俺とタコツボ漁
永禄2年5月5日朝っぱら。
早起きよーし!準備物なーし!全部吾平さん任せ!申し訳なさ山積み。そうしたら、我縁さんがお昼の御握りまで作ってくれたよ。ただただ、ありがたい。
吾平さーん!
「お、来たな。朝は起きられたか?」
ばっちりでさー!今日はお願いしますね。
「ときおり言葉遣いが丁寧になるな。まあいいんじゃが。早速出るぞ。波が良い。」
漁自体は、そこら中に沈めてあるタコツボを引き上げる。それだけだが、まぁ意外と難しくて、入っていないこともあれば、引き上げがもたついて、いざって段階でするりと逃げられたりな。正直足手まといだなこりゃ。
「いや、それでも一人でするよりは楽しいぞ。」とのこと。
どうやら、吾平さん子供五人の五人家族だが、村では米作りを専業する農家が偉くて、思い立ってタコ釣なんかしちゃう吾平さんはまぁまぁな異端なようであった。異端は言い過ぎでも変わり者扱いは避けられない。
「じゃから息子たちも、村の雰囲気に呑まれてか、ほとんどこちらは手伝いをしてはくれんな。寂しいものですだよ。」
タコなんてすごい儲かりそうなもんだけどなぁ。
「はっはw昨日も言ったが、タコはすぐ腐るから他所まで運べん。村人は喰いたがらんし。」
干せばいいじゃん。内臓取ってから足を広げるように竹ひごで形を作ってから数日で行けるよ。きっと。
「それが本当なら…いや、それでも売れる気はせんな。そもそも干したタコなど食べたこともない。」
じゃあ、出来たら吾平さんに持って行くよ。もしかしたら一番に持って行けないかもしれないけど、それでも急いで持って行くよ。
「あー。それで、もしも銭が手に入れば3男に畑をやれる。分家のように扱えば、肩身が狭い思いもさせずに済むのにの。」
吾平さんは寂しそうに言った。おれは気持ちが大きくなって、この気の良いおじさんを安心させたくなった。おれが今はまだあんまり金がないけど、小金持ちになったら3男を雇ってやるよ。絶対にひもじい思いも、無様な気持ちにもさせない。しっかり楽しく一日を過ごせるように面倒を見てやるよ。
吾平は爆笑した。「あー。久々に陰鬱の気が晴れたわい。じゃー、あいつはお前さんにまかそうかの。途中で頬り投げたらひどいぞ?」
任せておいておくれよ。おれ頑張るからさ。
「じゃあまずはタコの干し物からじゃな。20取れたから10譲ろう。ある時払いで良い。」
三十文くらいかな?
「何を言っておる素寒貧。金が出来ても十文で良いわい。」
そういうことになった。生きたマダコ10匹ゲットだぜ。