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112 百王集結

 サミット当日。

 俺もまたゆえあって会場となるセンタキリアン王城へとやってきた。


 警備担当兼出席者である。


 やはり俺には奴隷国家を叩き潰した張本人として、証言を求められることになって出席は不可避らしい。


 しかも確実に発言を求められるということで、今から緊張して胃が重い。

 しかし嬉しい再会もいくつかあった。


 まずはルブルム国王様。


「久々だな、無事S級冒険者となったそうで、心からおめでとうと言わせてもらおう」


 かつて俺が受けに行ったA級冒険者昇格試験の主催国がルブルム王国だった。

 そして俺のことを目の敵にするゼムナントは、センタキリアン王国の第一王子にしてルブルム国王の妹の息子。


 ということでゼムナントは王の甥っ子の権力で俺の試験合格を断固として阻もうとしたが、結局その不正が自分の首を絞めて失脚に追い込まれた。


 その騒動が元でむしろ俺はルブルム国王とお近づきになって、こうして再会を喜び合える仲になっています。


「我が国では、甥が本当に迷惑をかけてしまった。改めて謝罪せねば……」

「いえ、あのアホはそもそもうちの所属なんですから、アナタたちに迷惑を掛けましたし謝罪するのはこちらの方です。ウチの王様からも改めて謝罪が来ると思いますが……」

「私も彼の王も被害者だ。両国の絆を深めるために生まれた王子が、あのような醜態をさらすとはなあ……」


 ルブルム王様は今でも甥がやらかしたことに心を痛めているようだった。

 この王様も、ウチの王様同様明君の気質を備えているが、ウチの王様ほど強い心は持ち合わせていないようだった。


 何度も言うようにゼムナントはルブルム王の血縁であっても所属は明確に違う。だからアイツが失脚しようと直接的な被害はないはずなのに、あそこまで胸を痛めるのは彼がいい人だからに他ならなかった。


「あんなアホがいなくても両国の関係は良好ですよ。その点俺からもウチの王様にお願いしておきましょう。俺が言えば王様もきっと受け入れてくれます」


 言わなくても受け入れるがろうがな。


「ホホホ……、英雄殿はそこまでの影響力をお持ちか」

「ええ、俺はけっこう強いので」


 冗談めかして場を明るくしたあと、ルブルム国王は他の参加者へ挨拶するために離れていった。


 俺にも更なるお客が現れる。



「S級冒険者の責務を果たしているようじゃな。キミの武名は世界中を駆け巡っておるぞ」


 次にお目にかかったのは冒険者ギルド評議員のビステマリオさんだった。


『この人までサミットに?』と思った。

 世界中の王様が集まることは聞いていたが、しかしこの人も出席する資格はあるな、と思った。


 何しろ本当の意味で世界を守っている冒険者ギルドの統括者……の一人であるのだから。


「実はワシも出世してのう。先の選挙で正式に冒険者ギルド評議員長に選出された」

「まあ」


 それはおめでたいわ。

 そういえば冒険者ギルドに関わる騒動の最中、評議長の試験がどうのというフレーズが何度か小耳に入った気がする。


 それにビステマリオさんが選ばれたというのか、めでたい話だ。


「リューヤの立身のおこぼれといったところよ。ルブルム国でキミを見出し、S級冒険者に推薦したことがワシの手柄にもなったようじゃ」

「それでもビステマリオさんは評議長に相応しいと思いますよ」


 そもそも昇格試験に顔を出した評議員はビステマリオさん一人だった。

 他の評議員は皆、選挙準備に血道を上げて冒険者一人一人に注意など向けなかった。


 その中でただ一人しっかりと試験を見届けに来たビステマリオさんだからこそ、長の中の長になる資格はある。


「奴隷国家の討伐まことに大儀であった。S級冒険者となって早速功績を築き上げたの」

「そういう扱いでいいんですか? むしろこの件で責められて称号剥奪かと思ってたんですが」


 いくら何でも国一つ滅ぼすなんて暴挙だし……。


「そこまで予測していながら行動に躊躇ないのがいかにもリューヤらしい。だが安心せよ。我らとて公式の立場からあんな犯罪集団、国とは認めておらぬ」

「左様で?」

「ヤツらから再三の要求はあったが、けしてヤツらの国土にギルド支部を置いたりもせなんだ。国などという呼び名はヤツらが勝手に言っているだけのこと。ヤツらは今も昔も滅ぶべき邪悪でしかなかったのじゃ」


 ビステマリオさんにそう言ってもらえると安心する。

 俺のした行動で俺がお世話になった人々に迷惑がかかることだけが心配だったので。


「サミットの席でも主張し、S級冒険者リューヤの功績録に記すことも発表するつもりじゃ。きっと各国の首脳たちも賛同してくれよう」

「功績録?」


 何それ?


