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13 万能の持たざる者

 こうしてコラント平原で巻き起こる悪霊問題は解決した。

 平原を徘徊する悪霊たちは皆、魔神霊アビニオンが発する瘴気に誘われて集まってくるので彼女が退去したなら自然と散り散りになり、最後にはすべていなくなるだろう。


 元々風通しがよく、陽光照りつけ明るい平原に、悪霊などは住み着きにくいのだ。


 で。

 あと他に問題があるかというと。


「リューヤさん!?」

「リューヤ!?」


 二人の騒ぎようが尋常じゃなかった。

 食い入るように俺へと迫ってくる。ダブルで。


「どういうことですかレベル<8,347,917>って……はっぴゃくまんッ!? そんなレベルがありえるんですか!?」

「ギルドカードには、そんなこと少しも出てなかったろうが! レベル<17>だったろ!? それがなんでんなわけのわからないことに!? アンタアタシを騙していたのかい!?」


 怒涛のような追及をなだめて説明するのが大変な俺だった。


 ギルドカードの件は俺が騙したわけじゃない。

 ただ単にカードの機能が、三桁以上のレベルを表記するのに対応していなかっただけ。


「っていうか皆もあっさり信じちゃうんだね」

「信じるしかないだろう。ここまでのアレを見せつけられたら」


 アレ? どれ?

 ……と惚けるのはやめておこう。色々やったからな。


「スキルもないのに実体のない悪霊を吹き飛ばしたり、その親玉を戦うまでもなく全面降伏させたり……。そりゃスキルがなければ、クソみたいに高いレベルでもないと無理だよな、そんな芸当……」

「リューヤさんは、やっぱり本当に凄い人だったんですね……!」


 ノエムまでしみじみと言う。


「そんなに強ければスキルなんていりません。私は自分には不相応な凄いスキルを持たされて、それに振り回されているというのに。リューヤさんみたいに強い人には、そんなのまったく関係ないんですね」

「そんなこたーない」


 俺は、ノエムと視線の高さを合わさるように膝を折る。


 俺だって昔は<スキルなし>であることに、とことん煩わされた。

 絶望感に劣等感。

 優れたスキルを授かったかつての仲間たちにどれほど嫉妬したことか。


 その悔しさをバネに青龍の修行を耐え抜いて、力を得たことも事実。

 でも俺の本質はけっして変わらない。


「俺は今でも<スキルなし>だ。何もできない能無しさ。強くなっただけでできることはそんなに多くない」

「そんなこと……」

「あるさ。だからキミのように素晴らしいスキルを授けられた人を頼りにすることは、これからたくさんあるだろう。その時は助けてくれるか?」

「は、はいッ!!」


 いい返事だった。

 結局人間、自分に与えられたものだけで何とかやりくりしていくしかないのだ。


 自分にない者を求められたときは他人に頼るしかない。

 俺は、所詮レベルが七桁あるぐらいで万能だと思い上がれるほどお調子者にはなれない。


『人格者じゃのう主様!』


 ひたってたら、何か白い女の幽霊がすり寄ってきた。

 魔神霊アビニオン。

 まだいたのかコイツ?


「ちゃんと命令通り、ここから立ち退くんじゃないのか?」

『それならもう準備完了しておるよ? 城も撤去し終わったしのう』

「え? うわああッ!?」


 ビックリした。

 アビニオンが棲み処にしていた古城が跡形もなく消え去っている。

 いつの間に!?

 音すらしなかったから全然気づかなかった。


『アレは、わらわの体の一部で作った幻影城じゃからのう。出すも消し去るも、指を鳴らして一瞬じゃよ』


 マジでか。

 あまりに勢いよく降参して実感が失せかけてきたけど、この女幽霊やっぱり凄いヤツなのでは?


「それじゃあ達者でな。もう人様に迷惑かけるんじゃないぞ」

『え?』

「え?」


 何故そこで『何言ってんだコイツ?』みたいな反応になるの?

 立ち退きを受け入れたんだからどこへなりとも去っていく流れでしょう?


