ルブルム国が保有するダンジョンだったんだ! それがどういうことかわからんのか!? この国の好意により、我々は国有ダンジョンを使わせてもらっている。そういう形式なんだ! それを我々の管理下でダンジョン崩壊となったら全責任が我々に来るではないか!」


 俺の襟首を掴み上げてくる。


「冒険者ギルドはルブルム国に莫大な賠償金を払わなければならなくなる! 他の国も、自国の国有ダンジョンが潰されるのを恐れて、どこも場所を貸し出さなくなってしまう。A級昇格試験が今後開催されなくなるぞ!」

「その落ち度を作ったのはアンタたちだ」

「煩い! こうなればすべての罪をお前に背負ってもらい処分するのが一番いい!<スキルなし>の無能一人の命でことが収まるのだ! 役立たずが役に立って死ねる幸運に感謝しろ!」


 この言いようにだんだん腹が立ってきた。


 実のところ、俺はダンジョン破壊したことをそこまで重大に受け取っていない。

 何故なら、あの作戦を決行する直前アビニオンに教えてもらったからだ。


 ――『実はダンジョン核ってなー、わらわたち魔神霊が生み出すんじゃなー』


 と。

 超越者の一種である魔神霊。その超絶の力を持ってすればダンジョンすら作り出すことも容易い。

 俺たちがアビニオンと最初に出会った時、ヤツが居を構えていた幻の城も広義におけるダンジョンだった。


 ――『主様が望むのであれば、新たにダンジョン核を生み出してもよいぞ? 何せわらわは主様の望みなら何でも従うのじゃからなー』


 そんなアビニオンのお言葉に甘えてダンジョン核を破壊した。ダンジョンが消え去っても、新しいダンジョン核を持ってくることで元の状態に戻せると思って。


 しかしコイツらのこんな態度を見せられると、すべてを話して安心させてやろうという気持ちも失せてくる。


「そもそも、アンタたちがクリア不可能な試験課題を出したのが始まりだろう?」


 気づけば言い返していた俺。


「アンタたちは、俺たち<スキルなし>を合格させる気が最初からなかったんだ。だから無茶苦茶な試験で落とそうとした。無茶なトラブルに無茶な対応で乗りきろうとするのは当然のことだ」


 その結果お前たちが困った状況に陥ろうとして、俺たちが何を気にしてやらなければならない?

 元々困った状況に追い込まれたのは俺たちだ。


「アンタたちの問題は、アンタたちが解決するんだな。現役A級冒険者なんだろう? 優れたスキルでトラブルを華麗に解決してくれよ。無能力者との圧倒的な違いを見せてくれ」

「貴様ああああああああッッ!?」


 激昂する試験官。

 そんなリーダー格を押しとどめる大男がいた。


「ソーエイデス、ここはオレに任せな」

「グリンド?」


 最初に壇上に並んでいた四人の試験官の一人。

 もっとも体つきがガッシリした大男か。


「要はコイツにすべての責任を押し付けて、押し潰せばいいんだろう? だったらそんな簡単なことにリーダーの手を煩わせることもねえ、この現役A級冒険者グリンド様がゴミ処理を買って出てやるぜ!」


 ところで周囲には、一次試験の乱闘で散乱したのであろう冒険者たちの武器や防具が無数に散らばっていた。


 いずれも金属製。

 それらがひとりでに動き出し、一点に向かって集まっていく。

 その一点というのが大男だった。


 グリンドとかいう大男は、集まった金属製品を身にまとってさらなる巨大な体躯へと変貌していく。


「これがオレ様のAランクスキル<鋼鉄外骨格>! 金属を集めて身にまとい鎧とする! しかもただの鎧じゃねえ! スキルによって一旦細かく分解され、繊維状にまとまった金属は、筋肉と変わらねえ! オレは文字通りの鋼の筋肉をまとう男だ!」


 その解説が本当なら、ヤツは集めた金属に比例して防御力だけでなく攻撃力も上がることになる。


「<スキルなし>の分際で、A級の拳に当たって死ぬことを誇りに思え! 食らえ必殺アイアンナックルぅーーーー!」


 岩石もかくやという大きな拳が俺へ向かって走り、命中する。

 俺とヤツの双方に、それなりの手応えが走った。


「おご? おえええええッ!?」


 先にうめき声を上げたのは向こう。


「おげええええッ!? 何故だ!? 何故鋼鉄で覆ったオレの拳の方が砕けるううううッ!?」

「お前がスキルで金属を集め、鋼のように硬い拳を持つのなら、それに対抗する手段はただ一つ……」


 俺の生身が、鋼を越えた硬さを持てばいいだけのことだ。


 今度は俺の何の変哲もない拳を叩きこむ。

 鋼で包まれてはいないが、ただ鍛えに鍛えまくって鋼以上の硬度を持っているだけの拳だ。

 それが当たった途端、相手は全身にまとった鋼の筋肉をバラバラに散らして、大きく宙を舞った。


「おげぶうううううッ!?」

「グリンド!? そんなバカな!?」


 吹っ飛ぶ仲間に、理解しがたい表情を見せるリーダー格の試験官。


「たしか一次試験は、アンタたち試験官と直接手合わせするんだよな? 一定水準の実力を見せれば合格か?」


 だったら、試験官の一人をぶっ飛ばした俺は一次試験クリアと言えるだろう。


「そして試験官の中で一番強いアンタをぶっ飛ばせば、A級冒険者に正式合格か?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 「この言いようにだんだん腹が立ってきた。」<-- そう言われる前に力を出せば良いじゃん 何で毎回バカ扱いされた後に力をみせてくれるのか。
[気になる点] 新しいダンジョンとは言っても、構造・モンスター・素材が全て一致した物を用意しない限りそこで仕事をしていた 人は困るだろうし、やっぱり軽く考えるのは良くないと思う。 あと、試験官達はとあ…
[気になる点] 後で直そうがどうしようが冒険者同士の揉め事で一度ダンジョンが崩壊したという事実は変わらないし、結局ギルドの責任問題になるのでは? 組織自体にケチが付けば上をすげ替えたところで信用回復は…
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