「知らなんだのか? S級冒険者には一人一人に功績を示す記録がつけられ、一級資料としてギルドに保管される。死後もギルドが続く限り永遠に閲覧され続け、語り継がれることであろう」

「何それ聞いてない!?」

「ホッホッホ、知らなんだか。まあ強者の人生は後世の模範とならねばならんゆえ、ある程度は諦めるのじゃな。嫌でも何でもお前の名は向こう数百年残り続ける。それを意識して品行方正に生きてくれよ」


 ううッ、期待が重い……!

 それつまり、なんか悪いことをしたらそれも向こう数百年は語られ続けるってことじゃないですか!?

 迂闊にポイ捨てもできない!


 カラカラ笑いながら離れていくビステマリオさんに代わる、さらに新しい人が挨拶に現れた。

 しかしこの人、俺は知らない。


「ありがとう! 我が国を救ってくれてありがとうぅうううううううううううッッ!!」


 といきなり泣きつかれた。


 なんなのと戸惑うことしきりであったが、よくよく話を聞いて理解した。


 この人は、奴隷国家と境を接していた隣国……サヴェテラ王国の国王様だった。


 あのならず者国家に近い位置にあったせいで何度も侵入を受け、国民を連れ去られ、それを防ぐために出動した騎士や兵士まで『奴隷印』で奪われていたらしい。


「民を守るために率先して出ていた王子までも捕まり、絶望するしかなかったというのに……! その王子まで戻ってきてくれた! ありがとううううううッ!?」

「えッ? 王子?」


 そういや自分が王子だといっていた解放奴隷がいたような。


 あれはサヴェテラ国の王子様だったのか……!?



 他にも今まであったこともない王様やら大臣やらが次々俺の前に現れ、俺と挨拶していった。

 俺との面識を持ちたかったのだろう。自身はそれほど大したヤツとも思わないが、相手が望むなら付き合うことにした。


 そしてついに始まるサミット。

 世界中の重要人物が集って、重要な話し合いを行うのだ。


 普段なら晩餐会とかダンスパーティーに使われているような大広間に、今日は規則正しく机が並べられ、各人が行儀正しく座っている。

 俺もまた席の一つに神妙につくのだった。


「……皆の衆、まずは礼を述べよう」


 万座の注目が集まる中、センタキリアン国王が始まりの言葉を継げる。


「我が要請に答え、この座に集まってくれたことに感謝する。それぞれに果たすべき職務があり、そのために多忙の日々を過ごしていたことであろう。そんな中我が望みのために時間を割いてくれてまことにかたじけない」


 深々と頭を下げるセンタキリアン王。

 そこへ……。


「何を言う、我らが今大忙しなのは、貴君の隣におる英雄殿のせいであろう?」

「こうして集まったのも我らの都合あってのことよ。わざわざ恩に着る素振りなど見せるな。遠謀に長けたセンタキリアン王の手管なら、貸しがいつの間にか借りになっていそうで空恐ろしいわ」


 他の王たちの冗談めいた口調に、どっと笑い声が上がる。


 会議は和やかな雰囲気で始まるようだ。

 王様は威儀を正し……。


「では早速本題に入るとしよう。この世界をそれぞれ支える王侯の皆々が一堂に会する。そうでなくては決められぬほど重要なことはそう多くはない」


 語り続ける。


「皆も予測はついておろう。我々はずっとその問題から目を逸らし続けてきた。いい加減に対処をするべきであろう。この世界の歪みともいうべき問題に。その問題の名は……」


 教会。


「教会を排除せんとする一部の邪悪な思惑……ですな?」


 あれ?


 突如会議室へ飛び込んできたその声に、出鼻をくじかれた。


 会議室の内と外とを繋ぐ大扉がバンと開き、そこから姿を現したのは……。


「このような重要な会議に遅れて申し訳ありませぬ。枢機卿ヌメリマンザ。教会よりの全権を担いサミットに参加させていただきます」

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― 新着の感想 ―
[一言] 各国の王が集まる中の侵入者ってそれだけで極刑ものでは…?
[一言] また、教会··· ガチな話をすると、 「主催国、又は議長国からの参加要請の有無」 で、扱いが変わってしまいますな 無かったら、警備責任者としては、 身柄確保→ブタ箱へ勾留→本国へ確認待ち…
[良い点] お呼びでないやつがしゃしゃり出て来たぞー! ヌメリ…とか名前がもうアレだね
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