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ニートはダンジョンに居場所を求める  作者: アーマナイト
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連携する友

 シルバーラビットの攻撃力とスピードはビギナーの探索者にとって、ひたひたと身近に死の危険を感じさせる程の脅威だ。

 でも、わかりやすい予備動作と単調で直線的な動きしかしないから、対処に慣れた探索者にとっては、狩るのに少しコツのいるカモでしかない。

 装備や狩りのスタイルにもよるけど、シルバーラビットをホブゴブリンよりも強力なモンスターだと考える探索者は、ほぼいないだろう。

 だから、スナオの従魔になったシルバーラビットのラビも狩りの戦力じゃなくて、殺伐とした狩りで荒れた心をモフモフで癒すペットになると思っていた。

 それに、従魔になったモンスターを育てるのは少し面倒なことがある。

 従魔になったモンスターも、探索者と同じようにダンジョンでモンスターを倒せばレベルアップをして強くなっていく。

 けど、従魔になったモンスターはどれだけモンスターを倒して、レベルアップを繰り返してもスキルポイントを入手できない。

 でも、これは従魔が新しくスキルを獲得できないわけじゃない。

 従魔に新しいスキルを獲得させるためには、レベルアップさせまくって次の上位種族に進化させるか、従魔の主人のスキルポイントを消費して獲得させるしかない。

 スキルポイントは順調にダンジョン探索を進めて、レベルアップを繰り返していればコンスタントに入手できるけど、装備やダンジョンの難易度などで探索に行き詰ると、すぐに入手できなくなる。

 ベテラン探索者になればスキルもすでに充実して、スキルポイントが余ってくるかというと、そんなことはない。むしろ、獲得に二〇〇とか三〇〇のスキルポイントを必要とする強力なスキルが、ダンジョン深くの宝箱から補正付き装備などで出てくるから、ベテランになるほどスキルポイントに余裕はない。

 まして、従魔にスキルを獲得させるために、貴重なスキルポイントを消費する余裕なんて普通の探索者にはない。

 スナオにしても、ラビにスキルポイントを消費してスキルを獲得させたことで、収納のスキルが遠のいたと盛大に嘆いていた。

 まあ、スキルを獲得した後のラビの成長を見ればスキルポイントの浪費ということはない。

 一週間かけて、攻撃力を奪ったオークを狩らせるなどのパワーレベリングしたり、獲得させたスキルの習熟をさせた結果、ラビの戦闘能力は単独で無傷のオークを狩れるまでになっている。

 それにオークの革とシャドーバットの飛膜を張合わせて作った隠行のスキルに補正が付いたシャドージャケットと、足環のような制御特化型双魔の杖を後ろ足にラビは装備して、隠行と風魔術のスキルを凶悪に使いこなしている。

 ちなみに、あの足環はボクがいままで作った物のなかで、一番の難物だった。

 とにかく小さいから足環内部にある図形のような文字も通常よりもかなり小さくて、何度も米粒に写経しているような果てしない気分になってしまった。

 それなのに、形状と大きさのせいで性能が限定されて、双魔の杖のなかだと最低ランクに近い物になってしまったから、まったく労力に見合わない。

 しかも、風裂を発動させるのに必要なスキルをラビが獲得したから、冗談半分で風裂を見せて教えたらボクよりも短時間で習得してしまった。

 魔力量が少ないから乱発できないし、蹴り限定だから活躍する場面は限られているけど、決まればランスホーンの頭部を一撃で破壊するだけの威力がある。

 いまも、


「キュー」


 ラビは草原に伏せた状態から必中の位置に近づいたアサルトハウンドよりも一回り大きいモジャ毛のキラーハウンドの腹部を突進から一気に蹴り上げ風裂で粉砕する。

 明らかにオーバーキルで、ラビの現在の身体能力なら風裂を使用しなくても、突進からの通常の蹴りでも確実にキラーハウンドを倒せていた。

 残りの魔力量とか考慮しないで、不必要に攻撃力の高い風裂を使いたがるのは、ラビの今後の課題だな。

 まあ、ラビもシルバーラビットというダンジョンのモンスターだから、魔力を節約するという発想が理解できないのかもしれない。

 それでも魔力操作と魔力循環のスキルを獲得したら、体内を流れる魔力の制御が上手くなり、ラビは突進前の予備動作をかなり短くすることに成功している。

 ラビはモンスターだからなのか、魔力の節約と違ってスキルの使用が全般的に上手で、索敵と隠行と魔力感知のスキルを同時に起動させることも、手間取ることなく一回で成功させた。