『わらわはアナタ様と共に参るぞ! 主と認めたからにはどこへなりともお供するのじゃ!』

「えー?」


 なんか人外がとんでもないこと言い出した。


「そんなこと言ったって、俺たちこれから街に戻るんだけど? キミも一緒に街に行くってこと?」

『主様が向かうところであればどこだろうと』


 振り向くと、ノエムとロンドァイトさんが呆れたような困ったような渋い表情をしていた。

 多分、俺自身もそんな表情をしてるんだろう。


「…………あのね? キミは人間から見たら恐ろしい存在だってわかってる? キミが人間の街に入ったらパニック必定!」

『何を言う。それなら主様とて地上の生きとし生けるものすべてから畏怖される怪物の中の怪物であろう? レベル八百万オーバーじゃぞ?』


 ぐうの音も出ねえ。


「しかしホラ、キミって周囲に悪霊が集まってくるんでしょう? 体質? ということはキミが街に入ったら街中に悪霊が発生して大惨事に……!?」

『それはこうすれば解決じゃあ』


 アビニオン、みずからの頭のてっぺんの、つむじから生えている一房の毛をキュッと回す。


『これで漏れ出す瘴気は閉じ込めたぞ。雑霊どもはわらわの瘴気に惹かれてやってくるからこれでもう寄ってこん』

「元栓!?」


 とにかく反論の種が一つ一つ潰されていく。

 これでもう二言三言交わしていくうちに二の句が継げず、ついにアビニオンの主張を受け入れることとなったのだった。


『いぇーい! では凱旋しようぞ皆の者!』

「原因対象が言うな!」


 ともかく新人研修として始まったのに、何故か仕舞いには街の危機を救う結果となってしまった。

 意外な展開だなあ。


『そうじゃ! 折角主従の契りを結んだからには、わらわから主様に良い物を献上しなければのう!』

「何すか? ぶむうううううううッッ!?」


 いきなり唇を奪われた!?

 幽霊女からブチュッと。口の中に滑り込んでくるヌルっとした感触は……相手の舌!?


「きゃあああああッッ!?」

「ちょっと何やってるんだい色ボケ幽霊!?」


 ノエムもロンドァイトさんも大慌て。


 っていうか幽霊なのに肉体に触れられるのか? あるいは超越者だけあって色々常識を逸脱するのか? と思っていたら……。


『……ぷはッ、これで主様とわらわには霊的な繋がりができて、一部の感覚を共有できるようになった! 主様!』

「なんだよ!?」

『あの娘どもをまじまじ見てみるがいい!』


 ええー?

 嫌だよ、最近は女性と目が合っただけで犯罪扱いされたりするんでしょう?


 公序良俗のマナーを守るためにも滅多なことはしたくない。

 なので一目見るだけにしよう。


 としたら……。


「ん? なんだ?」


 二人を収めた視界に、明らかに実体ではない文字のようなものが浮かんでくる。


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【名前】ノエム

【種類】人間

【性別】女

【年齢】14歳

【Lv】3

【所持スキル】錬金王

※スキル説明:錬金、調合、冶金などの操作を実行可能。さらに錬金に関わるあらゆる効果を限界まで優良化。(錬金知識のインポート、錬金等の操作成功率+100%補正、生産物性能30%UP、アイテム鑑定)

【好悪度】♥♥♥♥♥♥

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【名前】ロンドァイト

【種類】人間

【性別】女

【年齢】33歳

【Lv】49

【所持スキル】聴覚強化

※スキル説明:当人の聴覚能力を向上。精神集中で一時的なさらなる向上も可。

【好悪度】♥♥♥

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「……パラメータが見えてる?」

「「何いいいいいッ!?」」


 ってことだよなコレ?

 記されている名前とかレベルも思い当たるし?


『魔神霊なら他者のパラメータぐらい簡単に覗き見られるからのう、その感覚を主様にもお分けしたというわけじゃ!』

「なんという……、扱いに困るものを……!」

『自分より強い者を透視することはできんが、主様なら何の問題もないじゃろう? 主様より高レベルなど、この地上にいるわけがないからのう!!』


 じゃあ俺は、アビニオンの目を通して他者のパラメータ(簡易的だが……)を読み取ることができるようになったってこと。

 なんか覗き趣味みたいで釈然としないが……。


「凄いことだよリューヤ!」


 またロンドァイトさんが興奮気味に言う。


「それって要は<人物鑑定>スキルが身についたようなもんじゃないか! 滅茶苦茶重宝される便利スキルだよ!」

「リューヤさんは、ものすごく高いレベルに加えてスキルも得たようなものじゃないですか! さすがリューヤさん!」


 いやいや、所詮<スキルなし>の俺が、禍々しいモノの助けを得ているに過ぎないよ。

 俺自体に何もないのは変わりない。

 何もできない俺が、誰かの助けを借りて何かをできるようになる。


 きっと俺の人生は、そうすることでしか進んでいかないのだろう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 5年前に30越えてた人が33歳なのはおかしいと思います
[良い点] 【好悪度】wwwwwww 嫌悪方面に傾くと☠なのか×なのか気になる ロンドァイトもハーレム要員なのか? あまりいないタイプのヒロインなので好感がもてる
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