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14 帰ったらケンカを売られた

 平原からの帰り道。


「コラント平原が解放されたと知ったら、皆驚くことだろうよ!」


 ロンドァイトさんも昂揚気味に言う。


「人々も本当は、いつ街まで染み込んで来るかわからない悪霊に怯えていたし、不安から解放されただけじゃなく、素材採取場としてのコラント平原が取り戻せたのも朗報だ! リューヤ! ノエム! アンタら冒険者登録初日から英雄扱いだよ!」

「私は別に……凄いのはリューヤさんで……!」


 照れた口調のノエム。

 そんな感じで俺たちは城門を潜り、冒険者ギルドへと帰還したが……。


 そこでまたトラブルが待っていた。



「……なんだあれは?」


 冒険者ギルドの玄関前に、何やら不穏な集団が屯している。

 いかにも屈強そうな男が二、三十人。殺気だって、武装までしているのだから明らかに尋常ではない。


 しかもソイツら、帰ってきた俺たちを見つけるなりざわつき始めた。

 用があるのは俺たち?


「アニキ! アイツですアイツ!」


 見覚えのある顔が一際騒ぎ出す。

 あれは……研修に出る前に俺に絡んできた冒険者。


「あの<スキルなし>野郎が、オレの両腕バキバキに折りやがったんですよ! <スキルなし>のくせに! お願いします仇を討ってください!」


 そう言われてヌッと立ち上がったのは、これまた威圧感たっぷりの巨漢だった。

 禿頭で人相が悪く、一目見て近づきがたい雰囲気が濃厚だ。


 何者だ?

 ……そうだ、こんな時こそアビニオンから分け与えてもらったばかりのパラメータ透視を試してみよう。

 えーと……。


---------------------------------

【名前】ドギーザ

【種類】人間

【性別】男

【年齢】30歳

【Lv】24

【所持スキル】殲滅剛拳

※スキル効果:拳に触れた瞬間に爆発エフェクト。敵対象に追加ダメージを与える。発動条件・両手無装備時に拳攻撃。

【好悪】×

---------------------------------


 ドギーザさん?

 知らない名だなあ。

 ただレベルとかスキルから察するに明らかに堅気じゃない。


 しかも【好悪度】の項目の『×』ってなんだ?

 バツマーク?


 ノエムやロンドァイトさんの同じ項目にはハートマークがあったんだが。それもいくつも。

 これって好感と嫌悪で違いが出てる?


「オレの舎弟を可愛がってくれたそうだな」


 そう言って巨漢のドギーザさん? 舎弟と呼んだ両手の折れた冒険者を殴り飛ばす。


「ぐぶええッ!?」

「<スキルなし>ごときに負けるようなクズはオレの舎弟にはいらねえ。だが一応オレの派閥がやられたってことはオレの面子を潰したってことになる。その落とし前をとってもらおうか?」


 ギロリと鋭い眼光が俺を射る。

 敵意に満ちた視線だった。


「待ちなドギーザ!」


 殺気立つその場に制止に入るのは、ギルドマスターでもあるロンドァイトさん。


「アンタの舎弟とリューヤがやり合ったのは完璧な私闘だ! それを蒸し返して騒ぎを広げるのは冒険者の仁義に反することだよ! 正式に罰則を食らいたいかい!?」

「うるせえぞアマ。女の分際でデカい顔してるんじゃねえ」

「なッ!?」


 巨漢の物怖じしない暴言に、ロンドァイトさんの方がたじろぐ。


「前々から目障りだったんだ、女風情がギルドマスターなんてよ。いい機会だから、オレが替わりにギルドマスターになってやる。テメエはオレの情婦に転職だ」

「何を勝手な……!?」

「そして<スキルなし>のテメエ。テメエはオレの顔に泥を塗った。その償いのために両手両足を折る。命まで取らねえのはオレからの恩情だから感謝しな」


 俺のことを睨みつけながら言う。


「そしてそっちの小娘は、随分いいスキルを持ってるそうじゃねえか。もったいねえからオレが貰ってやる。オレの元で存分に働かせてやるぜ、オレの役に立つようにな」

「嫌です……!」


 俺にしがみつきながらもノエムはハッキリ拒絶する。


「いい機会だ、今日から冒険者ギルドは、このオレが仕切るぜ。最強冒険者であるこのドギーザ様がな! このオレの下で、騎士どもにも教会にも負けない最強の冒険者集団を作り上げるんだ!!」

『面白い冗談じゃのう』


 この声は。

 騒ぎになるから隠れていろと言ったのに……!


