第五話
居酒屋『ねずみ小僧』
信太朗、睦月、弘志、つかさが卓を囲っている(『イモムシが集う会』の活動中)。
奥で不二子が働いている。
一通りの活動を終えてから…。
弘志「そう言えばオリエンテーリング、どうだった?」
睦月「皆、優しくしてくれるから、大丈夫そう。でも、一つ気になることが…。担当の先生から、もし、生徒達からいじめについて相談されたら、すぐに教えてほしいって…」
不二子「いじめね…。最近多いって言うし、それに一時的な実習生の方が相談しやすいって聞いたことがあるわ。」
睦月「そうなんですね…。私で大丈夫かな…」
つかさ「大丈夫。その為に、始まる前に注意があったんだし。ねっ、信太郎?」
信太朗「何が?」
つかさ「ムッチャン心配なんだって。」
信太郎「睦月なら大丈夫だよ。」
睦月「本当?」
不二子「ええ。真っ直ぐその人の事を見て、対等な人間として尊敬する。そして、一つの弱さでその人を判断しない。それが睦月ちゃんの良い所なんだから。安心して教育実習行ってきなさい。」
睦月「はい。」
弘志「信太朗の方はどうだったんだよ?」
信太郎「もう最悪だったよ…。高橋って覚えてるか?」
つかさ「高橋って、あの高橋先生?」
信太郎「そう。」
弘志「ヒステリックで弱い者イジメが大好きな、あの高橋!?」
信太郎「そう!」
弘・つ「ご愁傷さま。」
信太郎「…俺、三週間耐えられるか心配で、やり直したい…よ…。あッ!!」
弘志「どうした、信太郎?」
信太郎「そうかっ!(ゲーム機を取り出して)これだっ!」
弘志「なんだよ、それ?」
信太郎「これを使って、オリエンテーリングをやり直せば!」
弘志「おーい。俺の声が聞こえてますか?」
信太郎「確か、電源を入れながら。『チェーンジ・マイ・ライフ』…。」
他の人物は時間が止まり、渚と天使見習い達が現れる。
渚「あなたの運命を決めるゲーム。人生をやり直しますか?それとも…」
信太郎「やり直します。」
渚「即答ですね…。良いでしょう。それでは望月信太郎に神のご加護があらんことを。」
渚、天使見習い、睦月、つかさ、弘志、去る。
居酒屋『ねずみ小僧』から高校に変わり、高橋が現れる。
高橋「望月先生」
信太郎「えっ?」
高橋「望月先生。人の話聞いてた?」
信太郎「本当に時間が戻ってるぅぅぅううううーーーーーッ!!」
高橋「は?」
信太郎「いえ。こちらの話です。」
高橋「…で、人の話聞いてた?」
信太郎「はい、聞いてました。」
高橋「…じゃあ、言ってみなさい。」
信太郎「私が担当するのは、1年E組。教科は日本史で、範囲は戦後史です。あの…ハッ!!」
高橋「なに?」
信太郎「もしかして、この後の発言を変えれば未来が変わるんじゃ…。」
高橋「何をブツブツ言ってるの?」
信太郎「失礼しました。お言葉ですが先生、私共の在学時には未履修問題というものがありまして…」
高橋「あぁん??それがどうした!!」
信太郎「ひっ!」
高橋「私はあんたの意見なんか聞いてねぇんだよ?私はあんたにやれって命令してるの?わかった?わかったよね?」
信太郎「…」
高橋「なに?単位欲しくないの?」
信太郎「…欲しいです。」
高橋「教育実習が楽しみね?せいぜい勉強して来なさい!ハッハッハッ…」
高橋、職員室を出る。
それを見ていた神崎結菜、信太郎に寄る。
結菜「…信太郎?…望月信太郎?」
信太郎「…嘘だ。嘘だ。うそだ。ウソだーーッ!!」
結菜「きゃっ!!」
信太郎「チェンジ・マイ・ライフッ!!」
信太朗以外の人物は時間が止まり、渚と天使見習いが現れる。
渚「あなたの運命を決めるゲ…」
信太郎「ちょっと黙って!」
渚「はいっ!」
信太郎「今のは…。今のはそう、ちゃんと説明しようとしたのが間違いだった!!そうだ!そうに違いない!!ヒステリックに人語がわかるはず無かったんだ!!よーし、話がわかる先生に変えてもらおう!!それが良い!!そうと決まれば…」
渚「…考えはまとまりましたか?」
信太郎「ハイッ!!」
渚「それはよかった。では、改めて。あなたの運命を決めるゲーム。人生をやり直しますか?」
信太郎「やり直します!!」
渚「良いでしょう!!それでは望月信太郎に神のご加護があらんことを。」
渚、天使見習い、結菜、去る。高橋現れる。
高橋 「望月先生、人の話聞いてた?」
信太郎 「はい、聞いてました。」
高橋 「じゃあ、言ってみなさい。」
信太郎 「私が担当するのは、1 年 E 組。ですが…」
高橋「なに?」
信太郎「…でっ、ですが、チェンジで!!担当教諭の変更を希望しまーす!!」
高橋「ここはキャバクラじゃねぇぇえええーーーーエッ!!( 信太郎を殴る) 」
信太郎「( 殴られながら) ですよねぇぇえええーーーーエッ!!」
高橋「…この私では不服という事?」
信太郎「いえ。」
高橋「不服だからチェンジなんて口走んだろうがぁ!!」
信太郎「そんなことありません。」
高橋「じゃあ、なんで担当教諭の変更を口走った!」
信太郎「わっ、若気の至りと言いますか…」
