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34 英雄がいる街で

 俺のことを取り巻く空気が明らかに変わった気がする。


「そりゃそうだろう、今やアンタは有名人だよ」


 ロンドァイトさんに相談してみると、呆れ顔でそう言われた。

 彼女は、ここ王都の冒険者ギルドでギルドマスターを務め、経験豊富で見識豊か。さらにワイルド系の美人。


 相談相手にはもってこいであると実際に悩みを打ち明けたところ。


「ウチの国内で魔族が滅ぼされた話は、いまや全土に広まっているからね。子どもですらもう知ってるよ」

「悪事千里を走るってヤツですかね?」

「悪事じゃないだろう? むしろ大善行じゃないか魔族を殺すなんてさ?」


 どうだろう?

 魔族相手でも一応殺生なので善行悪行で言うなら『悪』にカテゴリ分けしたいと思う俺である。


 無論それは俺の個人的感想にすぎず、むしろ戒めと呼ぶべきもの。


 魔族が、恐るべき人類の敵であることに変わりはない。なのでソイツを倒したことに街中沸き返るのは理解できるし、水を差すべきことでもないだろう。


 ただし、その魔族殺しを誰が行ったかが漏れまくっているのは何故だ?


「街中で人とすれ違うたびに言われるんですよ。『アナタが魔族を倒した救国の英雄ですね!? 握手してください!』と」

「女からは『抱いて!』とか言われるんだろう?」

「何故それを!?」

「カマかけだけど、マジでそんなこと言うアバズレがいるんだね……!?」


 そう戦場の最前線で起きたことは、何故か詳細に至るまで街まで伝わっていた。


 本来、撃退できただけでも大戦果の魔族を復活不能なまでに砕き殺したこと。

 それをたった一人で行った者がいること。

 ソイツは冒険者ギルドに所属する一冒険者で、しかもソイツはスキルを何も持っていない無能力者であること。

 ソイツの名はリューヤ。

 この俺だ。


「しかも何故か、外見的特徴まで詳細に知れ渡ってるんですよ!? それで道行く人に気づかれる!?」

「報道ギルドが挿絵付きのペーパーをバラ撒いてたからね。それがまあよく似ている!」


 そんな社会システムが!?

 ちくしょう、ヒトの顔を紙面に乗せるならせめて許可を取りやがれ!


「魔族に攻め寄せられ、軍壊滅の大ピンチだったことには箝口令が敷かれていたけど、勝報ともなれば掻き鳴らすように言い広めるもんさ。ただし今回は他にも事情がないではないがね」

「と、言いますと?」

「今回の勝利を詳細にわたって知らないヤツがいない規模まで周知徹底させておかないと、教会があることないこと言い触らして自分の手柄にしかねない、ってことさ」

「ああ」


 本来魔族への対抗には教会が、要請を受けてしかるのちに支援を送るのが決まり事となっているそうな。

 勇者や回復術師を派遣したり。


 ただし今回の魔族戦には、教会のそういった動きは一切なかった。


 レスレーザを教会関係者と結婚させるため、王様に『うん』と言わせようとしてとった締め上げ策であるらしい。


 なのに俺がサックリ魔族を倒したおかげで思惑が完全に裏目に出て、教会は今や非難の的。

 今頃火消しに走り回っているんだろうな。


「その対策を指揮しているのは王様みずからだろうね。あの人も教会には腸煮えくり返っていることだろうから徹底的にやるだろうよ。そのお手伝いができるんだリューヤ、アンタも少しぐらいなら我慢しな」

「実生活に支障が出るんですが……!?」

「大体冒険者にとっちゃ顔や名前が売れることは大歓迎だろ。後ろを見てみな」


 ロンドァイトさんに促されて振り向くと、そこには多くの冒険者たちが居並んでいた。

 心なしか表情がキラキラしている。


「あの……、リューヤさん、ですよね?」

「はい、そうですが?」


 なんだろう?

 また『<スキルなし>なんだろう?』とかって絡まれる流れなのかな?


「ニュースで見ました! アナタが魔族を倒したって!」

「同じ冒険者として誇りに思います! 握手してもらっていいですか!?」


 と思ったらなんか違った。

 取り囲まれて、憧れの眼差しが四方八方から。


「冒険者だって人格腐った連中ばかりじゃないってことさ。こないだアンタがドギーザをぶっ潰してくれたから。むしろ真っ当な連中の割合が多くなったともいえるね」

「ドギーザって誰でしたっけ?」

「もう忘れてんのかい? いつぞやアンタにケンカふっかけて、あのゴースト女に一瞬で捻り潰されたハゲがいただろ?」


 そういやそんなのいたような?


