21 仮面騎士との対決
俺と戦うことになった騎士は、レスレーザという名前。
やっぱり王に仕える戦闘職といったら騎士なんだな。
室内だというのに戦時のようにピッシリ全身に鎧をまとう。頭部もすっぽり覆うタイプの兜を被って顔かたちも窺い知れない。
表情もわからず、こんな形で『戦え』といきなり言われて、それをどんな気持ちで受け止めているのかもわからない。
正直不気味だった。
「……あ、そうだ」
こんな時こそアビニオンから貰ったパラメータ透視能力を使ってみよう。
あまり他人の情報を盗み見るのは気が進まないが、戦う相手ならば許されよう。
敵を知り己を知れば百戦何たらというし……。
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【名前】レスレーザ
【種類】人間
【性別】女
【年齢】21歳
【Lv】31
【所持スキル】将星仁徳斬
※スキル説明:聖属性を付加した斬撃を放つ。自分の指揮下にある部下一人につき威力20%アップ(上限なし)。発動条件・刀剣装備。
【好悪度】
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二十歳そこそこでレベル<31>というのはかなり鍛えている方だろう。
王様が手放しで称賛するのもわかる気がする。
そして他には……ん?
【性別】女!?
「この慌ただしい時に酔狂なものだ。冒険者を相手に御前試合などと」
鉄仮面を被った騎士。
被り物に遮られてくぐもった声ではあるが、女と思って聞けばたしかに女性の声だ。
仮面を被って鎧をまとって、外見からはとても窺えないがたしかにこの騎士、女性らしい。
「一体どのような話の流れでこうなったかは知らぬ。しかし陛下は名君であらせられるゆえ、この行為も無駄なことではないのだろう。貴殿に見どころがあるということか」
うーん、女?
口調からはやっぱりわからん。
「あらかじめ言っておくが、私の方ではこの試合にスキルは使わない。私のスキルは練習試合程度に使うにはあまりにも危険すぎるのでな」
「部下一人につき二割の攻撃力アップ、しかも上限なしか。たしかにエグイ性能のスキルだ」
「!?」
鎧騎士に動揺が走る。
初対面の相手に自分のスキルを見透かされたのだから当然か。
「貴様……!<人物鑑定>スキル持ちか!?」
「いいや、ただの<スキルなし>だ」
「何をバカな……いや、陛下が貴様に興味を持ったわけがわかった気がする」
すぐさま動揺を押し鎮めた。
この騎士、単にスキルに恵まれただけのヤツじゃないな。
「たしかに私のスキル<将星仁徳斬>は、率いる部下が多ければ多いほど攻撃力を増し、しかも上昇効果に限界がない。私は現在部隊長として百人の兵を預かっている。一人につき二割の威力上昇……百人ならば二十倍だ」
「とんだブッ壊れ性能だな」
「スキルの威力計算は、部下が直接戦闘に参加するかに関係ない。一騎打ちの今でも私の必殺剣は二十倍の威力で貴様の体を両断するだろう。腕試しの練習試合にはとても使えないスキルだと理解できるはずだ」
「いや、使ってくれ」
「!?」
俺のセリフはいかにも命知らずのバカ野郎に聞こえるだろう。
使えば相手を必ず殺す、必殺スキルをあえて使えと言っているのだから。
「王様は、俺の実力を見たいらしいからな。アンタの全力を受け止めなきゃご所望は叶えられない。大丈夫。耐えてみせるから全力でドンときておくんなさい」
「受け取りようによっては私への侮辱のセリフに聞こえるんだがな……!」
鎧騎士(女)、呆れたようなため息をつく。
「しかし冗談ではなく本気だということはわかる。ならば遠慮なくいかせてもらおう。手違いで斬り死にしても恨むなよ!!」
彼女の持つ刀身に、凄まじい輝きの聖なる気が集まる。
これが騎士レスレーザのスキル……!