 まだ、スキル熟練度がそれほど高くないし、上位種族に進化もしていないけど、ラビは十分に第三層で通用する実力だ。

 それにスキル熟練度の低さは、元々の聴力と身体能力の高さと、ボクやスナオと連携することで容易にカバーできる。

 騎獣であるキラーハウンドをラビに蹴り殺されたコボルトジェネラルが槍で、まだ着地できずに空中で無防備なラビをなぎ払おうとするけど、スナオの魔弾がそれよりも一瞬早くコボルトジェネラルの頭を撃ち抜く。

 隠行のスキルをオフ。

 両手に装備した全属性と光属性の双魔の杖から、次々に魔楯を構築して目に付くキラーハウンドに騎乗する二体のコボルトジェネラル、コボルトスナイパー、コボルトウィザードへ撃ち出していく。

 魔楯は魔弾よりも接触する表面積が広いから、ダメージよりも牽制や迎撃の用途で使う場合に重宝する。

 もっとも、ボクの魔楯はスナオのように、死角へ自由自在に展開できる浮遊楯として活用できないから、魔弾のように撃つことしかできない。

 それでも空中で静止させるのは難しいけど、魔楯の飛翔速度を加減ができるから、多少の応用は利く。

 キラーハウンドに騎乗した四騎の最上位コボルトが、ラビやスナオじゃなくて、隠行をオフにして存在感を表出させたボクに狙い通り注目する。

 スナオとラビへの警戒が薄くなる。

 特にラビは隠行のスキルを起動しながら、草むらに隠れるように伏せているから、コボルトたちも嗅覚や索敵で意識的に探さないと見つけるのは難しいだろう。

 ボクやスナオの魔弾や魔楯に意識が割かれるから、騎乗しているコボルトたちがラビを見つけるのはより難しくなる。

 機関銃のように連射されるコボルトスナイパーの矢を魔楯で迎撃しながら、コボルトウィザードの魔術を魔弾で潰し、魔術ダッシュで二騎のコボルトジェネラルから距離をとる。

 魔弾の射線を遮る木々のない草原はボクやスナオに有利な戦場だと、ここでの狩りを始める前はなんの根拠もなく思っていた。

 けど、キラーハウンドの軽快で素早い動きはこちらの予想以上で、魔弾の連射で簡単に狩るというわけにはいかなかった。

 前後左右へとジグザグにランダムなタイミングで高速に動かれると、なかなか有効な照準を定めることができない。

 魔楯なら命中率が上がるけど、魔弾よりも攻撃力が低いことがわかるのか、コボルトたちは意図的に被弾部位の魔力を高めて最小限のダメージで耐えられてしまう。

 さすがにコボルトたちもノーダメージというわけじゃないみたいだけど、それでも機動力が照準しやすくなるほど低下するわけじゃない。

 騎獣であるキラーハウンドの速度は本当にやっかいで、気を抜くと瞬間移動したかのように、目の前まで間合いを詰められるから、ボクは魔術ダッシュ、スナオはホバー機動で絶えず動いていないと、かなり対処が難しくなる。

 少なくともコンテナブレスレットから、装備を出し入れしている一瞬の余裕すらない。

 装備の選択をミスしたかもしれない。

 成長したラビを援護することになると思って、両手に双魔の杖を装備して接近戦の武具はコンテナブレスレットのなかだ。

 まあ、考え方によっては両手に杖があるから、遠距離からの対処能力が高いとも言える。

 ようは、間合いを詰めさせなければいい。

 でも、テンポ良く群れを狩れないと、戦闘の音か臭いでこちらを察知した追加の群れが投入されるからなかなか面倒だ。

 現在、この群れですでに四つ目。

 ピンチというほどじゃないけど、正直なところキリがない。

 しかも、キラーハウンドはコボルトジェネラルの強化の咆哮と相性がいいのか、強化されると動きが直線的で雑になるどころか、ただ動きのテンポが速くなって、こちらの対処が忙しくなるだけで、つけ込む余地はない。