「まあドギーザを倒したことも、他の冒険者連中から慕われる要因だろうがね。ヒトからの評価は毎日一つ一つの積み重ねってことさ。これからも気を付けて積み上げていくんだね」

「ご忠告痛み入ります」

「さあ、無駄話はこれくらいにしておいて、さっさとウチに帰んな。女房怒らすとあとが怖いよ?」

「一応はまだ婚約中てことになってるんですが……」


 勇者リベルとの戦闘後の密談で、俺とレスレーザとの結婚が決まった。

 ついでにノエムとも。


 所帯を持つというのに、冒険者ギルドから紹介してもらった格安の寄宿舎に住んでいては格好がつかないということで今では王宮から賜ったお屋敷に引っ越している。


 その屋敷というのが、つい最近までお城に勤めていた偉い人が住んでいたとかいう話を聞くんだが……。

 それが大臣級の職にあった人だったとか……。


 まさかとは思うが、俺の知ってた人じゃないよな?


「ふーん、じゃあ新婚初夜はまだってことかい? だったらアタシで予行練習していく? これ以上ギルドで油売ってるって言うならさ?」

「これにて失礼させていただきます!!」


 危険な色気を振り撒くロンドァイトさんから尻尾を撒いて、俺は冒険者ギルドをあとにした。

 仕方ない。それじゃあ新たに俺の帰る場所となったあの家に向かうとするか。



「別に帰りたくないわけじゃないんだがなあ……」


 なんと言うか、緊張するというか。

 自分の家というもっとも落ち着くべき場所なのに。


 世の同棲を始めて間もない男性たちも同じようなソワソワした気分に襲われるものなのだろうか?


 門をくぐると早速、超特大の歓待を受けるのだった。


「おかえりなさいませ旦那様……!」


 レスレーザが直接出迎えてくれた。


 家にいる彼女は、騎士風の鎧姿ではなくきちんとした女らしいスカート姿。

 そのあまりの可愛らしさにクラッとくる。

 フラつく。


「どうしたのですか旦那様!? お体の具合でも!?」

「いや大丈夫……、幸せを叩きつけられただけだから……!」


 幸せの破壊力は恐ろしいものだ。

 レベルが数百万を超えたとしても一撃で殺しにくる。


「あの……、本当に何か至らぬ点などはないでしょうか? このような格好などあまりしてこなかったものなので……!?」


 初対面の時は騎士として鎧装束だったレスレーザが尋ねる。


「騎士としての教練ばかりで、女らしいことなど少しもしてきませんでした……! こんな私が、立派なリューヤ殿の妻になれるか心配です……!」

「まあ、俺もそんな立派な人間でもないし……!」

「そんなことはありません! リューヤ殿は地上最強の人にして英雄です! 父上……いえ陛下も、国を代表するつもりでリューヤ殿にお仕えしろと申しておりました!」


 王様。

 アンタ娘に一体何を吹き込んだんでしょうかね?


「なので、晴れてリューヤ殿の連れ合いとなるからには全力でご奉仕させていただきます! まずはごはんにしますか? お風呂にしますか? それとも私!?」

「誰に吹き込まれた、それ!?」


 元が騎士であるだけに、妻として夫に仕える意気込みも必要以上に強い。


「ま、まあ……! ところでノエムはどうしているのかな……!?」

「彼女は研究室にいますよ。本格的に錬金術の研究ができるのが楽しいと言って。アビニオン様も付き添っておられます」


 もう一人の妻となったノエムも当然のようにここで一緒に住むようになり、新居となった屋敷の一室を錬金術の研究所として使うようになった。


 その部屋に錬金術の素材を大量に運び込んで、スキル<錬金王>によって閃くレシピを試すことに夢中になっているらしい。

 出来上がった錬金具は、クラフトギルドに買い取ってもらって巨万の富を上げているとか。


「楽しければアイツのことは放っておくか……」

「あの、旦那様……、帰宅されてすぐのところ申し訳ないのですが、父上から報せが来まして……」


 父上って……王様から?

 義理の親子になったからといって気軽に連絡寄こすようになってきたな。


「明日にでも登城するよう仰せつかりました」


 そして気軽に呼び出すようになった。


 一体何の用だろう? 一応今でも冒険者の仕事を続けているのだから、あんまり頻繁に呼び出されるのも困るんだが……。


「あの……、旦那様。明日の登城は充分を気をつけください。父上から先に用件を賜っているのですが、どうやら容易ならぬ事態になりそうです」

「ん? どういうこと?」


 レスレーザが、声を重くして言うには。


「兄や姉たちが戻ってくるそうなのです」

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― 新着の感想 ―
[一言] 王族全滅回避にある程度は疎開するのは仕方ないけど次期王候補まで国難の時にいないのは人気的に大丈夫ですかね
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