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12 理解できるモノ現る

「……リューヤさん、悪霊のボスと戦いに!?」

「一目見ただけでわかる……! アイツはヤバいよ! どんなモンスターよりも、理性をなくした犯罪冒険者よりも……! 次元が違う! 外をうろついてるレギオンなんかアイツに比べたら虫けらだ……! アタシが十何年と磨き上げてきた冒険者の勘がそう言っている……!?」


 同行のノエム、ロンドァイトさんは既に恐怖に打ち震えていた。

 それだけあの幽霊女が出す殺気、瘴気、魔気というべきものが凄まじく、おどろおどろしいということだ。


『おい、そこな女ども』

「「はいいいッ!?」」


 いきなり名指しされて超ビビる二人。


『安心せよ。おぬしたちは生かして街とやらに帰してやる』

「へ……!?」

『その代わり、これから目の前で起こることを語って広めよ。わらわを不快にさせた愚かな男が、どれほど無惨な目に遭って死ぬのか。わらわの不興を買うことがどれほど悲惨な結果を生むのか。人間どもに戒めを与える歌姫となるのじゃ』


 そう言って幽霊女は、標的を俺だけに狭める。


「てっきり『一人も生かして帰さん』とか言うと思ったが、優しいんだな」

『効率の問題よ。ここでわらわの恐ろしさを充分思い知らせてやれば、お前のような身の程知らずは二度と現れまい。わらわも安穏を乱されることもなくなるということじゃ』

「それでも二人を生かしてくれるというお前の判断には好感が持てる。お前のことが少し気に入った」

『な、何じゃ今さら!? おだててもなにも出んぞ!?』


 幽霊女が照れて慌てている……?


「だから俺も、お前が全面降伏するなら命まではとらないでおいてやろう」

『やっぱ不快じゃな身の程知らずが!!』


 そしてまた怒り出す。


『人間風情が、どこまで傲慢になれば、わらわのことをそこまで舐められるんじゃ!?』

「そりゃお前ほど美人なら舐めたくもなるが……」

『そういう意味ではないわスケベ!!』


 怒ったり照れたり忙しい幽霊だなあ。


『……こ、このうつけが。こうなれば一つ講釈をしてやろう。おぬしが死ぬ前に、ある程度知識を足してやれば愚かさを自覚する援けとなるであろうからな』

「ほうほう?」

『よいか? この地上には三種の超越者がおる。魔族、魔神、魔神霊じゃ』


 魔族。

 魔神。

 魔神霊。


『これらは人間や獣、そして魔物どもを遥かに超越し、この世界の在り方までも自由自在にできる。お前らの想像を遥かに超えた強者たちじゃ』

「お前はさっき自分のことを魔神霊だと言っていたが……?」

『その通り! わらわは超越者の頂点に立つ魔神霊の一体よ! 魔神をも超える力と知恵を持ち、自然の運航をも支配する! 魔神霊はこの世界にたったの十八体。そのうちの一体がわらわじゃ!』


 なんとも自慢げに言う幽霊女。


『まだわらわの偉大さにピンと来ておらんようじゃのう。哀れで鈍い頭じゃ。ではこういう説明の仕方ではどうじゃ? お前らにもレベルはあろう?』

「それは、まあ……」

『お前ら人間のレベル上限は<99>だったはずじゃよな』

「そういうことになっておりますが……!?」

『たったの<99>! なんとも矮小で哀れなことじゃのう、その程度がおぬしらの限界とは! 鍛えに鍛えて<99>! 何じゃその伸びしろの少なさは!』


 何ともバカにされているような口ぶりだが……。


「そういうからには、お前たちのレベル上限は……?」

『大方想像がついているであろうが、絶望感を増すために順番に告げてやろう』


 そう言って幽霊女は語り出した。

 各超越者の、それぞれの種族としてのレベル上限は……。


 魔族のレベル上限は<999>。

 魔神のレベル上限は<9,999>。

 魔神霊のレベル上限は<99,999>。


『わかったかの? お前ら人間どもがわらわらに比べてどれほど卑小な存在か。お前らが限界まで鍛えても、超越者の最下級、魔族の十分の一でしかないのじゃ!』

「ちなみに、お前自身のレベルは?」

『なかなかいい質問じゃ、その相槌上手に免じて応えてやろう。わらわの現状レベルは……<59,845>じゃ』


 傍で聞いているノエムやロンドァイトさんは、話のスケールに圧倒されてかブルブル震えている。


「レベル……一万以上……!?」

「そんなの人間が敵うわけがないじゃないか。こんなのが悪霊どもの後ろにいたなんて……! 終わりだ、アタシたちの街はもうお仕舞だ……!!」


 わかりやすくビビっている。


『むほほほほ、期待通りのリアクションで爽快じゃわ。そこな男、お前はどうじゃ? ようやく自分の愚かさがわかってきたか?』

「いや別に?」

『あれぇッ!?』


 たしかに面白い話を聞かせてもらった。

 魔族に魔神霊に魔神、この世界にそんな輩が潜んでいるとは。なんかあった時の参考になるだろう。

 しかし、それで俺がビビるかどうかは話が別。


「だって、自分よりレベルが低いヤツに何でビビらなあかんのよ?」

『はえ?』

「はあああああああー」


 相手にわかりやすくするため、ちょっと力を解放し、生命力を周囲に放ってみた。


『んぎゃああああッ!? 何じゃこの凄まじい生気の奔流はあああーッ!? わらわの霊体が掻き消されるうううッ!?』


 コイツも生命力のごり押しで消されるのか。

 やっぱり基本的に悪霊どもと同じ存在なんだな。


『あああ、あぶねえ! 危うく消されるところじゃった! 魔神霊たるわらわを無造作な力押しで消そうなど、いったいどれほどの気力総量があれば……! そもそも人間に可能なのか!?』


 そう言ってから魔神霊、なんか目を細めて俺のこと睨んでくる。

 何ですそんなマジマジ見詰めて……?


