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ニートはダンジョンに居場所を求める  作者: アーマナイト
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出会ってしまう友

「これで従魔シルバーラビット、個体名ラビの登録は完了しました」


 買取所の店員は、スナオがラビを抱えながら提出した書類を素早く処理していく。

 こういう従魔の登録のようなダンジョン関連の公的な手続きを行えるのが、利用者が少ないこと以外で公的な買取所の民間の買取所にはない利点だ。

 モンスターを従魔にしたら何日以内に登録せよ、みたいな細かい規定は明記されていないけど、探索者は国に報告して登録することになっている。

 ダンジョンが出現した黎明期、従魔にしたモンスターを研究機関などに売る、過度に暴力で虐げるなどして、モンスターが主を見限りダンジョンを出現させるという事案がいくつか発生した。

 しかも、そうやって出現したダンジョンは、主を見限ったモンスターの種族に関わらずB級以上で、出現当初からモンスターがダンジョン外に溢れ出すスタンピード状態。

 それは社会にとって、かなり危険な災害でしかない。

 なので、このような事案を未然に防ぐために、国は従魔にしたモンスターの売買を禁止して、届け出て登録するように規定し、従魔に見限られないためのガイドラインを探索者に伝達している。

 けど、どれくらいの効果があるのかはよくわからない。

 少なくとも、国が従魔関連の大枠を決めて一般に周知して以来、虐げられた従魔がダンジョンを出現させてスタンピードを引き起こしたというニュースを見た記憶はないので、一定の効果があるのだろう。

 でも、スナオの回復魔術のスキルの練習で、ラビが魔楯に突進するのはアウトのような気もする。


「キュ?」


 視線を向けるとスナオの腕のなかでラビが、なんだというように首を傾げる。

 黒い革のジャケットを着て、マギエメラルド付きの足環でオシャレした大きくて無垢なアンゴラウサギのようで、なかなか可愛い。

 けど、実体はオーク、ランスホーン、キラーハウンドを一撃で蹴り殺すドエムの嫌疑があるウサギだ。

 まあ、ラビはスオナに懐いているし、魔楯にも喜んで突進しているから問題ない……のかな?

 スナオがカウンターにオークの革とシャドーバットの飛膜を貼り合わせて、縦二メートル、横四メートルに成形した物を置く。


「これは……つなぎ目の一切ない素晴らしい品質です」


 店員が革を丁寧に調べながら、感嘆の声をもらす。


「どどど、どうも」


 スナオが顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうに小さくうつむく。


「オークの革の状態も良いですが、それよりも貼り合わせているシャドーバットの飛膜につなぎ目や切れ目のような隙間がないのが凄いですね。こちらでコートやマントを仕立てれば、確実に隠行のスキルの補正が付くでしょう」


「えっと、シャドーバットの飛膜を使っても、隠行のスキルへ補正の付かないことがあるんですか?」


 グローブや靴以外のボクの作ったコート、マント、ツナギにはスキルの補正が付いているので少し不思議に思い、疑問の言葉を口にしていた。


「そうですね、素材として使用した飛膜の状態、量、貼り合わせの仕方などの理由で、コートやマントを仕立てても、スキルへの補正が付かないことはあります」


「そう、なんですね」


 ボクが作ればほぼ確実にスキルの補正が付くと、自尊心がむくむくと肥大しそうだけど、すぐに心にブレーキがかかる。

 ボクに才能があるからスキルの補正が付くわけじゃない。

 ただ、他の人よりも早く生産についてのスキルの活用の仕方を思いついただけだ。

 その証拠に、現在、店員に賞賛されてる革はスナオの手によるもので、ボクは助力していない。

 やり方を理解できれば、誰にでも再現可能な技術でしかない。

 スナオは貼り合わせた革と一緒に魔石、角、犬歯を買い取ってもらい、そのお金で全属性のビギナーワンド、ピンポン玉くらいの大きさをした無色透明のモンスタークリスタル、感知のクチバシの上位装備である見た目は黒いペストマスクの天狗のクチバシを購入した。

