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130 翼ある龍

『ジャハハハハハハハ!! ジャハハハハハハハッ!!』


 天空に浮かび、真っ赤な龍は笑った。


 空気が震えたつほどの笑い声で、内臓が押し潰されるようであった。


『んぎゃあああッ!?』

『ぐふいはすばッ!?』


 一緒に接近した魔神どもはダメージすら受けている。


『主様! 一体何が!?』

「近づくな! あの龍何となくヤバい!?」


 後続のアビニオンたちに呼び掛けて、改めて天空に座す赤い龍を睨む。


 なんでここで龍が出てくる!?


 全身が赤く、ウロコの一枚一枚が艶めいて炎のように揺らめいている。

 そして一層特徴的なのが一対の大きな翼を持っていることだった。


 前見た龍には、あんなのついていなかったぞ?


『龍……!? 龍ではないか!? なんでこのタイミングで龍が出てくる!?』


 さすがのアビニオンも困惑動揺を抑えきれない。

 相手は次元を超えた大別格だ。


『主様! まさか主様を鍛えた龍とはアレなのかえ!?』

「いや、違う……別のヤツだ……!」


 だからこそ俺も驚いている。

 ここでまったく違う龍が眼前に現れようとは。


 八龍って言うくらいだから全部で八体いるのかと思ったが、まさかここで偶然出会うことになるとは!?


『ジャハハハハハハハ!! ジャハハハハハハ!!』


 そしてあの龍はまだ笑っていやがる!?

 何がそんなにおかしいんだ!?


『ジャハハハハハハハ! 重畳重畳! 天命に誘われてきてみれば! このように数奇な宿命に出会うとはなあ!! ジャハハハハハハハ!!』

「だから笑うなッ! お前が笑うだけで地表が炙り焼きになりそうなんだよッ!? 何だこの猛烈すぎる熱気は!?」

『愉快ならば笑うべし! 己の喜びの意を全力で知らせることこそ礼儀ではないか! だからワシは笑うのだ! ジャハハハハハハハッ!!』

「礼儀だと!?」

『いかにも!』


 翼ある真っ赤な龍は、身をひるがえしながら言う。


『我こそは天地神明の縁を巡る八卦の化身! 太一土王を守護せし八方の龍が一角よ! 振るいし力は「火」! 守る方角は「南」! 司る徳目は「礼」! まといし色は「赤」! 要するに我こそ八龍、赤龍ケツァルコアトルよ! ジャハハハハハハハ!!』


 やはり八龍……!?

