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18 ノエムの決意

 さて、これでクエストターゲット最後の三つ目、朱々砂々もゲットしたぞ。

 通常のものよりかなり大きいらしいけど、これもノエムのスキルの効果かな?


 しかしまだ問題は残っている。


「これ、どうやって運べばいいんだ?」


 朱々砂々は空気に触れると分解してしまうそうで、水銀スライムの体内から引きずり出した今も、耳をすませば微かにシュワシュワと音を出している。


 そこまで急激な変化ではないが、放っておけば確実にこの赤石は空気に溶けて消え去る。

 それだけならばまだいいが分解した朱々砂々成分がまた反応して水銀になり、新たなメルクリウスライムを生み出せば甚大な被害が生まれてしまう。


 一体どうしたものか。


『ならばわらわに任せるがいい主殿』


 そこへ現れる魔神霊アビニオン。


『その石をわらわの体内に取り込めばよかろう。霊体たるわらわの内側は外界から隔絶しておるゆえ、空気なんぞに触れることもないわえ?』

「おお、なんて便利なユーレイだ」

『ホホホ、最後の最後でやっと役立つ場面に恵まれたわ。このままボーっと見ていただけでは主様の使い魔失格だでの』


 そんなことないですよ?

 ドレス姿の女幽霊は、そのロングスカートを翻すと大きな赤い石を覆い、中へゴキュンと飲み込んでしまった。


「……ちゃんとあとで取り出せるんだよね?」

『? そりゃ出せんと意味ないじゃろう?』


 その横で、ダンジョンガイドのおじさんが総身真っ白ですすけていた。


「もうレベルもスキルも等級も信じられない……!!」



 こうしてするべきことをすべてやり終えた俺たちは冒険者ギルドへと帰還。


「ご注文の品、お届けに上がりましたー」


 スス・ススキの竜根。

 シシ・シシカの剣角。

 朱々砂々(特大)。


 すべてロンドァイトさんの目前に並べる。


「……相変わらずアタシの想像を軽く超えてくるヤツらだねぇ」


 頬をヒクヒクさせるロンドァイトさん。

 大柄な美人がするとそんな仕草も様になる。


「そこまで急ぐ必要はなかったんだよ? 一回の探索で全部見つけろとは言ってないし。焦らず一回で一種類ずつ見つけても……!?」


 まあ、もう取ってきたものはしょうがないんで、このまま納品してクエストクリアにしてください。


「いや、まいったねえ。実を言うとこっちの準備ができていないんだよ。受け入れ準備っていうかさ」

「受け入れ準備?」

「こうなったら紹介しておくよ、この人さ」


 引き合わされたのは、口元に豊かな髭を蓄えた、いかにも働き盛りと言った年頃の中年男性だった。

 髭面ではあるものの、髪型と揃えて綺麗に整えられて、けっして不潔な印象はない。


「クラフトギルドのマスター、センジュイ殿だ」

「クラフトギルド?」


 どこかで聞いたような、ないような?


 それで紹介されたばかりのセンジュイさんとやらは、俺たちの並べた納品物たちの興味を釘づけにされていた。


「本当に……、本当にこれだけの逸品を揃えてしまうとは……! この三素材を揃えるにはA級冒険者で数年がかりだと言われているのに。しかもこれら全部、上位のレアドロップ品ではないか……!?」

「彼らに任せるといつも、こうやって想像以上の出来栄えになっちまうんだよ」


 ロンドァイトさんが達観してしまっている。

 とりあえず朱々砂々は空気に溶けるといけないからアビニオンの中に戻しておくか。


「あの、話が見えてこないんですけど……?」

「リューヤたちは本当によくやってくれた。このクエストは間違いなくA級案件だったから、それをこんな短期間で仕上げるなんて本当に大した男だよ」


 と言って俺の肩に手を置いてくる。


「でもね、実のところこのクエスト、全体的にまだ終わりじゃないんだ。ここから先はあっちのクラフトギルドに引き継いでもらいたいんだけど……」


 と髭の紳士にチラリと視線を送る。


 クラフトギルド。


 今やっと思い出したそれっていつだか話題に上っていた、生産職が集まるギルドだっけ。

 調合師やら鍛冶師やら大工やらのような。

 そこのギルドマスターが何故ここに。


「私たちが集めた素材で、作るものがあるからですね?」


 と言ったのは、いつも俺に寄り添うノエムだった。


「集めているうちから『もしかして』って思ってました。スス・ススキの根は痛み苦しみを鎮め、シシ・シシカの角は強壮剤です。朱々砂々は万病を取り除き、不老を与える『賢者の石』の原料とされています」

