解体する友
いつも誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
狩りの間に手放してしまった武具はダンジョンに食われることなく無事に回収できたし、ゴブリンジェネラルの群れやゴブリンスナイパーの援軍と出会うこともなかった。
それはよかったんだけど、いまはあまり素直に喜べない。
自身の魔力量を過信して、ゴブリンウィザードの闇魔術に対して油断しすぎた。
さまようカボチャを装備していたのに状態異常になったと、少しだけ言い訳染みた思考に逃げようとするけど、たった熟練度一の状態異常耐性や精神異常耐性のスキルや微補正に、責任転嫁するほどの過度な期待をしちゃダメだろう。
それに、さまようカボチャとスキルがあったから、あの程度で済んだのかもしれない。
結局、自分の間抜けな油断のせいで、心身が状態異常になってしまって、必要以上に追いつめられた。
闇魔術は使い方によって魔力を削るだけじゃなくて、毒、睡眠、石化、恐怖、誘惑、混乱など心身の様々な状態異常を発生させるということは、分厚いほこりをかぶった知識のように頭のなかの奥の奥に記憶していた。
でも、知識として知っているだけで、まったく警戒していなかった。
スリープシープは睡眠の状態異常を使ってくるけど、別に闇属性のモンスターというわけじゃない。
魔術のなかでいまのところ闇魔術だけが状態異常を発生できるけど、決して状態異常イコールで闇属性じゃないから少しややこしい。だから、状態異常を仕込んだ闇魔術を使われるまで、とっさに思い出せないで記憶の奥底に沈めていた。
まあ、ただの言い訳だな。
実は闇魔術の使い手は探索者のなかで一定数いて、主に狩ったモンスターの皮を傷だらけにして、価値を下げたくないという連中が、モンスターを魔力切れにできるから好んで使っている。
けど、モンスターを状態異常にできる闇魔術の使い手はほぼ皆無。時々、噂で成功したという話を聞くけど、信憑性の低いものが多い。
簡単に成功するならともかく、わざわざ訓練してダメージや魔力切れに比べて即効性の低い状態異常を覚えようという変わり者はそうそういない。
まあ、だからと言って、闇魔術と状態異常の関連を警戒しないでいい理由にならない。
一応、低確率だけどウィザードクラスなら闇魔術で毒、恐怖を発生させることも事前に知っていた。
これも知っているだけだった。
出会ったウィザードクラスが闇魔術の使い手で、さらに状態異常を発生させられる可能性はかなり低いから、出会う可能性をあまり考慮していなかった。
まあ、魔弾が使えるようになって、ウィザードクラスの魔術でも高確率で相殺できるだろうって思っていたし、そもそも相手の魔術を被弾する可能性を考えていなかった。
それに、心身の状態異常を舐めていた。継続的なダメージを負う毒、行動を抑制する恐怖を嫌がらせ程度のものだと思っていて、あそこまでにきついとは思わなかった。
無知でならともかく既知のことで、ピンチになるのは情けなくて煙のように薄くなって消えたくなる。
しかも、ローキュアポーションのことも微妙に理解していなかった。
ローキュアポーションを飲んで毒の状態異常から解放されたけど、キュア系のポーションはダメージを回復してくれるヒール系のポーションと違って、心身の状態異常を解消するだけなので、毒によって負ったダメージは回復してくれない。
でも、幸いにも狩り間、毒によるダメージの後遺症は感じなかった。
覆いつくす不気味な黒雲ような恐怖から解放された反動なのか、躁状態のように心が軽やかに高揚していたから、アドレナリンが過剰に分泌されていたのかもしない。
あるいは、ローキュアポーションを飲んで毒から解放されたことで、毒のダメージも消えたと勘違いしたことで、プラシーボ的に痛みを忘れていたのかもしれない。
