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20 王の目に留まるリューヤ

 王様はあからさまに不機嫌そうな顔つきとなり……。


「王の前でウソをつくか?」

「いえいえ本当ですよ!?」


 なんでウソだと一方的に決めつけるんですか!?


「余は、そなたの成し遂げた功績を一切疑っておらぬ。エクスポーションの素材を集め揃え、貴重な錬金術師を奴隷商から救い出した。いずれも賞すべき善行である。そのような活躍をする者が<スキルなし>であるわけがないではないか!」


 何故か叱られる形となっている俺。


「世の中には、手の内を明かしたくないからとスキルを隠匿する者がいる。しかし余は国王。国のためあらゆる人材を適切に配し、有用活用するのが仕事なのじゃ。その国王に能力を隠すことは罪だと知れ!」

「しかし俺は本当に<スキルなし>で……」

「ええい、まだ言うか!!」

「ギルドカード見ます?」

「見る」


 ギルドカードには、登録者の情報が明記されて誰でも見られるようになっている。

 これを見れば俺の言うことがウソか真実かすぐわかるだろう。


「……本当に<スキルなし>と書いてあるわ」

「でしょう?」

「しかし信じられぬ。奴隷商は屈強な用心棒をつけていたろうし、エクスポーションの素材を得るには危険なダンジョンに入り、様々な魔物と戦う必要があったであろう? 何のスキルも持たぬ……いわば丸腰の者が無傷で済むとは思えぬ」


 いまだしげしげとギルドカードを覗く王様。

 陽に透かしてもなにも浮かびませんよ?


「恐れながら陛下」

「なんじゃ大臣?」

「もっとも可能性が高いのは、この者がウソをついている、ということではございませぬか?」


 王様の傍らに控える、いかにも偉そうなオジサンが言う。

 頭のてっぺんが薄い。


「ギルドカードに嘘は書き込めぬであろう? それにわざわざ<スキルなし>などと偽って、どんな得がある」

「ウソだというのはそこではなく、ヤツが挙げたという数々の功績のことです。スキルのない無能が、陛下のお役に立つことなどありえませぬ。きっとこの者はありもしない功績を並べ、陛下に取り入ろうという魂胆でしょう」


 頭のてっぺんが薄い大臣、俺へと向ける視線がゴミでも見るかのように侮蔑的だ。


「<スキルなし>など人材のゴミ。このような者に関わるだけでも陛下のお時間を無駄にする罪深き行為です。こんな役立たずなどさっさと叩き出し、錬金スキルを持ち合わせた御令嬢との益ある話にのみ集中なさいませ」

「リューヤさんが出ていくなら、私も一緒に帰ります!!」


 ノエムの鋭い声が突き入る。

 ハゲの大臣に対して敵意のこもった視線を遠慮なしに送る。


「何か気に障ることを言ったかなお嬢さん? しかしワシはキミのために言っているのだよ? キミのように選ばれた人間は、最底辺の<スキルなし>などと一緒にいてはいかん。クズがうつってしまうからね」

「リューヤさんは私の恩人です! リューヤさんを悪く言う人の言うことなんか聞きません!」

「ッ、無礼な……!」


 今明らかに舌打ちしたな。

 ハゲがさらに何か言おうとしたところ……。


『ノエムの物言い、快なりじゃな』


 この声は……?


『我が主様への暴言の数々、それこそ万死に値する。その責をもって国ごと滅ぼしてやろうと思ったが、ノエムの啖呵に免じてこの城を消し去るだけにしておいてやるわ』

「やめて!」


 魔神霊アビニオン。

 今まで姿を消していたのが、出てくるなり怖いことを言いだしたので、すかさず止める。


「なッ、なんじゃ!? いきなり白い女が!?」

「あれは幽霊? ゴーストか!? 出あえ出あえーッ!! 城に魔物が侵入したぞ陛下をお守りせよー!!」


 謁見の間に雪崩れ込んでくる兵士たち。

 騒然としてきた。


「待って! 待ってください! コイツは無害ですので!」

『ホホホホホ、雑魚が群がりおるわ。おぬしらごときが何十万人集まったところで一人殺すのと労力は同じじゃのう』


 お互いケンカ腰なので慌てて止めた。


「リューヤよ、その幽霊はそなたの身内か? 人外のモノを連れ歩くとは面妖な……」

「コイツとは平原で知り合って、なんか色々あったら懐かれてしまいまして……」

「平原? まさか……?」


 王様、なんか心当たりがあるように眉根を寄せる。


『この国の王なら知ってて当然であろう。おぬしらがコラント平原とか呼んでおる場所に住んでいた悪霊の親玉こそ、わらわのことじゃ。ここにおる主様に惚れ込んで、今はもうあの土地に興味はないがのう』

