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ニートはダンジョンに居場所を求める  作者: アーマナイト
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狐で作る友

 拒絶される。

 完全にして、絶対なる拒絶。

 わずかな取っ掛かりすら、見つけられない。

 あまりも異質であり、間違えることのない特殊な、それ。

 オリハルコン。

 ミスリル、アダマンタイトと並んで有名な架空の金属であり、ダンジョンが出現して実在するようになった金属。

 落ち着いた光沢をした黄金のような色合いだけじゃなくて、ダンジョン鉄、ゴブリン鋼、コボルト鋼、オーク鋼、これらの手持ちの金属を圧倒する性能も知っていた。

 ……いや、知っているつもりになっていた。

 傲慢にも自分なら、加工が不可能だと言われているオリハルコンも、自在に加工できるんじゃないかと自惚れてすらいた。

 そんな愚かな思い上がりもオリハルコンナイフを手にして、数分で地表に叩きつけられる。

 ダンジョン探索をすることで、身に着けていたスキルや装備という虚飾を剥ぎ取った、情けなくて弱い自分を見せ付けられたような気分だ。

 鑑定はできる。

 けど、加工できない。

 というより、金属を加工する前段階として、魔力を隅々まで浸透させるんだけど、これができない。

 自分から伸ばした魔力の先端が、オリハルコンに触れた途端に消滅してしまう。

 魔力が四方八方に散るとか、強固に抵抗されるとかじゃない。

 オリハルコンに魔力が触れると、痕跡すら残さないように消えてしまう。

 自分の魔力が金属に浸透しないと、鍛冶や錬金術のスキルがあっても加工のしようがない。

 加工が難しいとかじゃなくて、土俵にすら上がれていない気がする。

 オリハルコンの加工を試す前は、コートやマントにオリハルコンを薄くメッキのようにコーティングすれば、対魔術、対ブレスの強力な装備を生み出せるんじゃないかと思っていた。

 オリハルコンで表面をコーティングしたら、隠行のスキルへの補正はなくなるだろうから、状況による使い分けが必要になるなとか、妄想みたいな皮算用をしていた自分が恥ずかしい。

 消えたくなる。

 オリハルコンを加工するどころか、まるで歯が立たない事実を考えると余計に恥ずかしくなる。

 でも、だ。

 一応、この恥辱のような無様な経験をして、収穫がなにもなかったわけじゃない。

 実際に加工しようとして、オリハルコンは魔力を消滅させたけど、オリハルコンに魔力が触れて消滅させるのに、わずかだけどタイムラグがあった。

 普通なら同時と言っていいレベルだし、魔術やブレスに対処する実戦での実用という点で言えば、問題にならないタイムラグだ。

 けど、加工という視点で考えると、糸のように細いわずかな希望になる。

 魔力が消滅するまでの一瞬で、オリハルコンに隅々まで大出力で強引に魔力を浸透させて、希望する形状に一気に加工してしまう。

 荒唐無稽な話だ。

 現状のボクだと絶対に不可能。

 ボクの獲得しているスキルで比較的に加工しやすいダンジョン鉄でも、大きさにもよるけど魔力を浸透させるだけで数分を必要する。

 それなのに、さらに望む形状へ一瞬で加工する。

 難易度が高すぎる。

 でも、将来的にも絶対に不可能だとは言い切れない。

 というか、言い切りたくない。

 目標というよりも、矮小な意地だろうか?

 金属の塊に自分の分際を見せ付けられて、金属の塊を屈服させることで、自尊心を保ちたいのかもしれない。

 とりあえず、気持ちを切り換えてトリオサイズを作るために、コボルト鋼のインゴット、オーク鋼のインゴット、ダンジョン鉄のインゴットと並べていき、オーガの使用していたゴブリン鋼製の巨剣の残骸を手にする。

