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ニートはダンジョンに居場所を求める  作者: アーマナイト
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杖を試す友

 新しく入手できたのは強力な文字だけど、一つの杖に同じ文字を二回以上使うと、文字同士が干渉するのか効果が発生しない。

 けど、新しい闇属性の双魔の杖を作ってるときに、思いついたことがある。同じ文字を複数回使うことはできないけど、杖に組み込む文字列の順番は変更できそうだった。

 新しい文字は微妙に違う気もするけど、スーパー、ウルトラ、ハイパーという単語に多分、意味的に近いと思う。

 例えば、スーパースーパー制御という文字列は一つの杖で成立しないけど、スーパーウルトラハイパー制御という文字列は、多分、一つの杖で成立する。スーパーウルトラハイパーと連続で文字が続くとバカっぽいけど、例えだから気にしてはいけない。

 これを活用すれば、新しく作った闇属性の双魔の杖のような全体的に強化されたバランス型、魔術を制御することをとにかく強化した制御特化型、燃費や制御を度外視して魔術の威力を強化した威力特化型などを作れる……と思う。

 さっそく、在庫に少し余裕のあるマギエメラルドを使って、特性の違う三本の風属性の双魔の杖を作ってみた。

 実戦での使用感を聞きたいので、スナオに新しい闇属性の双魔の杖と共に、三本の風属性の双魔の杖を渡したら、新しいオモチャを手にした子供のように、手早く昼食を終わらせて嬉しそうにセーフエリアの外に元気よく飛び出して行ってしまった。

 スナオは少し前まで落ち込んでいたんだけど、魔術のことになると忘れられるようだ。

 ちなみに、魔術が得意なスナオとしては、ゴブリンスナイパーを狩るときに使用した強烈な閃光を放つ光の玉を破裂させるよりも、魔弾を曲げたり静止させる方が難しいらしい。少なくとも動揺した状態で、光の玉を破裂させてフラッシュバンのように使える程度には簡単なようだ。

 距離の離れていたボクでも少し眩しかったから、至近距離で直視したゴブリンスナイパーは暗視や遠見のスキルの有無に関係なく、数秒は視覚が機能しなくなる。少なくとも、スナオが遠距離から魔弾で狩るだけの時間は稼げた。

 これだけ有用なら、もっと早く使えばいいのにと思わないでもないけど、スナオとしては光の玉は元から破裂させられるけど、攻撃力が魔弾よりも低いから狩りで有用とあまり考えていなかったらしい。

 だから、フラッシュバンのような目潰し効果も、試しにやってみたら成功したという偶然の産物なのだそうだ。

 まあ、ボクはいまだに魔術で生み出した玉を破裂させられないから、どのみち再現できない。

 残念ながら、体力はともかく、ボクの魔力と気力はゴブリンスナイパーの奇襲とゴブリンウィザードの闇魔術のせいで、かなり削れてスナオの狩りに付いていく気にはなれなかった。

 残されたボクは、壊れた防具を修理するために、ローマジックポーションを口にする。

 このローマジックポーションは、スナオがゴブリンウィザードを解体して入手した物で、それ以外にもローヒールポーションとローキュアポーションが一本ずつ出てきたから、狩りで消費した分の補充のために譲ってもらった。

 なんだか、このダンジョンでのスナオのポーション出現率が高い気がする。

 ボクの物欲センサーに反応しているのかと少し思ってしまうけど、実のところポーションはお金で補充できてしまうから、そこまでポーションの出現を強く求めていないはずだ。

 あるいは、求めていないから、出てこないのかもしれない。

 安物の緑茶のような苦味と渋味が口のなかに広がり、後味でスッキリとした柑橘系の酸味が塗りかえるように追いかけてくる。

 減っていた魔力がそれなりに回復した。

 全快じゃないけど、残っていた魔力と合わせれば、まだまだ生産ができる。

 アダマントコックローチの籠手、シャドーコート、シャドースーツにできた穴を修理しながら、改めてゴブリンスナイパーの危険性を考える。

 対物ライフル以上じゃないかと思わせる攻撃力も面倒だけど、他の第三層に出現するモンスターよりも攻撃力が突出しているわけじゃない。

 突出しているのは攻撃の射程距離だ。

 魔力感知の有効範囲、そうじゃなくても索敵の有効範囲内なら、あの攻撃力と速度でも対処できる。

 けど、遠見のスキルでしか捉えられないと、別のモンスターとの交戦中に存在を見落として奇襲される可能性がある。

 金属製の防具でガチガチに防御力を上げる方法もあるけど、重くて軽快に動けなくなるので却下だ。

 ネットの情報によればオーガの皮を硬革にした物は、かなり頑丈なのにオークの皮よりも少し重い程度らしい。

 なかなか有望な素材だけど、オーガはまだ狩れていない。

 お金を出して素材を購入する方法もあるけど、ここに出現するモンスターの素材をわざわざお金を出して購入するのは、なんだかなにかに負けた気になるので嫌だ。

 だから、現状で手に入る素材で、防具を出来る限り強化してみる。

 そんなことができるなら、もっと早くやればいいのにと言われそうだけど、どれくらい防御力が上がるのかわからないし、それなりに重量も増えると思うので、実のところあまり乗り気じゃない。

