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106 決着からの不穏

 空気が一気に険悪になった。


 よほど図星を突かれて痛かったのか、それとも単純に教会の権威を傷つけられたのが不快だったのか。


 司教とやらは、俺への敵意を隠すことなく視線に込めて、堂々と当ててくる。


「キミは愚か者のようだ。だから丁寧に説明してあげよう」


 慇懃に言う司教。


「教会とは、この世界でもっとも重要な存在だ。世界の守り部であり神の代弁者だ。その教会を侮辱することの罪深さを理解しなさい!」

「そのメッキが剥がれようとしている」


 俺も一歩も引くつもりはない。

 間髪入れずに言い返す。


「お前たちは世界の守護者を語りながら、実質世界を蝕む病巣だ。この世界を歪ませて、その先に何を企んでいる?」

「歪ませているのではない! 正しているのだ!!」


 怒鳴り散らすように言う。


 俺も止まらない。


「ここにあった奴隷国家も、その歪みの一つだろう。アイツらは、お前ら教会の活動を支える一機関だった。ソイツが潰れて、お前らが慌てて動き出すのも当然の流れだな」

「悪意ある勘繰りだよ。我々は常に人を助けるために迅速に動いているだけだ」

「人というのは……」


 俺、言う。


「いいスキルを持っているヤツらのことだろう。それ以外はお前たちにとって人間ではない」

「何をバカな! ……ああ、そうか」


 司教、唐突に俺を見下すような視線になって。


「そう言えば聞いたことがあるぞ。最近S級冒険者に昇格した何某は、スキルを持たぬ無能者だと。何かの間違いかと思っていたが、お前がそうか……!?」

「……」

「自分がスキルに恵まれなかったことを逆恨みして、我らを不当に貶めようというわけか!? 心の狭いことだ! こんなねじくれた性根の持ち主をS級に認定するなど冒険者ギルドに厳重抗議しなければな!!」

「その点については肯定も否定もしない」


 ただ……。


「お前たちが奴隷国家とつるんでいた邪悪だってことは間違いない事実だ」

「まだ言いがかりをするか!? そこまで言うなら証拠はあるんだろうな!? 証拠を見せてみろ! 確証のない誹謗中傷など讒言に過ぎぬぞ」


 出た『証拠を出せ』攻撃。


「証拠ならある」

「何!?」

「奴隷国家を潰してから何日もここへ居座っていたのはなんでだと思う? お前らと奴隷国家の繋がりを示した物証は、しっかり押さえたぜ」


 ハイ嘘です。


 本当は何も出ませんでした。

 それっぽいのもあるにはあるがどうにも言い逃れできる不確定的なものしか出てこなかった。


 どうやら向こうも相当注意していたようで、自分の身を危うくするような物証は意図して一つも残していなかったようだ。


 さすがの用心深さと感心すべきか。しかしそれを認めても何も始まらないので、無理を承知で押してみる。


「……ッ?」


 司教は危うい感じで言葉を飲み込んだが、一瞬ながらも『そんなバカな?……いや?』的な表情をした。

 ここはもう一押しカマかけしてみるか。


「アイツらも完全にお前らを信用してなかったようだな。一週間もかけて探してやっと見つけた隠し金庫の中にあったぜ」

「……ッ!?」


 さすがにこれには司教も動揺を隠せなかった。


 まあそりゃ隠し金庫があるかどうかなんてたしかめようがないからな。

 あるとわかれば『隠し』にならないし、逆にないことを証明する手段などない。


 悪党同士固い信頼で結ばれるわけもないし今、頭の中で凄まじい混乱が起こっているに違いない。


「そ、そこまで言うなら見せてもらおうではないですか? この悪しき奴隷国家は、いかような秘密を抱えていたのですかな?」

「切り札をそう簡単に晒すわけがないだろう。もっとたくさんのギャラリーが見ている中でご披露しなければな」


 とハッタリを押し通す。


「どちらにしろ俺はお前たちを絶対信用しないということだ。ここですることにお前を一切かかわらせはしない。このまま大人しく帰るのだな」

「…………!」


 せっかく解放された元奴隷の人たちを、お前らのような怪しいヤツらに渡して堪るか。


 論破は充分に完了だったと思っている。

 だからこれで引き下がらないようだったら、暴力に訴えるしかない。


 さあ、どうする?