 呼吸を整え、作業に意識を集中させていく。

 全身に力強く、素早く、淀みなく魔力を循環させながら、明確な完成した形を脳裏にイメージする。

 ボクの魔力が切断された巨剣の刃の隅々にまで浸透して、見慣れたゴブリン鋼のインゴットに変化する様を焼き付けるように幻視する。

 そんな幻想のような空想を繰り返し妄想すること、一〇回。

 妄想を現実にすべく、空想にて繰り返された手順を再現する。

 短時間で大出力の魔力を流し込んだせいで、魔力の制御が荒く雑になって大半が、想定と違って巨剣の残骸に浸透することなく、周囲に四散してしまう。

 手にあるのは、インゴットと呼ぶにはあまりにも歪なゴブリン鋼の塊。

 けど、そこに巨剣の残骸という面影はない。

 不必要に魔力を無駄にして、望んだ形にならなかった。

 とても成功とは言えないけど、明確な失敗とも言えない。

 まあ、いきなり成功するとは思わなかったけど、オリハルコンを加工する長い道のりと考えれば、悪くない一歩だ。

 でも、実用的な技術になるまで、当分はそれぞれの金属のインゴットを使った練習が必要だろう。

 なので、ここからはいつもと同じ手順でトリオサイズを作っていく。

 形状の参考に、デュオサイズを目の前に置きながら、それぞれのインゴットを加工していく。

 柄の長さや太さを変更してみようかという誘惑にかられるけど、気持ちを押さえ込んで、一つ一つ作業を進める。

 ほぼ、完成したトリオサイズに心の赴くままに滑り止めを兼ねたエングレービングを施し、刃の先端を残してダンジョン鉄で表面をコーティングしていく。

 セーフエリアから出て、生まれたばかりのトリオサイズを軽く振るってみる。

 見た目はほとんどデュオサイズと同じだけど、トリオサイズはかなり重いオーク鋼を多用しているから、ずっしりと重厚な存在感を手に伝えてくる。

 一閃。

 遠心力がかかると、さらにトリオサイズの重さを実感する。

 トリオシックルもオーク鋼を多用しているけど、使用している量と柄の長さが違うから、よりダイレクトに重さを感じる。

 まあ、重くはあるけど、扱えないほどじゃない。

 身体能力も上がっているから振り回すだけなら、一〇〇〇回以上も片手でトリオサイズを扱っても疲れたりはしない。

 けど、違和感なく手足の延長のように振るえるとはいえない。

 ホブゴブリンクラスならともかく、オークや最上位クラスのゴブリンやコボルトを相手に使うなら、繰り返し使用して重さの違いや威力などを感覚的に体へ馴染ませたほうがいい。

 いつまでも、素振りをしているわけにもいかないので、次の作業をするためにセーフエリアに戻る。

 戻ったら、スナオにシノビフォックスの皮を譲ってくれと言われた。

 スナオは新調したラビのオークの革で作ったジャケットにシャドーバットの飛膜じゃなくて、シノビフォックスの革を張り合わせたいようだ。

 まあ、ボクは足を切られただけで、シノビフォックスを狩ったのはラビだから、シノビフォックスの皮をラビに使うのはいいと思う。

 それに、一体分のシノビフォックスの皮でなにかを作ろうとしたら、ボクやスナオの装備だと絶対に不足する。

 ラビのジャケットでもギリギリだろう。

 だから、ラビの装備にシノビフォックスの皮を順当と言える。

 それでも、スナオがボクに確認をとったのは、それだけシノビフォックスの皮が稀少かつ高性能な素材だからだろう。

 そもそも、シノビフォックスはベテランの探索者でも殺されるモンスターだから、積極的に狩る探索者も少なくて、素材が市場に出ることは稀だ。

 毛皮と革、どちらの状態でも上手に加工すれば、隠行、魔力遮蔽、消音のスキルに補正が付くらしい。

 もちろん、作った物の出来が悪ければ、補正がなにも付かないこともある。

 まあ、スナオが丁寧に作業をすれば、問題なく三つの補正が付くとは思う。

 ジャケットが完成したら、ラビは索敵だけじゃなくて魔力感知のスキルでも捉え難くなって、さらに足音など自分の発する音が聞こえ難くなる。

 シノビフォックスの皮を加工するときの感覚が、どんなものなのか興味はあるけど、ボクが作業したらラビが嫌がりそうなので、好奇心を抑えて自重する。

 その代わりじゃないけど、オーガの皮の加工はボクがすることになった。

 オーガの頭部を三魔の剣鉈で割って脳を取り出して、大きな人型のまま剥がされたオーガの皮をなめしていく。

 同時に、不要な毛を落として、戦闘で発生した穴や切り跡を塞ぐように、形を四角に整えていく。

 かなり意外だけど、オーガの革はクセがない。

 加工に必要な魔力はオークの革以上だけど、過剰に抵抗することもなく、こちらが驚くほど素直に加工させれてくれる。

 出来上がった四角形のオーガの革は、弾力のあるベニヤ板という感じだった。

 あるいは板バネだろうか。

 曲がらないわけじゃないけど、かなり硬い。

 オークの革が示したような柔軟性や伸縮性は、オーガの革に望めない。

 まあ、望むつもりもないけど。

 オーガの革に求めるのは、中堅からベテランまで防具として愛用する圧倒的な防御力だ。

 シャドースーツやシャドーコートはそのままに、胸当てなどを硬化処理したオーガの革製の物にする。

 …………ふむ。

 ハードレザーとか呼ばれる存在は知っているけど、やり方と必要な物もわからない。

 わずかな希望を託して、鑑定さんに聞いてみたけど、石のように沈黙して応えてくれない。

次回の投稿は九月一七日一八時を予定しています。

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