でも、セーフエリアへの帰還中に、なんとなくローキュアポーションを飲んでもダメージは回復できないってことを思い出したら、どこに隠れていたのかと思いたくなるような毒の置き土産、重苦しい気だるさと鈍い痛みに全身を襲われて、顔面から地面にダイブすることになってしまった。
まあ、すぐにローヒールポーションを飲んで痛みと気だるさから解放されたけど、落ち込んだ心までは回復してくれなかった。
結局、どんよりと沈んだ気分のままセーフエリアに到着してしまった。
けど、少しだけ気分がふわりと上がるように高揚してくる。
ボクの手にはゴブリンウィザードの使用していたゴブリン合金製の杖が握られている。
長さ約一メートルぐらいでゴブリンメイジの杖よりも倍以上長くて、先端のマギオブシディアンもビー玉くらいの大きさでBB弾くらいのこれまでの物よりも一回り大きい。
まだ、詳細には調べていないけど、色々と面白いことがわかりそうで、落ち込む心から目をそらすように誤魔化せそうだ。
ズタ袋に収納されている最上位ゴブリンの解体はスナオが請け負ってくれた。
これでボクはゴブリンウィザードの杖の調査と、双魔の杖の改修に専念できる。
ボクのなかに残存する魔力の量が少し気になるけど、壊れた防具の簡単な修理と杖を調査して改修するくらいなら問題ない。
慎重に魔力を杖に流して、少しずつ鑑定と錬金術のスキルも使って精査していく。
ゴブリン合金製だから双魔の杖に比べて魔力の通りは悪いけど、ゴブリン鋼の含有率が高いからかゴブリンメイジの杖よりは魔力の通りはいい。
いくつか子供の悪戯書きに見える既知の図形のような文字が確認できる。
うーん、ゴブリンウィザードの杖でも図形のような文字の完成度が、ゴブリンメイジの杖と同レベルでかなり低い。
これは予想外で正直なところ驚いたけど、むしろ期待で嬉しくなる。
この低い文字の完成度で、ゴブリンウィザードはあれだけの魔術を行使した。
ゴブリンウィザードとゴブリンメイジのスキル熟練度の差を考慮しても、威力と質にかなり大きな違いがあった。
つまり、未知の図形のような文字と大きいマギオブシディアンによって、ゴブリンウィザードの魔術は補正されていた。
この完成度であれだけ強化されるなら、文字を清書したらどれだけの強化になるのか、自然と口元がゆるくなる。
魔力をゴブリンウィザードの杖に流していくと未知の図形のような文字に到達して、すぐに鑑定と錬金術のスキルで効果を調査する。
意味としては増幅……あるいは強化かな?
増幅なら既知の文字に似たような意味のものがあるけど、それとは用法と意味が少し違うようだ。
この文字は単独だとあまり意味がなくて、他の文字に対して形容詞のように組み合わせて使うのが正解のような気がする。
さらに魔力を進めると未知の文字が次々に入手できたけど、やはり大半が既知の文字と組み合わせて強化したり、補強したりするものだった。
一つの杖で複数回、同じ文字を使用できればかなり魔術を強化できそうなんだけど、残念ながら鑑定さんの説明によれば、既知の文字と同じように複数回の使用はできないようです。
けど、やっぱり未知の文字も完成度が低くて、風化したような判読しにくいものだった。
杖を流れる魔力はビー玉サイズのマギオブシディアンに到達する。
瞬間、ヌルっと魔力をマギオブシディアンに吸われるような感覚があった。
闇属性の魔弾を構築してみる。
このゴブリンウィザードの杖は双魔の杖に比べて魔力の通りも、魔力の属性への変換効率も良好とは言い難い。
けど、杖の先に構築された夜の暗さを圧縮したような闇属性の魔弾は、以前の魔弾とは比べるまでもなく強力であることがわかった。
試しに、セーフエリアから第三層の地面に撃ってみる。
「ちっ」
思わず舌打ちをしてしまった。