「<将星仁徳斬>!!」
空気をつんざく凄まじい音が、聞こえるより早く刀身が迫ってきた。
速い。
百人分の部下の存在を乗せた剣は、音の速さすらも超えるのか。
これは斬撃の威力がスキルのみに頼ったものではなく、彼女自身の鍛錬と技術に裏打ちされたものでもあるからだろう。
恐ろしい絶剣。
だが……。
「なッ!?」
騎士の剣は、俺の手の中で動きを止めていた。
必殺剣キャッチ成功。
「バカな! レスレーザ隊長の必殺スキルが止められた!? 素手で!?」
「隊長があのスキルで鉄塊を斬り裂いたのを見たことがあるぞ!」
「それを生身で受け止めた!? よっぽど凄まじい防御スキル持ちなのか!?」
「<スキルなし>だって言ってたぞ!」
「そんなバカな!?」
いまやたくさん詰めかけているギャラリーがザワザワ騒ぎ立てる。
「我が秘剣を……、一体どうやって……!」
「特別なことはしていない。鍛えた体で耐え抜いた。それだけだ」
誰もがやろうとしてできることだろう。
剣から手を放す。
その瞬間レスレーザは地面を蹴って距離をとる。
「愚かな! 掴まえた状態で反撃の一つも加えていれば貴様の勝ちだったろうに、自分からチャンスを逃すか!?」
「試合とはいえ女性を殴りつけるわけにはいかんでしょう」
「!?」
え?
どうした?
「どうして私が女だと……!?」
「違うの?」
女の人でしょう?
「そこまでだ!」
変な空気になりかけたのを試合ごと無理やり止めたのは王様だった。
その隣でハゲ大臣がアワアワという表情をしている。
「リューヤよ、そなたの実力よくわかった。そしてそなたの重ねた功績も事実であると認めよう」
『当り前じゃー、おぬしごときが認めんでも主様は最強なのじゃー』
外野でアビニオンがヤジを飛ばしている。
「そして、だからこそ余も決意した。リューヤ、そなたに新たなる功績を立ててもらいたい」
「陛下ッ!? まさか……!?」
慌てだすハゲ大臣。
新しい功績とな?
「現在我が国の北東方面でいくさが起こっている。激しい戦闘だ。我が国は総力を挙げて抵抗しているが、戦局は悪くなる一方じゃ。敵は……魔族じゃ」
魔族。
どこかで話に出ていた……?
「ヤツらは昔より、どこからか現れては人間への攻撃を加え、甚大な被害を与えてはどこぞへと消えていく。今回もそうじゃ明確に王都を目指して進軍し、我らは全力を挙げて押しとどめておる」
「もしやエクスポーションの納品依頼は……?」
「推測通り、対魔族戦の助けになればと思い発注した。おぬしとノエムの働きのおかげで数百人という兵士が死の淵より救われたであろう。しかしそれも一時凌ぎにしかならぬやもしれん」
そこまで逼迫した状況だということか?
「民の生活を守るため、魔族をこの王都には一歩も入れぬ決意であるが、それもいつまで持つかわからん。これよりこのレスレーザに率いさせた一隊を送るつもりではあるが、余力を考えてこれが最後の援軍となるはずじゃ、勝っても負けてもな」
『魔族のレべル上限は<999>』
アビニオンが言った。
『おぬしら人間どもの十倍ある。そりゃまともに戦って勝てる相手ではあるまいよ。そこにいるたった一人を除けばの』
俺か。
「そういうことだリューヤ。人間を、この国を守るために力を振るってくれぬか? 具体的にはレスレーザ率いる援軍に加わって戦地に赴き、魔族たちを打ち破るか、追い払ってほしい!」
「なりませんぞ陛下ッ!!」
そこへハゲ大臣が声を荒げる。
「誇り高き国軍に<スキルなし>を加えるなど前代未聞! 言語道断の愚挙ですぞ! そんな恥知らずの真似をしてまで生き残りたいというのですか!?」
「黙れ大臣! 王の決定を蔑ろにするか!?」
王様の一喝でビクリと息詰まるハゲ大臣。
「スキルがあろうとなかろうと、我が国に住まう者は慈しむべき臣民である。その民を守るためならプライドなど喜んで捨てよう。力ある者に縋るしかできないというのは不甲斐なくあるが……!」
「大臣の言う通り<スキルなし>の俺が、騎士さんたちと肩を並べるわけにはいきません」
その瞬間、王に失望の色が浮かんだ、しかし……。
「ですが俺は冒険者です。ギルドを通して依頼を出してもらい、クエストという形で引き受ければ。俺は戦場だろうとどこへだって行きますよ。冒険者は基本何でも屋ですからね」
「こやつめ、心臓に悪い……!?」
王様の表情がさっきから凄まじい勢いで変わっている。
「よかろう。そなたを指名し、最優先処理の緊急クエストを発注しよう。そのつもりで用意にとりかかれ」
「わかりました」
「報酬に糸目はつけぬ。<スキルなし>であろうと英雄になれることを余に見せてほしい。よろしく頼んだぞ」
そうしてあれよという間に俺の次の戦いの場が決まった。
ガチの戦場らしい。
そこでは一体何が待ち受けることか。