 ストライクベアの肝はラビの好物ということなので売らない。

 スナオはビギナーワンドよりもワンランク上の全属性の杖の購入も考えたようけど、値段が五〇〇〇万円以上ということで購入を見合わせた。

 モンスタークリスタルをスナオが手にすると、抱えていたラビが一瞬で消えて、無色透明だったモンスタークリスタルが銀色に輝き不透明になる。


「本当に、消えました」


 スナオは少し驚いたような表情をうかべたけど、口調は淡々として落ち着いている。

 一方、応じるボクは驚きを表情に出さないけど、内心でかなり驚いている。

 コンテナブレスレットに物を収納するのとビジュアル的に近いけど、モンスターとはいえ生き物が一瞬で消えるのは心臓に悪い。


「そうだね、大丈夫?」


「はい、使い方はコンテナブレスレットに近いですね」


 モンスタークリスタルの使い心地を確かめるように、スナオはラビを出し入れする。


「キュー」


 消えたり出現したりするラビは状況がよくわかっていないのか、新しい遊びと勘違いしているのか、嬉しそうに鳴いて無邪気に喜んでいる。

 天狗のクチバシは形状こそ感知のクチバシと同じだけど、強度が上がって索敵と魔力感知のスキルに中の補正が付いている良い装備だ。

 これだけの買い物をしても、スナオの探索者証には一〇〇〇万円以上の残金がある。

 店員によればオークの革の価値というよりもシャドーバットの飛膜と綺麗に貼り合わせたことで、高額の買取になったそうです。


「買い取りお願いしまいす」


 刀、剣、槍、剣鉈をカウンターにならべていく。


「これは……ゴブリン鋼とコボルト鋼以外にオーク鋼を素材にしようしているんですね」


 店員は一つ一つ手に取り、じっくりと丹念に調べていく。


「大剣や大太刀のサイズはどうですか?」


「二つのパターンがあるのはいいですね。これからも継続して大剣、大太刀、長槍は二つのパターンの納品をお願いできますか?」


「ええ、大丈夫です」


「それと、先日納品していただいた杖なんですが」


「なにか問題でもありましたか?」


「いえ、光と全属性以外の五つの属性の杖を、それぞれ一〇本以上欲しいという話があるのですが、どうされますか?」


 提示された金額は一本五〇〇万円以上で悪くない。

 素材の調達や製作の難易度もそこまで高くない。

 しかし、


「うーん、できなくはないですけど……」


 多少、杖の全長が長くなるとはいえ以前に納品した双魔の杖よりも、高性能な双魔の杖を用意できるのに、そこを黙って依頼を引き受けるのは色々と不義理な気がする。

 サンプルとしてスナオにコンテナブレスレットから火属性のバランス型の双魔の杖を出してもらって、店員に見せながら事情を説明する。


「これは凄い。しかし、事情はわかりました。先方にはこちらから説明しておきます」


「お願いします」


 トリオソードや三魔の剛刀が一〇〇〇万円以上の値段が付いても、すでに驚かない。

 合計で億を超えるお金が探索者証に入金されていても驚……かない。

 見た目はさまようカボチャとほぼ同じで、不気味な生気を感じさせない灰色をした煉獄のカボチャを四〇〇〇万円で購入。

 店員の説明によれば、この煉獄のカボチャはオーガに殴られても壊れないほど頑丈らしい。

 まあ、カボチャが頑丈で壊れなくても、かなり高レベルでもないかぎりオーガに殴られたら、確実に首の骨がへし折れるので、試しに殴られてみようなどと思わないほうがいいようです。

 煉獄のカボチャは精神異常耐性や状態異常耐性のスキルに補正が付かないけど、隠行、暗視、魔力感知のスキルに中の補正が付いているから悪くない。

 それ以外にもローマジックポーションをまとめ買いして、容量と見た目はいまのズタ袋と差異のない重量が加算されない収納袋を購入した。

 重量が加算されない収納袋は一億円近い出費になるので、さすがに購入を少しは躊躇したけど、これからの探索に有用だと思ったので決断してみた。

 公的な買取所での用事は順調に消化された。

 だから、後は少し早めに離れの家賃をアンナに支払うか、ダンジョンに帰還すればいいんだけど、不運なことに予定外のエンカウントをしてしまった。


「少し稼ぐようになったからって、調子にのるなよ、ダメ人間!」


 久しぶりに出会った甥のトウヤに睨みつけられてしまった。

 でも、目の下にくまのできた顔色の悪い少年に凄まれても、手負いの子犬が吠えているようで、揺れるような困惑と憐憫のような同情しか心のなかには浮かんでこない。

 かつてのトウヤには健康的なスポーツ少年のような印象しかなかったけど、現在は色々なものに追いつめられた苦学生という印象だ。

 しかし、スナオは突然出現したトウヤに怖がってボクの背中に隠行を起動して隠れるし、トウヤには睨みつけるような態度を納める気がなさそうだ。

 どうやったら、この場が収まるのか、それが問題だ。

 というか、コミュ障のボクに乗り切れるとは思えない。

 まあ、ラビがモンスタークリスタルに収納されていて幸いだ。

 もしも、ラビがトウヤの態度をスナオへの敵対行動と認識していたら、ラビにトウヤが蹴られていたかもしれない。

次回の投稿は七月九日一八時を予定しています。

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