 自分が設けた愚かで傲慢な制約のなかで、ゴブリンスナイパーに奇襲されて一撃死する確率を下げるための苦肉の策でしかない。

 結局、やってみて防御力が上がるどころか、低下して改悪になる可能性も十分にある。

 まあ、新しい籠手と脛当ては、スナオの新しい杖への評価しだいだけど、それぞれの形状になった双魔の杖になりそうなので、あまり関係ないかもしれない。

 装備していたアダマントコックローチの胸当てを外して、ダンジョン鉄、ゴブリン鋼、コボルト鋼、オーク鋼のインゴットと一緒に並べる。

 基本は武具をダンジョン鉄でコーティングするように、胸当てをそれぞれの金属でメッキよりも厚めにコーティングしようと思っている。

 当然、そのままだと胸当てが分厚くなってしまうので、アダマントコックローチの部分を薄くする必要が出てくる。

 胸当てを覆う合金の比率、金属とアダマントコックローチの厚みなどの最適解を鑑定のスキルに問いかけて求めるけど、上手く答えを引き出せない。

 合金の比率による特性の変化などは、鑑定以外にも鍛冶のスキルを併用すると答えてくれるけど、鎧というスキルがないからなのか、ぼんやりとしたイメージによる回答はともかく、鎧としての素材の比率の明確な最適解は出してくれない。

 面倒だけど、革加工や鍛冶のスキルを鑑定と併用して、素材の特性を把握しながら最適解の近似を目指すしかない。

 鑑定のスキルと共に鍛冶、革加工のスキルを切り換えることなく、同時に起動させていると、いくつか不思議なイメージが脳裏に浮かんできた。

 可能かどうかということなら、現状の素材とスキルで十分に可能だ。

 けど、完成した物が防具に適しているか、明確にはわからない。

 まあ、やってみるしかない。

 未知への不安や興奮を深呼吸で徐々に黙らせて、心の深いところへ押しやる。

 沸き立つ雑念を切り離して、機械のように安定した動きでアダマントコックローチの部品を、鑑定、鍛冶、革加工のスキルを起動したまま錬金術のスキルを追加で起動させて、スキルの導きに従い歪まないように、崩れないように、細心の注意をしながら慎重に薄い正六角形へと細かくしていく。

 細かくした正六角形のアダマントコックローチのパーツを一つ一つきっちりと並べて、薄くコーティングするようにオーク鋼で覆っていく。

 見た目はオーク鋼で覆われているから黄金以上にキラキラしているけど、純正のオーク鋼よりもはるかに軽い。

 魔力は思ったよりも消費しなかったけど、神経を使った。

 でも、これで完成じゃない。これの前後に、ゴブリン鋼、コボルト鋼、オーク鋼を合金にしたりして薄く何層にも重ねることになる。

 斬撃、刺突、殴打と防具に加えられる攻撃を想定しながら、性質と重量と厚みを考慮して試行錯誤しながら、黙々と作業を進めていく。  

 最後にダンジョン鉄で表面を黒くコーティングして、スライムゴムと貼り合わせて胸当てが完成した。

 この胸当ての重さはゴブリン鋼やコボルト鋼で作るよりも軽くて、アダマントコックローチの甲殻よりも少しだけ重たい。

 まあ、これくらいの重量増加なら十分に許容範囲内だ。

 防御力もゴブリン鋼やコボルト鋼を単体で作った防具よりも、多分、少しは上回っていると思う。根拠は鑑定からのイメージによる返答なので、間違っている可能性はある。

 けど、ゴブリン鋼やコボルト鋼単体で胸当てを作るよりも、手間が三倍以上かかったと思う。

 アダマントコックローチの甲殻の正六角形にしたハニカム構造、それをオーク鋼で覆う拘束セラミックもどき、さらに複数の素材を重ねた複合装甲、主力戦車の装甲にも使われている技術と類似のことをやったから、手間がかかるのは当然かもしれない。

 でも、手間の割りに効果が少し微妙だ。

 他の探索者なら、こんな手間をかけるよりも、傲慢な自尊心と感情を妥協させてオーガの硬革で防具を作るだろう。

 ある意味この胸当ては、ボクの傲慢な矜持が生んだ歪なパッチワークのような産物だ。

 完成した胸当てを見ていると自省に似た自己憐憫か、自己陶酔に陥りそうなので、残りの防具を作ることへ意識を切り換えて集中させていく。

次回の投稿は六月七日一八時を予定しています。

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