『貴様のような極弱の虫けらが最強とな? ジョークセンスも最低なら却って笑えるという傍証じゃのう。失笑じゃがな』


 そう言って現れる魔神霊アビニオン。

 今まで幻惑で常人の目には留まっていなかった。


 それが隠形をやめると同時に、霧が立ち込める。


「なんだコイツは……!? 女? ゴースト?」

『頭が高いぞ虫けらども、超越者たるわらわとその主様の御前ぞ』


 アビニオンがそう言うと同時に、ドギーザを始めとしてその舎弟らしい数十人が一斉に頭を下げた。

 しかし礼をとっているわけではない。

 全身から力が抜けて倒れ込んだかのようだ。


「なんだ……、足から力が……!? 手も……!?」


 彼らは、四肢に力を込めて立ち上がろうとするもできない。

 俺たちへ向けてだらしなく首を垂れるのみ。


「アビニオン、エナジードレインをしたな?」

『我が主に無礼を働く者は、例外なくわらわが罰するのじゃ』


 彼女が現れるとともに立ち込めた霧は、霊体が拡散した彼女の体の一部だ。

 霧に接しているということは彼女と接しているのと同様で、生物はそこから無尽蔵に生命力を吸い取られる。


『わらわの強奪力をレギオン程度と一緒にするでないぞ? 貴様らごとき虫けら、その気になれば一瞬で干物じゃ。それが生きるにギリギリの生命力だけはいまだに残してやっていること、我が主様の慈悲以外の何者でもないぞえ?』

「なんだ……!? 何なんだテメエは……!?」


 もはや息を吸うのも苦しそうなほどに衰弱し、美しき怪物を見上げるドギーザ。


「ドギーザ。彼女は魔神霊アビニオン。コラント平原に占拠していた悪霊どもの親玉だ」


 見かねたロンドァイトさんが説明に回る。


「ここにいるリューヤが、コイツを調伏して連れてきたんだ。おかげで平原にもう悪霊は現れない。コラント平原は解放された」


 その宣言に、ドギーザたちばかりでなく騒ぎを聞きつけ集まってきた衆人までもざわつきだした。

 それだけ平原を占拠する悪霊は深刻な問題だったのだろう。


「そんなバカな……!? 平原の悪霊を何とかできるなんてありえねえ! しかも<スキルなし>に……!?」

『「できない」という言葉こそ貴様の限界を示すものじゃ。所詮貴様はその程度ということじゃ』


 彼らは既にアビニオンによって制圧されていた。

 エナジードレインで生命力をギリギリまで奪われ、動くどころか立っていることすらできない。


 この状態で襲撃されたら、たとえ子どもに殴られたとしても容易に全滅することだろう。


「そんな、オレが……! このドギーザ様がこんな簡単に……!?」


 そして現実を受け止められない大男。

 どうやら冒険者として自信過剰になり、何でもできると勘違いした成れの果てらしい。


 俺は、彼の肩に手を置いた。


「ぐげッ!?」


 と同時に上がる悲鳴。


「ぐぎゃあああああッ!? 痛い! 痛い痛い痛い! 砕ける! 肩の骨が砕ける!」

「そんなまさか、ほんの軽い力で握っただけだぞ」


 あくまで戦闘用の力だがな。

 たしかにミシミシという軋みが手から伝わってくる。この上さらに力を込めなくても、あと数十秒のうちに彼の肩の骨は砕け散るだろう。


「たしかに俺は<スキルなし>だ。神に与えられた能力もなく何もできない。できることは普通の人たちと同じだけ」

「いだい! いだだだだだだだ!! 放して! 放せええええええッ!?」


 痛みで顔が真っ赤になり、粘っこい汗が全身から噴き出す。

 それでも巨漢は俺の手を振りほどけない。仮にエナジードレインを食らわず万全の状態であっても同じだろう。


「そのことは自分が一番よくわかっている。だから俺はいつも思う。この世界の誰もが俺より偉いのだと」

「痛い! 痛いいいいいいいッ!!」

「俺にできないことができるすべての人を俺は尊敬する。しかしその中でもやっぱり尊敬できないのは、自分が特別だといって他人を見下し、蔑ろにするヤツだ。心根の醜さが、美点のすべてを台無しにする」

「あぎゃあああああああッ!?」


 ゴキリ、と嫌な音がドギーザの肩から鳴り響いた。

 砕いてはいない。そう見せかけて関節を外しただけだ。


「いだいいい……! 助けて……! オレが悪かったです。もうしませんからぁ……!」

「さて、今度はもう片方の肩を……」

「やめてええええええええッッ!!」


 大の男が本気で泣き出した。


 こうして傍若無人を働いた冒険者は徹底的に叩きのめされ、ギルドから不穏分子は一掃された。

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― 新着の感想 ―
[一言] 土下座するからドギーザなのかと思った
[気になる点] >霧に接しているということは彼女と接しているのと同様で、生物はそこから無尽蔵に生命力を吸い取られる。 『無尽蔵』は文字通りに尽きる事無い量が収蔵されている様子。取る量ではなく、供給側…
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