「……では、コラント平原はもう悪霊から解放されたということか!?」

『わらわが離れたのじゃから悪霊どもがあの地に縋りつくいわれもないのう』

「そんな報告、余はまったく受けておらぬぞ! コラント平原が解放されたなどという重大事を何故誰も知らせぬ!?」

『だったら今ここで聞けばいいではないか。その重大事を成した張本人にのう』


 と皆の視線が俺に集まる。


「のうリューヤ、そなた本当にコラント平原を解放したのか? もはや悪霊に蹂躙されつくし奪還不可能と思われたあの土地を……!?」

「成り行きで……!?」

「だとすればそなたの功績は、先の二つだけに留まらぬ。余はそなたに一体いくつの勲章を贈らねばならんのじゃ?」


 いや別に勲章などいりませんが。

 ヒトの役に立つと思ったことをやっただけだし。


「だ、騙されてはいけませんぞ陛下!」


 そこでハゲが再び騒ぎ立てる。


「あの幽霊女も所詮は<スキルなし>が打った芝居の一つやもしれませぬぞ! コラント平原の悪霊どもは、教会の方々が全力を挙げてなお調伏できませなんだ! それを<スキルなし>ごときがどうして退けられましょう!?」

『おぬしの頭の中にはスキルしか物差しがないのかハゲ?』

「誰がハゲじゃああああッ!?」


 あーあ言っちゃった。


『この世を形作る力はスキルの他にも数多くの種類があろう? おぬしらと違ってわらわは広い視野を持つゆえ、主様の素晴らしさを理解できるのじゃ。何しろ八龍に見出されて八百万のレベルを持つ御方じゃぞ? 服従するのが当然ではないか?』

「はっぴゃくまん!?」「れべるが!?」


 あーあ言っちゃった。


「は……! ははは! ついに馬脚を表したな!? レベル上限は<99>じゃぞ! そんなアホのような数字があるわけがない!!」

『それは人間の中だけの話であろう。自分の知ることだけが世界のすべてだと思うアホは本当に哀れじゃのう』

「アホッ!?」

『おぬしらが恐れてやまぬ魔族どものレベル上限は<999>。わらわたち魔神霊のレベル上限は<99,999>じゃ。さらにずっと上にいる八龍どものレベル上限は一千万ともいう。ならばその力を分け与えられた主様のレベルが八百万あろうと何の不思議があろう?』

「……」


 王様もハゲ大臣も押し黙ってしまった。

 情報を処理しきれていないのだろう。


『どうじゃ主様! 主様の凄さをわからぬ愚か者どもをしっかり啓蒙してやったぞよ!』


 なんかやりきった感を出すアビニオン。

 最初はノエムを賞賛する趣旨の謁見だったのに、すっかり流れが変わってしまっている。


「さすがですアビニオンさん! 凄いです!」

『であろう、であろう! もっと褒めるがよいぞ!!』


 話題をすっかり持ってかれた感じのノエムも一緒になってエキサイトしているし。


「…………のうリューヤよ。あの女ゴーストが言うことは本当か?」

「『本当だ』と言ったところで信じてくれますか?」

「それもそうよの」


 乾いた笑いを漏らした王様だった。


「しかし余はそなたに一層の興味が湧いたぞ。本当にレベルが八百万もあるかはともかく、できる限りそなたの実力をたしかめておきたい。……誰ぞ!」


 王様、大声で言う。


「レスレーザを呼んでまいれ」



 少し待つことやってきたのは、鎧に身を包んだ凛々しい騎士だった。

 鉄仮面的な兜まで被って顔もわからない。


「この者はレスレーザ。余に仕える騎士の一人じゃ」


 王様が紹介してくれる。


「その実力は国内屈指。いずれは将軍に任じようと思っておる若手有力株じゃ。のうリューヤよ、このレスレーザと一つ仕合ってみるか?」

「戦えと?」

「レスレーザを相手に互角に渡り合えれば、少なくとも我が国で最強クラスの実力があると見てよかろう。思えば余は、そなたの功績を聞くばかりで実際に腕を振るうところを見ておらぬ。そこの女幽霊が自慢にするほどの力がそなたにあるなら是非とも見せてほしい」


 俺としては受ける理由など一つもないが、後ろでノエムとアビニオンが目を輝かせながら見詰めてくる。

 期待の眼差しだった。

 そんな彼女らの純粋な期待を裏切るほど俺は神経図太くないし、何より王命でしょう。逆らったら面倒になるんだろうな。


「わかりました、やりましょう」


 そういうことになった。

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― 新着の感想 ―
He may be the strongest in the world but his weakness is his simple mind.
[良い点] 主人だとするなら主人の前にでて勝手にベラベラ喋るのあかんやろ
[一言] 鉄仮面的な兜まで被って顔もわからない。 レスレーザは女性なのでは
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