 現世を超越した、究極の存在。


 本来はこの世界に存在すらせず、別次元にいるはずのヤツらが、数百年に一度は気紛れにこっちの世界にやってくるという。


 しかし、ここ数年前に俺を鍛えた青龍が訪れたばっかりなのに、なぜ間髪入れずやってきておりますか。


『龍……!? これが龍……!?』


 驚き衝撃を受けるのは、何も俺たちばかりではない。

 さっきまで捨て鉢となっていた魔神の生き残りどもも、顕れた超越存在に。魂を消し飛ばしていた。


『これが我々の目指す先……究極を超えた究極……!?』

『恐ろしいまでの大きさ……まるで天体そのもの! これほどまでに巨大なものが、我らの目指す者だったのか!』


 魔神たちが龍へと迫る。

 歓び勇んで。


『龍よ、龍よ! 私たちはアナタに憧れて目指してきた者! どうか我々をお受け入れください!』

『我らを虐げる邪悪な者たちに神罰を!』


 まるで縋るように、赤龍へと集まってくる魔神たち。


『あッ、そんな不用意に近づくと……』


 赤龍が注意しようとしたその時だった。


『ぎゃああああああああッッ!? 熱い! 熱い熱いぃいいいいいいいッッ!?』

『体が焼ける!? 魂まで!? なんでええええええッ!?』


 魔神どもは、赤龍に近づいただけで、その放たれる熱に焼き尽くされ、蒸発した。

 灰も残らずに。


 赤龍からは常に超高熱が発せられていて、近づけばそれだけで焼き尽くされる。

 たとえそれが神を気取る超越者であろうと。


 数体に残った魔神たちも二体ほど焼き尽くされ、それを見た残りも慌てて離れようとするが、もはや充分に赤龍に近づきすぎている。


『あぎょぉおおおおおッッ!? なんで!? なんでええええええッッ!? なんで私たちを焼くのですか!? お助けください龍よぉおおおおッ!?』

『ジャハァ……!? すまんのぅ、じゃがワシが注意するより早く寄ってきてしまうから止める暇がなかったんではないか……!?』

『そんなぁぁぁあああああああッ!? 熱い!? 熱い熱い熱い熱い熱いぃいいいい……ッッ!?』


 残りの魔神も一体残らず全身を炎に包まれ、苦しみながら焼け死んでいった。


 超高熱によって自然に発火したのだ。

 しかしそれは、己の犯した罪によって焼かれる地獄の亡者であるかのようだった。


『……どこぞの昔話に、蝋で作った翼を得た人間が太陽に近づきすぎて翼を溶かし、真っ逆さまに転落するとか言うのがあったが……』

『まさにそれですわね。傲慢はあらゆる悪罪の端緒にして身の破滅ですわ』


 追ってきた魔神霊たちも唐突に起きた思いもしないことに呆然と浮かんでいた。


 とにかくもこれで魔神どもは全滅し、世界の災いを取り除くことはできた。

 しかしだが……。


「ほぅあッ!!」

『ぐぼぅッ!?』


 俺は赤龍をぶん殴り、派手にぶっ飛ばす。

 できる限り下から上へ。


『主様!? 何をしておるんじゃ!?』

「これ以上、赤龍を地表に近づけるな! コイツが自然に発している熱だけで焦土と化すぞ!?」


 そうだ。

 超越者の魔神ですら焼き尽くされた炎龍の超高熱だぞ。


 今だ高高度の上空にいるから地表への影響は少ないだろうが、それでも赤龍のいる直下は真夏並みの温度となっているに違いない。


 それでも季節外れの猛暑、農作物や家畜に大打撃を与えるのは不可避だし、そしてそれ以上酷いことにもなりえる、赤龍が地表に下りたら!


「だからここで全力で押し返す! どりゃあッ! ぐわりゃあああああッ!?」

『痛い痛い痛いッ!? わかったわかった地上には下りない! 熱量も調節するから! ジャハァ……!?』


 何とか地上焼滅の危機は免れた。


 ぐおおお……!? 拳が焼けただれている……!?

 あの赤龍を直で殴った代償か……!?


『主様!? なんと主様が傷を負うとは……!? 初めて見たぞえ!?』


 アビニオンが空中を駆け寄ってくる。

 彼女が来ても無事ということは、赤龍は本当に自身から自然放射される超高熱をひっこめたようだ。


 最初からそうしてくれればいいのに。


『しかし、曲がりなりにも超越者たる魔神が接近しただけで蒸発する超極炎龍に、触れてなおかつこの程度の火傷で済んでおる主様が凄いのか……!? どっちが凄いのかわからんな!?』

「どっちも大したことないよ。特に周囲への影響をまったく考えもせずに迂闊に顕現したあのアホは……!?」


 俺のじっとりとした視線を受けて、赤龍は気まずげに目を逸らし……。


『不注意であった……すまんジャハ……!?』

「ちゃんと謝るんだ」

『ワシは他の連中と比べて大雑把でのう。細かい調整は苦手なのだ。だから多少の行き過ぎは許してほしい』

「アンタにとっての多少は、人類にとってはオーバーキルすぎるんですが」


 何しろ龍だからな。


『ふーん、まあそれより、ワシが引き寄せられた運命は、おぬしの宿命より発しているようだのう? 中々面白い宿命ではないか?』


 人類の存亡を『それより』で片づけるな。


『人でありながら我ら八龍に匹敵する力を持つ……。さらに覚えのある残り香が張り付いておるのう。真面目野郎のオオモノヌシか。なるほどアイツが一番、人の子に情けをかけそうではある』

「たしかに俺に力を与えてくれたのは青龍だが、知り合いか?」

『それはそうであろう? 我らは同族同格。同じだけの力を存在理由を分け合った兄弟のようなものよ。しかし最後に会ったのは何万年前だったか……、忘れてしもうたがな』


 あらゆる意味で人間の尺度を大きく超えていた。


 かつての修行の間は、無知ゆえにそこまで実感したことはなかったが、その後さまざまなスキル使いや魔族魔神などの超越者に渡り合って、改めて身が震える。


 龍ってやっぱり凄かったんだ、と……!


『オオモノヌシが目をかけ、育てた者だからこそ、このワシを地上まで誘う運命を発することができた。ワシは赤龍ケツァルコアトル。太陽の化身龍にして「礼」の徳目を司るモノ。そして「礼」とは知性ある者の好意善性を表す手段。いかなる善意も、愛情も、行動をもってせねば他者に伝わることはない。人の内側にあるもっとも美しいものを外側へ発露させる作法こそが「礼」』


 赤龍ケツァルコアトルは、俺に向けて言う。


『さあ、稀有なる宿命の持ち主よ。その宿命を持って天命たるワシに何をさせる? お前の宿命が作り上げた願いとはなんだ? 地上の人が断じて願えば、その願いは天に通じるものぞ?』

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― 新着の感想 ―
[一言] 人間にスキルを与えてもらうのかな? (゜゜;) メチャクチャ気になります! (これで帰って下さいはないよね?)
[一言] 超越者の癖にイカロスみたいに死ぬのか魔神ども…
[一言] 赤…飛んでる…強い…龍…うっ、今日開放して5連敗した奇しき赫曜を思い出す
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