 ラビが上手く木々を蹴って三次元機動をできないからって、成長を確認するための狩場として森じゃなくて、コボルトの領域の草原を安易に選ばなければよかった。

 ボクに注目していたコボルトの群れを背後からスナオの魔弾が強襲する。

 隠行のスキルで存在感を抑えながらコボルトの群れの背後に、ひっそりと素早く回りこんだスナオが魔弾を撃ってくれた。

 コボルトウィザードと騎乗するキラーハウンドが血を撒き散らしながら地に倒れ、コボルトジェネラルも首がえぐれて血を噴き出しながらキラーハウンドから落ちる。

 新しい双魔の杖はバランス型でも、かなり魔弾の攻撃力が上がっている。スナオが撃てば、かすっただけでも肉を深く抉り、骨を細かく粉々にする。

 コボルトジェネラルの騎乗していたキラーハウンドはギリギリでスナオの魔弾を回避して、難を逃れてしまう。

 焦るようにコボルトスナイパーが高速移動しながら、ボクとスナオへ牽制するように矢を猛射する。

 再び隠行を起動させて存在感を希薄にしながら、片方の杖で魔楯を撃ち出して矢を迎撃する。

 魔術ダッシュで移動しながら、もう片方の杖で魔弾を連射して、コボルトジェネラルと誰も乗せていないキラーハウンドを牽制する。

 ボクとスナオの魔弾の射線が網のように、残る群れの動きを制限しながら少しずつ誘導する。

 

「キュー」


 伏せるラビの至近距離に誘導されたコボルトジェネラルを乗せるキラーハウンドの頭部を蹴って風裂を発動さる。

 オーバキルな上に、あれだと素材になるキラーハウンドの犬歯がダメになっているだろう。

 できれば早々に、ラビには魔力の節約と狩りでも素材の重要性を理解してもらいたい。

 ラビも魔力切れじゃないけど、風裂を発動させる余力はもうない。

 ラビ以上に高速な相手でも、ボクやスナオと連携して、隠行のスキルを起動させながら伏せさせれば、危険な罠になってくれる。

 意識と視線をラビへ向けてしまったコボルトジェネラルを魔弾で素早く撃ち殺す。

 気休めだけど隠行のスキルをオフにしながら、コボルトスナイパーに向かって魔楯を連射する。

 高速移動と矢でコボルトスナイパーは魔楯の被弾を最小限度にしたけど、タイミングを合わせて撃ったスナオの魔弾に騎乗するキラーハウンドと一緒に蹂躙される。


「ガァアアア」


 誰も乗せていないキラーハウンドがボクに迫る、

 連射。

 連射。

 連射。

 連射。

 キラーハウンドはボクとスナオの二方向からの魔弾の豪雨を浴びる。

 …………止まらない。

 回避運動をしながらも、回避しきれないで、魔弾に体を貫かれているのに、キラーハウンドの前進が止まらない。

 連射。

 キラーハウンドの左の前足が根元から千切れる。

 連射。

 キラーハウンドの右耳が頭皮ごと消し飛ぶ。

 連射。

 キラーハウンドの尻尾が宙に舞う。

 止まらないどころか、胴に風穴が開いているのに、エフェクトのように血を四方に飛ばしながら、最後の距離を踏み込み飛びかかってくる。

 装備を接近の物に切り換える余裕はない。

 両手の杖を手放し、押し倒されながら、噛み殺そうと迫るキラーハウンドの顎を押さえ込む。


「ガアアアアァ」


 血とよだれをボクに浴びせながら、血走った目で必死に噛み殺さんとするキラーハウンドの顎がジリジリと近づいてくる。

 ボクを濡らす血が生暖かくて、生臭くて、獣臭いなかで、姿勢が悪いのか、押し返すどころか、拮抗にすら持ち込めない。

 キラーハウンドの残った前足の押さえつけるようなプレスが、ボクの胸部を地味に圧迫されて呼吸が阻害されるから、溺れるように苦しい。

 それでも新型の胸当てのおかげなのか、重くて息苦しいけど、一定以上の負荷で安定している。胸当てからも、破滅へつながるような不吉な音は聞こえていない。

 ソロでも狩りなら致命的に近い状況。

 けど、ボクのなかに空回りする焦燥も、支離滅裂な狼狽も、安易に投げ出すような諦観もない。

 仲間のいる現在のボクにとって、この状況は心の凪を乱すほどのことじゃない。


「キュー」


 気の抜けるような鳴き声と共に、銀色のモフモフが眼前のキラーハウンドの首に命中して、直角に曲げてしまう。

 死兵となっていたキラーハウンドの最後としてはあっけない。

 というか、やっぱりラビの攻撃力は風裂じゃなくても十分に高い。


「ラビ、ありがとう」


 ボクの感謝に、ラビは一瞬だけこちらを向くけど、すぐにスナオの方へ駆けていってしまった。

 まあ、ボクの従魔じゃないから仕方ないんだけど、やっぱり存在を無視されてるようで少し寂しい。

次回の投稿は六月二五日一八時を予定してます。

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