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104 戦後処理

 奴隷国家ブルーバールムの総督ミジュラケジュラミァ。

 同時に魔族の王でもあったソイツを倒して、奴隷国家は崩壊した。


「アナタ方のお陰で我々は救われました! ありがとうございます!」


 そう言って駆け寄ってきたのは『奴隷印』を取り除かれ精神支配を脱した元奴隷の一人だった。


「我々自身の精神力では、どうやってもあの印に逆らうことはできなかった……! アナタたちが解除してくれたお陰です! それどころか奴隷国家の首魁まで倒してくださるとは!」

「いやいや、元々それが目的ですし」


 義をもってことを成したつもりではあるが、そこまで大仰に感謝されるとなんか照れる。


「解放された奴隷たち一同を代表して感謝いたします!」

「そういうアナタはどなた?」

「隣国の王子です」

「んッ!?」


 そんな大層な人間まで奴隷化されていたのかッ!?


「奴隷国家と隣接する我が国の窮状を救うため、潜入したまではよかったものの……。逆に見つかって捕まり『奴隷印』を押されてこのありさま。アナタたちに救われなければ生き恥を晒し、生家に迷惑をかけ続けるところでした……!」

「まあそう自虐せずに」

「こうして奇跡的に自由を取り戻したからには、私も奴隷国家壊滅のお手伝いをさせていただきたい! 元々それが目的で乗り込んできた私でもあります! どうか共に同じ目標へまい進させてください!」

「……でも、奴隷国家の総督は倒しましたよ?」

「たしかに頭は潰されましたが、末端の手足となっている奴隷商たちは数多く健在です!」


 そう言われればたしかに。


「特殊なスキルを持つ総督が消えた今、たしかにヤツらはこれまでのような大規模な奴隷商いを続けることは不可能でしょう。しかしそれでも末端が残っていれば細々ながらも犯罪は続けられて、被害に遭う者がさらに出る。それを防ぐために悪党は根絶やしにするべきです」


 まことに仰る通りです。

 止める理由などないな。


「この奴隷国家には、首都の他にも奴隷管理の拠点があります。速やかに強襲し、そこに囚われている奴隷たちを救出しつつ、奴隷商どもを捕縛あるいは虐殺するべきかと」

「いいね」


 幸いというべきか。

 首都で解放された元奴隷には騎士や兵士、冒険者だったものが数多くいて、それらをまとめ上げるだけでけっこうな軍勢になった。


 操られていても意識は残っていただけに、奴隷商たちのかわす会話を盗み聞き別拠点の場所や規模は把握済み。

 自由意思を取り戻した彼らは、今まで奪われていた報復とばかりに勇み立って進軍していった。


 無論すべての元奴隷が戦闘員というわけではなく、か弱い女性や、文官として売られようとしていた奴隷たちは首都に残り、俺たちの庇護を受ける。


 いや、何しろ大変だった。


 奴隷から解放された彼らも生きていく必要があり、そのためにも食べ物から寝起きする家屋、体を洗ったりトイレしたりする設備など、人が人並みに生きていくために必要なものは色々ある。


 ここは奴隷国家だけに、奴隷が生きていくために必要なものは最低限しか揃っていなかった。


 せっかく奴隷から解放されたというのに、生活水準が奴隷並というのは可哀想な話だ。


 だから俺とノエムとで、ちゃんとした生活を送れるよう整えることにした。


『そんなことせずにさっさと各々の元いた場所に帰したら?』と言われそうでもある。

 しかしそんな簡単な話でもない。


 まずこの奴隷国家で救出された人々は皆基本、世界各地からさらわれてきた被害者たちだ。

 人によっては遥か、何ヶ国も隔てた遠地へと帰らなければならなかったりする。


 それなのに準備もないまま放り出されて『あとは勝手に帰ってね』では奴隷商より酷いという話だ。


 状況的に、ここに囚われた皆が無事帰れる手筈を整えるには時間がかかるし、その間分の生活基盤を固めることも必要だと思ったのだ。


 色々なことと並行しながらやっていく。



「錬金ダウジング!」


 ノエムが張り切っていた。

 最近の彼女は『錬金』とさえつければ何をやってもいいと思っているきらいがある。


「あー、……あーー、…………ここです! リューヤさんお願いします!」

「ほいほい」


 ノエムの指し示した地面に拳を叩き下ろす。

 地面に亀裂が入り、その割れ目から透明な水が噴き出してくる。


 ノエムが地下水脈を探し当て、俺が掘りだす。


 二人力を合わせた作業は効率的で、まず生活にもっとも必要な水の確保は、これで滞りなく済んだ。


『いやこれ、地下何百っつー深さを流れとる地下水脈じゃないんかの? それを見つけ出す方も掘り返す方もどうかしとると思うんじゃが?』


 アビニオンが呆れ口調で言ってた。


 成功してるんだから細かいことはいいじゃないか!


