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15 納品クエスト

 冒険者ドギーザは、結局その日のうちに冒険者としての資格を剥奪され、ギルドから除名となった。


 俺としては改心して世のため人のために働いてくれることを期待したのだが、さすがに現ギルドマスターを排斥して自分が取って代わろうという宣言はお咎めなしでは済まなかったらしい。


「元からドギーザとその一派はギルド内でも鼻つまみ者でね」


 ギルドに戻ってロンドァイトさんがやれやれと腰を下ろす。


「強いスキルを引き当てていい気になってる典型バカどもの集まりだ。自分が偉いと勘違いしてクエストを選り好みし、依頼人ともトラブルを起こす。ギルドとしても見過ごせない段階まで来てたんだよ」

『ほんにくだらない理由でよくもまあ、あそこまで傲慢になれるものじゃ』


 アビニオンが、心底の侮蔑を込めて言った。


『スキルなどの強弱が人の価値を決めるわけなどなかろうに。仮に最強究極のスキルを得たとしても、わらわから見れば一ひねりで殺せる弱者であることに変わりない』


 そりゃキミたち超越者から見ればさ……。

 スキルがあろうとなかろうと所詮ドングリの背比べに過ぎないんだろうけれど……。


「それでも今日まで何もできなかったのは、性格クズでも実力があったからだ。アイツらの持ってたスキルはたしかに強力で、ギルドとしても日々の依頼をこなしていくためにアイツらに頼らざるを得なかった」


 ギリリ、と奥歯を鳴らすロンドァイトさん。


「そんな状況を改善してくれたのもリューヤのおかげだ」

「俺ですか?」

「スキルはなくてもレベルが八百万以上もあるアンタならどんなクエストもこなせるだろう。あんなクズどもの御機嫌を取ってまで働かせる必要もないってことさ。アンタが来てくれたおかげでギルドも大きく変わることができる」


 そう言ってロンドァイトさん、俺に向かって深々と頭を下げた。


「ありがとう」

「いや、やめてくださいよ。ギルドマスターともあろう御方が!」


 俺なんか、まさに昨日今日入ったばかりの最低ランク冒険者ですよ!?


「あ、アンタの冒険者ランクなんだけど上げておいたよ」

「ええ!?」

「既にギルドカードは自動更新されてるはずだから覗いてみな」


---------------------------------

ギルド登録情報

【名前】リューヤ

【Lv】17

【所持スキル】なし

【犯罪歴】なし

【所属】冒険者ギルド:センタキリアン王都支部

【等級】D

【適正ジョブ】すべて

---------------------------------


【等級】D

 かつてFと書かれていた場所に、そんな文字が輝いている。


「二階級特進……!?」

「アタシの一存じゃ、ここまで上げるのが限界でね。コラント平原解放の功をこの程度の褒賞で済ましちまって申し訳ないと思っている」

「いえいえいえいえいえ!!」


 実を言うとクエストクリアの報酬としてたんまりお金を受け取ったあとなのだ。

 麻袋いっぱいの金貨。

 これがまさか研修クエストの報酬のわけもないし、平原から悪霊を一掃したご褒美なんだろうなあ、と思っていた。


 それに加えて昇進まで貰えるなんて、至れり尽くせりですよ!


「ノエムの方は、悪いが今回昇進はナシだ。アンタのスキルならそのうちあっという間にCにもBにもなれるだろうから我慢しておくれ」

「とんでもないです! 今回活躍したのはリューヤさんだけだって私もわかっています!」


 若いのに謙虚なノエムだった。


「実情として、アンタたちには一日も早くA級ぐらいにでもなってほしいところだ。アンタたちは規格外だって、アタシ自身が行動を共にして思い知った」

「いや、そんな……!」

「これはおべっかで言ってるんじゃない。アンタたちは今、不安定なんだ。強すぎる能力に立場が伴っていない」


 それが何か問題でしょうか?


「大問題だ。既存の権力にあぐらをかいている連中は、絶対にアンタたちを放っておかないよ。取り込むか、叩き潰すか……。ヤツらの思惑から自由でいるためには、アンタたちだって権力が必要だ。アタシらギルドも、たかがF級D級をそこまで全力で守り切れない」