 決定権はそちらに預けよう。


「……ふッ、くふふふふふふふふ……!」


 突如として笑い出す司教。


「無能のS級冒険者は詭弁が上手うございますなあ……! スキルがない分他の達者がなくてはならなかったのですかな?」

「何が言いたい?」

「いえいえ、たしかにアナタの理屈は通っております。この分では我々は退散するしかなさそうですねぇ」


 ほう、素直に帰ってくれるのか。


 そのあまりにもあっさりした引き際にレスレーザも意外に思ったようでポカンと口を開けている。


「まあ帰ってくれるならいいことだ。ボコボコにする手間が省けるからな」

「まったく恐ろしい。野蛮人はこれだからいけない。しかしいいのですかな?」


 ……ん?

 何が?


「私がこのまま帰ってしまって?」


 全然大歓迎ですけど?


 なんだその質問は? 自分を人気者だと思っている可哀想な子か?


「いえいえ、私たちが帰ってしまったら少々困ることになるのではないかと思いましてね。こちらは……」


 司教のヤツが手を振ると、その背後から二人の男が乗り出してきた。


 筋骨逞しく、それ相応の戦闘経験を積み上げてきたと思しき男たちは、明らかな手錬であろう。

 今ここで俺へ襲い掛かってくるということも予想できるほどの。


「この二人は勇者です。我ら教会が擁する最高戦力、魔族にすら対抗できるランクS以上のスキルを備えるものたちです。……アナタは以前勇者リベルとお会いになったそうな」

「……」


 そんなことだけよく知ってやがるんだな。


「この二人はリベルごときとは比べ物にならぬ、魔族との戦闘経験豊かなベテラン勇者です。リベルなどは勇者と認められるレベルの中では最低最弱の、ギリギリのスキルで滑り込んだ半人前勇者に過ぎません。くれぐれもあのようなクズとこの二人を御一緒になさいませぬように」

「ソイツらをけしかけて俺を叩き潰そうとでも?」

「いえいえ滅相もない。ですがアナタには、この二人の存在が必要になってくると思いまして」

「?」


 必要?

 なんでまた?


「そう、今すぐにでもね」

「大変だ! 大変だぁああーーーーーーーッ!!」


 まるでタイミングを計ったように怒鳴り込まれる異変の声。


 一応周囲を警戒していた、兵士出身の元奴隷だった。


「東だッ! 東の空からあああああッ!!」

「なんだ? 何があった!?」

「魔族が攻めてきたああああーーーーッ!?」


 なんだと!?


 報告につられて空へと向く。

 東だったか?

 報告通り東の空を視線を向けると……!


「本当だ……!?」


 最初は鳥かと思った。

 青空に浮かんでいる点のように小さな影。


 しかし少しずつ接近してきて、その形を確認できるほどに大きくなると、それが翼を伸ばした人間の形をしていることがわかる。


 まさに魔族でしかありえない異形だ。


 また魔族!?

 こないだ倒したばかりなのに!?

 いや、だからこそやってきたのか!?


 今回ここで倒したのは魔王ってヤツだったからな。さすがに向こうも、何の落とし前も付けずとはいかなかったか!?


 いや待て……、しかも……!?


 やってくる魔族は一体じゃない?


 東の空に浮かぶシルエットは多数ある。少なくとも二十は!?


「アレだけの数の魔族が一斉に襲ってくる!? そんなことあるのか!?」

「クックック、さあいかがなさいます英雄殿? 未曽有の脅威ですな? なんならこの私が引き連れてきた勇者二人に加勢させましょうか?」


 この野郎。

 まさにこの状況が予定通りであるかのように。


 襲いくる魔族の集団。


 これは何かの仕組まれた状況なのか!?

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― 新着の感想 ―
[一言] あほー あほー あほー あほー 仕組まれてなきゃ来るわけないだろー あほー 勇者込みでさっさと殺して霊にきけよ あほー
[気になる点] 魔族って72人でしたっけ? これ倒せば三分の一が滅ぶのかぁ
[一言] まぁ魔神が糸引いてるならこういうマッチポンプは当然可能な訳で。 ……でもこれ教会の連中の目の前で「お前ら少なくとも俺の目の届く範囲では存在価値ないから」ってのを証明するだけでしかないいつもの…
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