「しかし人間は水だけで生きるにあらず。肉や野菜たくさんあってこその食生活です」

「それも大丈夫です!」


 奴隷国家の土地は、元々荒野が多くあからさまに土に栄養が足りてなくて作物など育ちようがない。


 しかしノエムが錬金術で作り出した特製液肥を注入しただけで一等農地の肥沃の土が出来上がった。


 さらにそこへ種を撒いて一両日。

 あっという間に実がなった。


「速いッ!?」

「錬金合成した急速成長苗ですねー。成長性を特化させた分、味がイマイチなんですけど。今はお腹を満たすのが最優先です! それに味は調理の仕方でどうにでもなりますしね!」


 ノエムは奴隷国家との戦闘中より、そのあとの方が重宝されている気がする。


 むしろ事後処理自体が、奴隷国家を叩き潰すことよりもずっと大変だった。


 いかなる時もただ破壊することより、生み出し維持していくことの方が何倍も難しくて大変で、意義あることなのだと実感するのだった。


 作物を収穫して調理するのは、元奴隷の女性たちも手伝い思いのほかスムーズに行った。

 やはり奴隷として囚われる前は、普通の村娘として暮らしていた子も多数いたらしい。


『退屈な時間じゃのう。何事か引き起こされてくれんものか……?』


 退屈にうむアビニオンが不穏なことを言っていた。


 そうして元奴隷たちの生活を整えつつ、彼らをそれぞれの故郷へ帰してあげる準備を着々と進める。

 かつ腕に覚えのある男性元奴隷たちによる奴隷国家残党討伐。

 総督府をガサ入れして証拠品の押収など進めながら……。


 瞬く間に数十日が過ぎた。



「リューヤ殿、お久しぶりです!」


 その日、レスレーザが軍を引き連れて到着した。


 奴隷国家の完全制圧及び、解放された元奴隷たちを無事各自の故郷へ送り戻すための人員だ。


 大人数を率いての行軍は、手間も暇もかかるし大変だっただろう。

 俺の要請を受けて、よくぞここまで来てくれた。


「いえ、父上からも申し付かっていますし、これは正式なセンタキリアン王国としての出兵です。私も国に仕える騎士として。全力でまっとうする決意です」


 いつも通り真面目なレスレーザだった。


「それに……!」

「ん?」

「こうしてリューヤ殿のお役に立てる久々の機会ですし……!」


 もじもじしながら言う。

 いつも通り可愛いレスレーザだった。


「キミたちが来るまでの間に、解放した奴隷たちの出身国やらを調べて振り分けておいた。あとは情報に従って各自の国に帰してやりたい」

「その護衛が我々の任務ですね? ご安心ください。各国との交渉も滞りなく進んでおり、不幸な被害に遭われた方々を必ずや元の生活に戻してご覧に入れます」

「レスレーザも気合が入っているな」

「それが騎士の務めですから」


 そして未来の女王としての意気込みでもあった。


 現センタキリアン王様から後継者の指名を受けているレスレーザは、日に日にその自覚をまとって人格が大きくなっている感じがする。


「そう言えばノエムさんは……?」

「あっちで巨大野菜の収穫に精を出している」


 ここ数十日で食料用作物の研究に没頭したノエムは、それが高じてしまっていた。


 今は急速な成長に加えて可食部を肥大化させた巨大作物の研究に没頭し、協力する元奴隷たちと夢中になって『とったどー!』と雄叫び挙げている。


「ノエムも相変わらずですね……!?」


 苦笑いするレスレーザ。


 彼女らの到着を待っていた数十日間俺たちも色々なことをしていた。


 国内の奴隷商拠点はあらかた潰し終えて、捕まっていた奴隷もすべての解放を果たした。

 野放しだった奴隷商は捕まえて、奴隷を閉じ込めていた檻へ逆にアイツらを放り込んでおいた。


 押収した資料も精査し終わり、あとはそれを提出して、各国に潜り込んでいた奴隷商の仲間を炙り出し検挙する。


「リューヤ様、本当に見事です。この世界の問題をまた一つ片づけ終わったのですね」


 レスレーザの言う通り、これで奴隷国家は地上から消え去り、それに伴う人さらい、奴隷化の悪行も鳴りを潜めるだろう。


 もちろんすべてが解決したわけではないが……。

 まだ手付かずの問題を、俺はレスレーザと話し合わねばならなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ふー、やっと落ち着いたか。 色々おかしかったが、最後のまとめは流石!
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