魔弾が狙いから外れた……というか、微妙に直進しなかった。
多分、こちらからの制御や修正が効かなかったような気がする。
この杖、威力はともかく他の性能が微妙だ。
まあ、それも双魔の杖として作り変える過程で、文字を清書したりすれば改善される……多分。
前段階として、スナオが解体したゴブリンジェネラルの角とゴブリンジェネラルの剣からゴブリン鋼を分離させる。
一応、ゴブリン鋼のインゴットには予備があるけど、どうせなら全て第三層の素材で新しい双魔の杖を作ってみたい。
ゴブリンジェネラルの角とコボルトジェネラルの犬歯を文字の数と形状を考えながら並べていき、ジェネラルクラスの武器から分離させたゴブリン鋼とコボルト鋼のインゴットを、以前の双魔の杖よりも長くなりそうなので、多めに用意する。
解体を終えたスナオに声をかける。
「スナオ、新しい杖は長くなるけど、これまでと同じ形状でいい?」
ゴブリンウィザードの杖に付いているビー玉サイズのマギオブシディアンを使用した杖は、セーフエリアに帰還するまでの話し合いでスナオが持つことに決まっている。
スナオとしてはボクが持つべきだって主張してきたけど、強力な杖を持つべきなのは魔術がボクよりも上手なスナオだ。その方が合理的にパーティーの総合力が強化されると、適当な理屈で強引に説明して、最後にはしぶしぶだけど、スナオは納得してくれた。
「えっと、ストックなしにできますか?」
スナオが少し考えるように沈黙してから、口を開いた。
「うん? ストックがないと長くなるから両手で構えたときに、安定しないかもしれないよ」
「あの、最近、二つの杖を両手で使う機会が多いので、片手のときはストックが少し邪魔なんです」
「ああ、なるほど、了解」
確かに、片手に一本ずつ杖を持つなら、ストックはあっても邪魔なだけだろうし、なければ多少長くなっても取り回しは大丈夫だろう。
深呼吸を繰り返して、意識を徐々に杖の作製に没入させていく。
必要なスキルを起動させ、ゴブリンジェネラルの角とコボルトジェネラルの犬歯を素材に、既知の文字は手馴れた動きで淀みなく作製していく。
未知の文字も、一文字、一文字、清書して形が決まったら、大きさや線の太さを調整して、調整して、調整する。
さらに、文字の意味や効果を考えて、一文字の全体どころか線が曲がるたびに、杖の完成形を幻視しながら角と犬歯の比率を細かく変更して、変更して、変更する。
あまりにも微細な作業なので、手作業で集積回路を作っているような気分になってくる。
でも、こういう地味で繊細な作業をコツコツと長時間続けるのは嫌いじゃない。余計な俗事の思考をしないで、ただただ目の前の世界に専心するのは心地よい。
文字が完成したら、ゴブリン鋼とコボルト鋼で覆っていく。
うーん、インゴットにするときにも感じたけど、ここまで強化されているからなのか、素材が自己主張するような少しクセというか特徴がある。
まあ、それでもゴブリン鋼とコボルト鋼なわけで、オーク鋼ほど加工するのに手間取るわけじゃない。
既知の文字は手早くかつ丁寧に覆って、未知の文字は効果と完成形をイメージして慎重に覆っていく。
一メートルの杖の形になったら、一つ一つ文字を覆う部分の比率を変更するように微調整を繰り返す。
最後にマギオブシディアンを先端に取り付けて、闇夜をイメージした幾何学模様のようなエングレービングを施してストックのない猟銃の形状にする。
なんか、見た目が猟銃というよりも、戦国時代の火縄銃っぽい?
『双魔の杖(闇)』
うん、杖の長さ、内部の文字数、マギオブシディアンの大きさが変わっても、名称は変更されないみたいです。
これで問題なく完成なんだけど、作ってる途中で思いついたことをいくつか試したくなってきた。
次回の投稿は六月三日一八時を予定しています。