『教会、王宮、魔法学院、他のギルド……。主様を利用したいと考える権力者どもの心当たりは枚挙にいとまがないのう』

「あ、アンタ人間の社会に詳しいじゃないか?」

『当り前じゃボケェ。魔神霊は長生きなんじゃ、どうでもいい情報も自然と耳に入ってくるんじゃカスゥ』


 利用されるのが嫌なら、力をつけて自分の意志を押し通せるようにしろと。

 今のところ、他人からの影響を排除するのに俺が使えるのは実力……腕っぷしの力しかない。


 しかしそれを使ったら戦争だ。

 二者以上の意思がぶつかり合った時、平和裏に解決するために権力がある。権力はけっして存在自体悪じゃない。


 悪いのは、権力を自分の損得のためにしか使わない人のことだ。


「わかりました。差し当たってはクエストをたくさんこなして冒険者ランクを上げていけばいいんですね?」

「ノエムちゃんもね。正直言ってノエムちゃんのスキルを聞き及んだらクラフトギルド辺りは絶対黙っちゃいない。その前にできる限りの実績を作って、理論武装の材料にしておくべきだ」


 そこで……。


「早速だが新しいクエストを用意した。二人に是非とも受けてほしい」


 そう言って一枚の羊皮紙を差し出すロンドァイトさん。

 クエストの受注契約書?


「このクエストはB級もしくはA級の受注案件だが、アンタらなら問題なくこなせるだろう」

「自分の等級より格上のクエストって、そう簡単に受けれるもんなんですか?」

「アタシが全責任を持つ!!」


 ロンドァイトさんカッコいい!

 抱かれたい!


 クエストの受注契約書に目を通し、その内容を確認する。

 納品クエストか。

 指定の物品を期日までに収めるのが目的のクエストで、難易度はターゲットとなる納品物の質と量にモロ影響される。


 このクエストで求められているのは……。


---------------------------------

 スス・ススキの根×1

 シシ・シシカの角×1

 朱々砂々(しゅしゅささ)×1

※備考:規定数を越えても追加で買い取り可。

---------------------------------


 ほう。

 どれもこれも何のことか全然わからん。

 どこに行けば手に入るんすかねこれ?


「これは……!?」


 俺の脇からクエスト内容を覗き見るノエムがなんか気づいた風の声を上げた。


「ノエム、これが何かわかるの?」

「あッ! いえ、もしかしたらって思っただけで、確信は全然ないです!」


 そう?

 ただこれがA級B級相当のクエストになるってことは、それなりに手に入れることが難しいんだろうなあ。


「どれもこれもゲットするのに命を懸けなきゃいけない難物揃いさ。でもまあリューヤなら軽いだろう」

「あまり期待をかけられ過ぎても……!?」

「これらすべて、街の中にあるダンジョンで採取できる。アタシが許可を出しておくから、アンタたちには可及的速やかにダンジョンに潜ってほしい」

「ダンジョン?」


 そんなものが街中にあるのか?

 俺はこの街で生まれ育ったが、全然知らなかった!?


「ダンジョンはあらゆる資源の元だからね。国が直接管理しているのさ。アタシから許可を出しておくから、遠慮なく暴れてきておくれ」

「本当に? 遠慮なしでいいんですか?」

「常識の範囲内で……!?」


 ともかく冒険者になったばかりの俺は、いわば駆け出し。

 仕事を選り好みできる立場なんかじゃねえ。


 ということで紹介されたクエストを素直に受けてダンジョンに潜ることにした。


「ダンジョンってどんなところなんだろう? ワクワクするなあ?」

『最初は目新しいかもしれんが、飽きたら暗くてジメジメしたところでしかないぞえ? 虫も多いしのう』


 アビニオンも普通についてくるつもりだろうか?


 さらにその隣でノエムも……。


「もしかしてこれって……アレの材料……?」


 などとブツブツ言っていた。



 ロンドァイトさんに教えてもらった場所に着くと、目の前にもう巨大な扉が聳え立っていた。


「これがダンジョンの入り口か……!?」

「大きいです! 城門と同じぐらい大きいです!!」


 センタキリアン国有ダンジョン。


 ……というらしい。

 俺とノエムは揃って見上げ、田舎者感丸出し。


 だって本当に圧倒されるほど大きいんだもん。扉は重厚な金属製だし。


『中にいる魔物が外へ漏れ出さんよう、管理は厳重にしておかんといかんでなあ。それでもわらわにとってはこんな扉、暖簾みたいなもんじゃ』


 アビニオン無理に張りあおうとしないで。


「今回ロンドァイトさんは一緒に来てくれないんですね」

「あの人も忙しいんだろう」


 そもそもギルドマスターがクエストに同行することの方が珍しいからな。彼女の仕事はギルドをちゃんと回すこと。

 今回は本業の方に集中しているってことだろう。


 俺たちも俺たちの仕事を頑張ろう。


「すみませーん! 冒険者ギルドから来たんですがー! ダンジョンに入りたいんですけどー!」


 と呼ばわってきて、一つ、二つ、三つ……。

 たっぷり十数えるほど経ってからやっと、ダラダラと誰かが対応に出てきた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 宿とかで休憩しないの?
[一言] またトラブルの予感がします
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