『……み、見えぬ!? 魔神霊たるわらわの透視をもってしてもこの男の情報を読み取ることができぬ!』

「何勝手にヒトのパラメータ覗こうとしておるか」

『どういうことじゃ!? 透視を遮断できる条件はただ一つ、覗かれる側が覗く側の能力を大きく超越しておる時だけじゃ! たかが<99>までしかレベルの上がらぬ人間ごときに……!?』


 幽霊女、驚き動揺しながら……。


『おいお前! お前のレベルは一体いくつなんじゃ!?』

「言いたくない。どうせ言っても信じないし……」

『いいから教えろ! まさかお前……!?』

「言っても笑わない?」

『笑わんわ!』

「ウソつきとか言わない?」

『言わんから! いいからさっさと言え!』


 そこまで食い下がられたからには言わねばなるまい。


「<8,347,917>」

『んッ!?』

「だから<8,347,917>」


 やっぱり耳を疑ってるじゃねえか。

 だから言いたくなかったんだ。


 しかし真っ白の幽霊女は、少しずつ理解が追い付いたのか、顔中から脂っこい汗をドバドバ噴き出し……。


「幽霊にも発汗機能ってあるんだなあ」

『降参しますううううううッ!!』


 そして迷いのない土下座を食らわせてきた。


『わらわが愚かでした! 身の程知らずでした! だから命ばかりはお助けを! 御慈悲おおおおおおおッ!!』

「清々するほどの転身ぶりだなあ」


 こういうヤツほど長生きしそうだ。コイツは幽霊だけど。


「しかし簡単に信じるんだな。少しは疑わないの? 俺がウソ言ってるかもって可能性は考えない?」


 しかも人間のレベル上限が<99>だって事前に確認されてるのに。

 俺のレベルは、その前提を覆すものではないか。


『そう言われましても……、主様の力がわらわを超越していることはわかっていることですし。ならば十万や百万ぐらいあろうと何の不思議もないのじゃよ……!』


 誰が主様やねん。


『あの、……ところで主様は、知り合いに巨大なヘビみたいなヤツとか、自然現象そのものみたいなヤツとかいたりしませんかの?』

「巨大なヘビみたいなって……龍のこと?」


『自然現象そのものみたいなヤツ』とかは、知らん。


『龍かああああッ!? やっぱりアイツらの仕業かあああッ! 気軽に地上に現れては気軽に世界の法則を乱していきおってええええッ!!』


 そろそろ俺にもわかるように話してくれんかね?

 自分だけが訳知り顔でわかった風をしても、別にカッコよくはないからな?


『し、失礼いたしました主様。ご説明いたします!』

「手短にね」

『先ほど、この地上には三種の超越者がいると言いましたが、実はさらにその上がおるのです』

「上?」

『八龍、四元、二極と言われるモノたちです。ヤツらはこの現世の外……隔絶された高次元に棲み、滅多にこちら側に現れませんが、数百年に一度程度のスパンでフラリと出てきては地上がひっくり返るような影響を及ぼしてくるのです!』


 何だその存在自体が大迷惑みたいなヤツら?


 …………。

 俺に直接修行をつけてくれた青龍オオモノヌシのことを思い出した。

 存在自体が自然災害以上。

 なんかしっくりきた。


『ということは主様は、龍に見出された者……龍に選ばれた者!? だとすればわらわすら超越する力を持っていても何ら不思議ではない! 今までの御無礼、平にお許しくださいいいいッ!!』


 そう言って頭を地面に叩きつけんばかりの勢いで土下座する。

 超越者の一種、魔神霊。


『これよりアナタの使い魔となって働きます! どんな命令だろうと喜んで従い、速やかに実行いたしますううううッ! ゆえに御慈悲を! アナタ様の御寵愛をおおおッ!?』

「どんな命令でも従うの?」

『何でも致しますうううううううッッ!!』

「じゃあ死ね」

『ぴきゅッ!?』


 幽霊女、目尻にこぼれ落ちそうなほど涙をためてこっちを見詰め返す。


「なんてウソウソ。さっきも言っただろう、降伏するなら命は助けるって」


 ここで死ぬほど怖い思いをさせておけば、二度と人間を害さないだろうと思ってあえて意地悪してみた。


「こっちのお願いは最初から変わらない。この土地を引き払って人間に危害を加えないこと。それさえ守ってくれるなら俺も、キミのことを最大限尊重しよう」

『ありがとうございますうううッ!! さすが主様! 心が広いいいいいッ!』


 だからなんで主様なんだよ?

 その呼び方やめろ。

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