高橋「私はね、あんたみたいなガキをいびる事が心の底から大好きなんだよ。でも、アンタが私の教え子だって話だったから、いびらないであげようと思ってたんだけど、止めたわ。教育実習の三週間イビって、イビって、イビり尽くしてあげるから、アンタ覚えておけよ。ハッハッハッ…」
高橋、職員室を出る。
それを見ていた神崎結菜、信太郎に寄る。
結菜「…信太郎?…望月信太郎?」
信太郎「チェンジ・マイ・ライフッ!!」
渚、天使見習い、結菜、去る。高橋現れる。
渚「あなたの運命を…」
信太郎「状況、更に悪化ぁぁーーッ!!」
見習4級「いやいや、最初から分かってたでしょ?」
信太郎「えっ?」
見習4級「あっ…」
渚「バカ!」
信太郎「分かってたの?分かってたのに黙ってたの?」
渚「…助言を与えることは掟で禁じられているので。」
信太郎「掟、掟って。掟しか言えんのか!!」
渚「私達に当たらないで下さいよ…。仕方ありませんね。これは天使見習い達への教示ですよ。
この世には沢山の法則があります。その法則の中で今の望月さんが知っておくべきは2つ。まず一つ目が因果律です。この世のすべての事象には、過程があり、その上に結果があると言う法則です。今回の事で言えば、あの方が貴方の担当教諭になることはもっと前に決まっていたのに、戻した時間で結果を変えようとした。だから、未来は変わらなかったんです。」
信太郎「なるほど…。じゃあ、俺はどうすれば…。」
見習3級「耐えるしかないですね。」
信太郎「無理でぇぇえええーーーす!!」
渚「それでも耐えるしかないです!耐えて、足掻いて。努力して。そうすればきっと貴方の未来に繋がります。」
信太郎「…」
渚「そしてもう一つの法則が、質量保存の法則です。化学変化の前後では物質の質量は変わらないと言うものですが、この世の生死を司る輪廻にもこの法則は適応されるのです。例えば、人が1人生まれれば、この世のどこかで一つの命が失われるプロセスがスタートします。そして、人の命が失われれば、どこかで新しい命が誕生するプロセスがスタートします。そうやって、世界の質量は保たれているのです。」
信太郎「…」
渚「まぁ、今は実感がないかもしれませんが、いずれか分かるときが来るかもしれません。説明は以上です。何か質問ありますか?あっ、あと貴方。既に同じセーブポイントで『チェンジ・マイ・ライフ』を二回使用していますので、このまま続行か『ゲームをやめる』しか選択できません。」
信太郎「マジで!!」
見習2級「どちらになさいますか?」
信太郎「どちらも最悪の未来しか見えないんだけど…」
見習1級「自分でまいた種じゃないですか。」
信太郎「マジかぁ…。ああ、こんな事なら言わなきゃよかった。…続行で。はぁ」
渚「それでは望月信太郎に神の御加護があらんことを。」
渚、消える。
結菜、信太郎に近づいてくる。
信太郎「はぁ…。」
結菜「…信太郎?…望月信太郎?」
信太郎「おう、結菜。久しぶり…。お前も来月から教育実習なんだろう?よろしくな…。」
結菜「うん、よろしく。って、えっーーー!!なんでわかったの!?」
信太郎「まあ、色々あってな。」
結菜「そう…なんだ。」
信太郎「…はあ。」
結菜「どうしたの?」
信太郎「いや、高橋にこれから三週間いびられ続けると思うと憂鬱で…。」
結菜「ご愁傷さま。でも、私は良かったかな…。」
信太郎「優しい柏先生が担当だったから?」
結菜「信太郎と同じ学校で教育実習ができて。」
信太郎「え?どういう意味?」
結菜「知らなーい。(去る。)」
信太郎「…前と違う。」
睦月がやってくる。
睦月「ついに明日からお互い教育実習か…。あっという間の1ヶ月だったね…。」
信太郎「本当だな…。オリエンテーリングやったのが、ほんの数秒前だった気がするよ。」
睦月「それを言うなら昨日のような気がするとかでしょ?大丈夫。信太郎はこの1ヶ月必死に勉強してきたじゃない。」
信太郎「そのはずなんだけど、この1ヶ月間の事を全く思い出せないんだよな…。」
睦月「なんと見事な?」
信太郎「平城京」
睦月「なくよウグイス?」
信太郎「平安京」
睦月「いい箱作ろう?」
信太郎「鎌倉幕府」
睦月「うん、完璧!!」
信太郎「馬鹿にしてる!?誰でも知ってるから!!」
睦月「じゃあ、サイン・コサイン?」
信太郎「タンジェント」
睦月「ほら、完璧!!」
信太郎「数学!!俺、社会の先生なんだけど!!」
睦月「じゃあ、今の消費税は…」
信太郎「8%…。って一般常識だから!!」
睦月「ですが…」
信太朗「おっと、まさかのひっかけ問題…」
睦月「消費税が10%になるのは何年でしょう?」
信太朗「2019年」
睦月「やっぱり完璧!!」
信太朗「結局、一般常識かよ!!…でも、サンキューな。」
睦月「どういたしまして。」
信太郎「そう言えばさ、睦月、前に学生の苛めについて悩んでたよな?」
睦月「そうだっけ?」
信太郎「あれ、ごめん。勘違いだった。」
睦月「それじゃあ、明日は早いし、帰ろう。」
信太郎「おう。…あのさ。」
睦月「なに?」
信太郎「…前にした約束、覚えてるか?」
睦月「…」
信太郎「俺、待ってるから。」
睦月「うん。」
信太郎、睦月、去る。
生徒達、現れる。
全生徒「そして、教育実習が始まった。」