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128 魔神霊総進撃

 うーん、いや?


 その魔神どもは俺が皆殺しにするつもりだったんですけれども?


『汝ら、やるぞ! 標的はまずあの魔神霊だ! 引きちぎって食らい尽くしてくれるわ!』

『し、しかし魔神霊の力は我らを凌ぐ……、まともにぶつかって勝てるとは……!?』


 世界の支配者気取りで傲岸不遜だった魔神どもが、アビニオンを仰ぎ見てブルっていた。


『ヤツらのレベル上限は十万……! 我々の十倍だ! ここは一旦引いて……!』

『バカめ! 今の状況をよく見ろ! 絶好の勝機であるのがわからんか!?』


 恐れる魔神、粋がる魔神。

 反応は様々だ。


 俺は地上で置いてけぼりなので、茶を飲み始めた。


『我らは今、全三十五神が揃っているのだぞ! 対するヤツはたった一体! 全員だ! 全員でかかって倒せばよいのだ!』

『おお!』

『魔神霊の能力が、我ら一神一神の十倍であれば、十神がかりであれば互角となる計算! こちらにはさらのその三倍以上がいるのだ! 負ける要素などない!』


 数を頼みに奮い立つ魔神ども。

 でも、それって追いつめられた小物臭がいかにも凄い。


『はーん……、ぬしらのバカさ加減が留まるところを知らぬのう』

『強がるでない! 究極至高たる魔神より上位に存在するものなど本来あってはならぬのに、そのあり得ぬ座に居座る貴様ら魔神霊は存在自体が重罪なのだ! 今こそその罪を裁く時!』

『なーるほどのう、わらわらの存在自体が罪か。……どう思う? 皆の衆?』


 と、アビニオンは問うた。

 しかしその問いの相手とは誰なのか?


『ぬしらがバカすぎると言ったのはの。ぬしらのすることぐらい、こっちは容易に予想できると、ぬしらが予想できんからじゃ。能力で劣る相手を数で押し潰す。まこと安易安直の考えよのう。まるで人間のようじゃ』

『何をッ!? 我々を人間同様だと、侮辱するか!?』

『わらわは人間を侮ってはおらぬ。ヤツらのやることなすことは生き抜くために非常にシンプルかつ率直じゃ。だから、わらわも真似することにした』


 魔神たちの座す天よりも、さらに遥かに高い空が妖しく蠢き始めた。


『数で押し潰すんじゃろう? だったらこちらもそうさせてもらうわ……!』


 さらに高き座に君臨せし、実体なき神聖なる魔霊。


 魔神霊アンドリナ。

 魔神霊ホンコン。

 魔神霊サトゥ・マレーニ。

 魔神霊サンクト・ペルテ。

 魔神霊ブレーメン。

 魔神霊シュバルツバルト。

 魔神霊レーワルデ。

 魔神霊ブルドーニュ。

 魔神霊グンマ。

 魔神霊バスティーユ。

 魔神霊オレルアン。

 魔神霊トロイア。

 魔神霊ゼノヴァ。

 魔神霊マドリーノ。

 魔神霊フランドル。

 魔神霊マグダラ。

 魔神霊オケアネス。


『ああ、……バカな、そんなバカな……!?』

『十八体……、十八体の魔神霊が集結……!?』


 三十五体の魔神たちは、顕れた脅威に度肝を抜かれ、立ちつくすしかない。


 あれが地上世界の真の最強者……。

 魔神霊。


 皆基本的にはアビニオン同様の半物半霊、実体なき姿をしているが、いずれも美しき貴婦人の様相をして、美貌麗しいだけでなく気品も漂っていた。


 しかし、瞳の色は全員例外なく冷たい。

 極寒の夜の満月のように、妖しく冷たい光を放っていた。


 その光の差す先は、神を騙る愚か者たちへ……。


『し、信じられない……!? 魔神霊どもは本来享楽的で気紛れ、このように一堂に集まるなどあるはずが』

『それだけぬしらのことが許しがたいっつーことじゃ』


 アビニオンが言う。

 その口調は、どこか死刑宣告を読み上げているかのようだ。


『たしかにぬしらは強い。わらわらを除き、この地上で並ぶものなき絶対者と言ってよかろう。だからといって、いい気になりすぎたのーう』


 他の魔神霊らも、アビニオンの言葉を肯定するように視線を冷ませた。


『人間、魔族、……この地上に住みしものの生を思うままに操り。より上位者なるわらわらを無視しての悪行三昧。温厚なわらわらもさすがにキレるというものじゃ』

『それでも三十六匹もいるアンタたちをいちいち潰して回るのも面倒だと思って放置してたんだけど。なんか、そのクソ虫が今日一堂に会するって言うじゃない?』

『本当にアビニオンの言った通りになったわよねえ。面倒くさいからって先延ばしにしていた害虫駆除を、一気に片付ける絶好のチャンス。そうともなれば私たち真の地上の支配者、魔神霊も重い腰を上げようってものよ』

『テメーは腰より尻が重いんじゃろう?』


 どうやら魔神霊とは他もアビニオン同様のふざけた性格の持ち主なようだ。

 それでも魔神どもよりはよっぽどマシなんだけれども。


 これらの魔神霊たちを集めるため、アビニオンはしばらく姿を見せていなかった。

 最終的に魔神との全面戦争になることは見越していたので、そのために戦力を調えようと彼女の方から動いてくれたんだが……。


 ……こんな大層なことになるとは……!?


