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ニート使い魔と死にたがりJK   作者: 浅瀬のあさり
3/3

どうしよう、戻ってきた

出戻り野郎。

「…なぜ、戻ってきた」

「出戻り娘を迎える父親みたいな台詞ですね」


宿屋のおれの部屋、ソファーの上に死にたがり少女が座っている。(名前を知らないので勝手に死にたがり少女と名付けた)その前に、頭を抱えてるおれの姿。


…いやもう、出戻りどころじゃねえよ。とっとと帰ってもらわないと、こいつ面倒事の臭いがプンプンする。

「とりあえず…」

「あ、お構いなく。お茶は結構ですので」


…誰がお茶出すって言ったよ!!

叫びたくなるのを我慢しておれは優しい声で言う。


「…どこのどいつか知らんが、親に心配かけたらダメだろ。勝手に二回も部屋に入ってきたのは許してやるからもう帰れ。…てか相談屋行ってきたんだろ?ストレス発散にはなったか?」

ーよし、グッジョブおれ。あとは愚痴でも聞きながら、さりげなく出口まで誘導してやって…。


「それなんですが、愚痴部門の方が運良く空いてらして、悩み聞いてもらったんですよ」

うん。

「とりあえずダイレクトに『死にたいんです』って言ってみました」

…う…うん。

「『ガッハッハ!恋わずらいでもしたか嬢ちゃん!大丈夫だ嬢ちゃんは可愛いぞ、なんなら俺の嫁にしたいぐらいだ!』と言われまして」

ロリコンかよ。

「恋わずらいは否定して、死にたい理由を列挙してみたんです。そしたら相談屋さんの人は親身に聞いてくれるしお茶菓子は美味しいしで、ついつい深く話しすぎまして…」


…つまり、周りがドン引いてるのにも気付かず話し続けたんだな。


「話してる途中で愚痴部門の方は泡を吹いて倒れ、代わって聞いてくれた店主さんも…」

「は?!」


言いづらそうに口ごもる死にたがりちゃん。ちらちらとこっちを見てくる様子は年頃の少女そのもので、相談屋を倒れさせるほどの悩みを抱えているようにはとうてい見えないが…。

ーー見かけによらないもんだな。

ーていうか、店主はどうなったんだ。噂に聞く限り、器の大きい、いい奴らしいが…。


「店主…さんは、警察署に駆け込んで、『相談屋を燃やすか自分を殺すかしてくれぇえええぇぇええええ!!』と叫び、暴れたので拘留されたそうです」

…うそん!


「…まじか」

「まじです」


どんだけ闇深いこと言ったんだよ。


「ちなみに、どんな風に話したんだ?…手加減して、教えてくれ」

「例えば、常に死が身近に感じられることとか」

ほう。

「あっ、ご飯食べたいなーくらいの感覚で死にたいなって思うんですよ。あとは何回も死のうとしたけど、あと一歩のところで死ねなかったこととか」

「死のうとした?」

…こいつ病んでるな。ついつい引き込まれて聞いてしまった。


「はい。崖からダイブしたのに木に引っかかっちゃって無事だったり、致死量の薬飲んだのに起きてみたらピンピンしてたり、首吊ってもなかなか死ねなくて、朝まで3時間くらい吊るしっぱなしになってたとこを通報されたりしました」


それなら、死ねない原因、思い当たることあるんだわ。


「…なんで死ねないか教えてやろうか」

「ぜひ!」

食いつき気味で身を乗り出してくる。


ーあーあ、気が重いな。

「…まず、この世には四界六族がある。これは知ってるな」





「…四界六族は知ってるな?」

目の前の男が語りかけてくる。

…どうしよう、知らない。



わたし/橘沙織はこの世界の常識がない。

わたしは一週間前まで、日本で生まれ育ち、全国有数の進学校に通うJKだった。


JKといっても日々勉強に追われ浮いた話などなく、ただ偏差値の良し悪しだけで全てが決まる世界。

その日も、返ってきた模試の結果を気にしながら歩いていた。ここの大学はあと少しでA判定だから頑張ろう、理科は強いけど数学が弱いから塾を増やそう。そんなことをうだうだと。


ー永遠に続くと思っていた、わたしの日常、わたしの世界。



そして、キキーッと響くブレーキの音と迫り来るトラックの影で、わたしの日常は、唐突に壊れた。


(明日、塾行けないな)

最後に、そんなことを思った。


ーーその思考は現実化する。


目が覚めた自分の前に広がっていたのは、塾どころか、日本ですらない世界。

自分が拠り所としていたものは何もなく、代わりに異なる常識がある、そんな世界。


ー帰りたい。わたしの世界に、帰りたい。


泣きわめき、疲れて道端に倒れ込み、そして思いついた。


ーーこの世界でもう一度死ねば、元いた世界に戻れるのではないか?












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