ここまでの清算。(1)
永禄2年5月12日
村長とやら(あったことがない)の持っている馬を借り、清三郎様は早朝に出立することになった。
清三郎様ーお大事にー。
「ふふん。報酬も忘れてはおらんぞ。おっともっと忘れてはおらんのは…。」
馬に括りつけた荷のなかに3升入りの酒を持って帰っているのは知っているが…清三郎様ここでにやり。
「帰りの旅食じゃの。さほど遠くないとはいえ口さみしい。あのタコは美味かったなぁ。ずーっと噛んでいられたものな。旅食にピッタリであろうなぁ。」
おっと、ここでの催促ー!荷を纏める前に言えよ…。
では5匹お渡ししましょう。もう今は無いですよ。次に来られるまでにはもう少し用意しておきますね。
「おお、なにやら催促したようで申し訳ない。ふむ。干しダコ一匹10文でどうじゃ?」
もう一声!おれはちょっと馴れ馴れしく行った。
「では倍じゃ20文な。品質を落としたら容赦なく値段落とすからの。ははは。」
20文はもらい過ぎだけどまぁいいか。よし。タコもう一匹おまけしちゃう。
ははははは。高笑いしながら清三郎様は去っていった。笑い過ぎたら傷開くぞ。帰ってくんなよ。
さて、清算だ!
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我縁御坊殿。いつもお世話になっております。
「おお、粗忽無事、清三郎様はお帰りになられた。喜ばしきことじゃ。そなたも大変ご苦労であったな。無理に付き合わせてしまってすまんかった。」
いやいや、巡り巡っていい感じでしたよ。さて、治療費は別として酒代で1200文。稼ぐ事が出来ました。取り敢えず。ここまでの宿飯の恩と、これからもまだ出て行ける目途が立たないのでしばらくお世話になりたいので、このうちの500文を取り敢えず入れさせてください。
「いいか、未だ物の価値に疎いようなので申し上げておくが500文は並大抵の金額ではない。」
存じ上げておりまっさ。
「いや、季節や豊作、凶作によって大きく変わるとはいえ500文あれば1石の米を買うこともできるのだぞ。もちろん中古米にはなるが。」
え、1石買えるんですか?おれはびびった。
「うむ。つまり過分である。」
いや、逆に覚悟が決まったぜ。このお人よし坊主に美味いもの食わせるんだよぉ!まだ手元にないから使者とやらが金持ってきたら絶対受け取ってもらいますからね!じゃ!
おれは後ろ髪を惹かれまくりながら寺から逃げ去った。
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吾平殿ー。
「お、金創医様。どうされただ?」
金創医じゃないんだよ。正式には看護師って言うんだ。一応誤解は正しておいた。
で、ですよ。今度お侍様からお金が入ることになったので。この間のタコのお礼をば。
「あぁ、10匹で10文で良いと言った奴だな。」
あれ、10匹で100文でとりあえず買わせてくださいね。今後に関してはまた値段交渉していきましょう。あと、この干しタコ最後の一匹なんですけど食べて見て下さい。あなたが安売りしようとしたのはそういうものなんですよー。
「あ、ありがとう。いや、1匹返ってきておるではないか!それにどう考えても100文は多い!受け取れん!」
ふあはははh!聞く耳持たぬ!金はまた後日じゃ。さらば!
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蜂蜜売りの人ー!
「また来た。酒は出来たのか。」
この人が一番当たり強いぃ。酒なんですけどお侍様に持って行かれまして。あ、でも300mlくらい残ってるんでまま、一杯。まずは味を見て下され。
「な、これはワシの知っている酒とは全く違う。」
酒精はありますよね?味はどうですか?
「ごくり。うむ、美味いぞ。少ししゅわっとする。」
若いですからね。で、お酒を渡すって言ったんですけどこの残りは村長へのあいさつに持って行こうかと思いまして。ええ、あったことないんですよ。半月もここに居るのに。はい。
よって、あの1升の蜂蜜は100文で買わせてください。取り敢えず数日の内にはお支払いできるかと思います。
「蜂蜜は70文で売っている。100文ならば正式な契約じゃねえ。先はなしだ。」
それは困ります。おれはここの蜂蜜を全て買う勢いで来たんですから。70文はやはりぼったくられてますよ。100文で1升売ってください。あるだけ買います。出来るだけ質を落とさないで。この、品質に100文を私は目利きしました。
「わしの蜂蜜に100文の目利きか…。」
はい、とりあえず、前回の蜂蜜代を払いに来るときに400文分。つまり4升の蜂蜜を買い付けに来ます。用意してくださるとうれしいのですが。
「酒にする…ってのがさっぱりわからねぇ。蜂蜜は甘いだけで甘味は貴重でも。」
あ、そこのところ話が変わっちゃって。
「は?」
蜂蜜は薬の材料です。あの酒は未完成の酒の一部。ということになりますね。
「ははは。おらは薬を作っているというのか。」
えぇ、誇ってください。忙しくなりますよ。では!
去り際のおれに彼は呟いた。「4升…確かに用意しておくと。」
さて、あと合わないといけないのは2人か。両方気が重いぜ。