『……で、そこなクソ虫ども。さっき面白いことを言っとったの-? なんじゃて? このわらわを十匹がかりなら倒せるって?』

『あわ、あわわわわわわわわわわわわわわわわ……!?』

『そしたら今この状況はどうするんじゃ? あーん? 魔神霊十八体の勢揃いじゃ。ぬしら虫が数に頼って倒すなら最低一八〇匹はいるのう? 遠慮はいらんぞ、連れてくるがいい?』


 できるわけがない。

 魔神の総数は三十六体と決まっているそうで、それ以上の数など用意できない。


 それもあっての上位種と下位種の差は絶対的なのだろう。


『ににににに……逃げよう! いくら何でも魔神霊の総結集に勝てるはずがない! 崇高な目的のある我々はここで滅びるわけにはいかない!』

『しししししし……しかし! 敵を前にして一戦も交えることなく撤退するなど神としてのプライドが……!?』


 慌てふためく魔神たち、その姿には神としての威厳など欠片も残っていない。


『あらぁ……、逃げられると思っていますの?』

『『『『『!?』』』』』


 仄暗い水の底から浮かんでくるかのようなゾッとする声。


 それと同時に三十六体の魔神全員が水流に飲み込まれた。

 いまだ空中だというのに、天空を駆ける川に飲み込まれて……!?


『アナタたちでしたのね? 私の可愛い娘をさらったのは……!?』

『ま、魔神霊オケアノス!?』


 あの水そのものが貴婦人の姿をとったかのような水霊は……見覚えがある。

 たしか冒険者のA級昇格試験が開催されたルブルム国を襲った魔神霊ではないか!?


 あの時、大津波によって人の街を飲み込もうとした彼女。

 そうしたのは彼女にとって娘のように大切な眷属をかどわかされ、地上へと連れ去られてしまったから。

 娘を奪われた母の怒りは、大地を丸ごと海へ沈めかねないほどだった。


 それらの工作を図ったのは、冒険者ギルドのシンパを仲介しての教会だった。


 無事一件落着したあと、一つの素朴な疑問が解消されないまま残った。

 人類を遥かに超越した魔神霊から、大切な娘を連れ去るなどという所業が人間に可能なのだろうかと。


『でも実際できてるんだから仕方ないじゃん』とその当時は事実をありのままに飲み込んで、ささいな疑問は流したんだが……。

 ……今さらになって答えが?


『そうですわよねえ……? 正面からではどう足掻いても私たちに勝てない矮小なアナタたちでも、私の目を盗んで可愛い娘を連れ去ることぐらいはできますわよねえ? 矮小なアナタたちに相応しい、姑息な手段ですわ』


 そうして連れ去られたオケアネスの娘ネレイスが、教会を介し<スキルなし>を快く思わない上級冒険者へと渡った……?


『本当に……自分たちの弱さを補ういい悪知恵ですこと。でも一つだけ間違いを犯しましたわね……』

『ひ……!? ひぃいい……!?』

『この魔神霊オケアノスを怒らせて、ただで済むと思ったこと……。どうしようもなく哀れな間違いですわ……。アナタたちの矮小さ、脆弱さ、愚かさを、じっくり思い知らせてあげましょう』

『うぎゃああああああああああッッ!?』


 魔神たちを飲み込んだ空を流れる川。それが空中にいるまま激しく渦を巻き、愚かな魔神たちをもみくちゃにする。


 初手からもう圧倒的だった。


 オケアネスさん一人でも魔神全員を片付けるのに充分な感じ。

 それほど魔神霊という存在が強力無比なのか、それともオケアネスさんの個人的な怒りがそれほど激しいのか。


『ひぃ!? ダメだ、勝てない……!?』


 それでも何体かの魔神は力を振り絞って激流から脱出、泡を噴きながら脱兎のごとく逃げ散る。


『逃げろ! 魔神霊にはどうあっても敵わない! 逃げろおおおおッ!?』

『逃がすと思ったのかえ?』


 その周囲には、既にアビニオンが他の魔神霊と共に鉄壁の包囲網を敷いていた。

 それこそ水も漏らさぬというように。


『何を興ざめなことをしておる? ぬしらのためにわざわざ魔神霊が全員集合しているのじゃぞ? それがどれだけ貴重で手間暇かけたことか、わらわたちの苦労に応え、ぬしらは一匹残らずここで滅び果てるのがスジというものではないか?』

『嫌だ、滅びたくない……嫌だ……!』

『ぬしら流に言えば、これが運命というヤツじゃ。運命とは、絶対者から弱者へ押し付けられるものなんじゃろう? だったらぬしらも潔く、わらわたちから贈られる滅びの運命を受け入れよ』

『嫌だあああああああああッッ!!』


 魔神の一体が急加速し、地上へ向かって降下する。

 その向かう先は……俺?


『あの人間だああああッ! あの人間さえ取り込めば私が最強だ! 魔神霊も八龍も敵ではない! 私がああああッ!?』

『まだそんなことを言っておるのかえ? 底なし阿呆よの』


 魔神の一体が、俺へ触れるその寸前、突き出した拳がカウンター気味に魔神の顔面へと突き刺さり、次いでその衝撃で体全体を爆散させた。


『過程を見ずに結果だけ語るのも阿呆よ。主様を取り込めばとやかましいほど繰り返すが、それがどうあっても不可能だということにまだ気づかんのか?』


 逃げ場もなく、逆転の一手もない。

 それまで勝って当然だと思い込んできたバカ魔神どもへの……。

 一方的な蹂躙が始まった。

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― 新着の感想 ―
[一言] おとなしくリューヤにワンパンされてた方が苦しまずに済んだろうにw なおリューヤがワンパンで済ませなかった場合
[一言] ぐんまぁ
[一言] 魔神の計算方式なら 魔神霊80体でリューヤ一人分なのか……
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