「さすがノエムちゃんだね。全部正解だ」

「それら三つを主原料にして作るのは……エクスポーションですね?」


 エクス……ポーション……。


「って何?」

「ポーションぐらいは知ってるだろう? その超凄い版だと思っておきな。飲めばあらゆる傷を回復させて、千切れた手足を生え変わらせて、失った血を補うとまで言われている。まあ無敵のアンタには縁のないシロモノだろうがね」


 そんなことないですよ、もう。


「実はこのクエストの依頼主は王宮なんだ。ウチの冒険者ギルドどクラフトギルドへの連動依頼だ」

「冒険者ギルドに素材を集めさせ、それを元にクラフトギルドでエクスポーションを作り出す。王宮にエクスポーションを最低十瓶は納めるよう命令がきているのだよ」


 とクラフトギルドのマスターは言う。

 額の汗をハンカチで拭いながら。


「北東方面で行われている魔族との戦闘が芳しくないようだね。負傷者満載で医者やヒーラーも追いつかないから、薬でなんとか補おうって魂胆でしょう」

「エクスポーション一瓶で十人の重傷者を完全治癒できると言われているからね。しかし今回はさすがに王宮の無茶ぶりが過ぎる。私は伏して依頼を辞退するつもりだ」


 えッ、なんで?

 エクスポーションの原料は全部俺たちが揃えてきたのに?


「材料が揃っていればどうにかなるという簡単な話ではないのだ。エクスポーションは、エリクサーに次ぐ『霊薬』だ。その作製には高度な技術を要する。少しでも足りなければ貴重な素材を無駄にしてしまう。いや、それ以前に……」


 何?


「エクスポーションの作製には錬金術師がいなくてはならない。ハイポーションまでなら調合師でも作れる。しかしエクスポーションには錬金工程が必要になるので、錬金術師の手が絶対必要なのだ。なのに現在、我がクラフトギルドに錬金術師は一人も所属していない……!」


 ノエムの体が、ピクンと揺れ動いた。


「さすがに一人もいないってことはないんじゃ……!?」

「錬金術師はそれだけ貴重なんだよ。国に一人でもいれば万々歳だ。だから祝福の儀で誰かが錬金関連のスキルが授けられたら周囲が血眼になるのさ」


 それ、ここで言っていいことですかね?

 ノエムに聞こえるところで……。


「必要な手がない以上、安請け合いはできない。キミたちの苦労を無駄にしたのは申し訳ないが……」

「待ってください」


 ノエムが言った。


「エクスポーションは私が作ります」

「は? キミは誰だ? 何を言って……!?」

「私は<錬金王>のスキルを持っています。エクスポーションのレシピも頭の中に浮かんでいます」

「はあッ!?」

「クエスト発注された素材もリューヤさんと一緒に現場で獲得しました。通常より質がいいので十瓶どころかもっと多く生産できると思います! とにかく私に任せてください! お願いします!」


 と言いながら部屋から出ていく。

 ダンジョンから採ってきた角と根を持ちながら。


「あッ、ちょっと待ちなさいそれは……!」

「いいじゃないですか。アナタたちにエクスポーション作製の意思がないなら、あの素材も用なし。こちらでどのように活用しても問題ないはずです」

「そ、そうかもしれんが……!?」


 どうしていいかわからぬクラフトギルドのマスターは、戸惑いの行き場を求めるようにロンドァイトさんへ詰め寄る。


「おい冒険者ギルドマスター! どういうことだね!? 彼女は本当に錬金スキルの持ち主なのか!? だったら何故ウチに報せてくれない!? 我々がどれだけ錬金術師を渇望していたか……!?」

「申し訳ないね、あの子たっての希望でさ」


 そう。

 突如得てしまった<錬金王>スキルのせいで、それまでの人生が無茶苦茶に変わってしまったノエムは、自分自身のスキルを忌避していた。


「そして今回も自分の希望で、自分のスキルを振りかざすと決めた。一体どういう心境の変化だろうね? 案外近くにいた男のせいで、力と向き合うってことに気づいたのかもね」

「ん?」


 そうして、ノエムがみずからのスキルをいかんなく発揮してエクスポーション作りに没頭した結果……。



「できました! エクスポーション三百瓶です!!」

「多いなッ!?」


 注文数って十瓶だったんでしょう!?

 なんでそんなに限度を超えて拵えちゃうの!?

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― 新着の感想 ―
[一言] え?スキルって瓶も含んだ状態で生成できちゃうの? エクスポーションを用意した瓶に詰めるとかでなくて?
[一言] 中学生が書いたみたいな小説やな
[気になる点] 「彼らに任せるといつも、こうやって想像以上の出来栄えになっちまうんだよ」 まだ2回目のクエストなのに『いつも』って発言に違和感
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