先行する友
頭のなかで血液が沸騰しそうだ。
激しく暴れまわる六体の大蛇を細い手綱で御しているような心細い気分になる。
ボクが手にしている全属性の双魔の杖のなかで起動しようとしている魔力も魔術も、かろうじて暴走も暴発もしないで制御できている。
難しい。
魔術はともかく、魔力の制御にはちょっとだけ自信があったから、地味にショックだ。
でも、いつの間にか思い上がっていた自分の分際を確認できたのはいいことだ。
ボクの人生において、少し上手くいっただけで調子に乗ると、ろくなことにならない。
ちなみに、全属性魔弾の手本を見せてくれたスナオいわく、ガッと同時に六つの魔術を起動して、バッと一つにまとめて、ギュッと魔弾に加工するらしい。
以上が全属性魔弾を構築するまでの過程。
…………わかるか!
というか、説明になっていない。
まあ、感覚的にやっていることを合理的でわかりやすい言葉にするのが、難しいのは理解できるけど、これは明らかに言葉が足りない気がする。
魔弾のときのようなボクでも共感できるイメージを提供してもらいたかった。
現在、その手本を見せてくれたスナオは、オーク、ランスホーン、ストライクベアをソロで狩っている。
スナオが完成させた全属性魔弾は、五〇メートル先にいるオークの首を落とし、ランスホーンの強固な額を穿ち、ストライクベアの衝撃波で減衰されても頭を粉々にした。
まだ、武器を持ったモンスターとの接近戦に対する苦手意識を克服できていないけど、遠距離でならスナオはオーク、ランスホーン、ストライクベアの三種をボクより効率よく狩ることができている。
だけど、この強力な全属性魔弾は完璧というわけじゃない。
魔弾を構築するのに最低でも五秒、集中できないと一〇秒以上かかることもある。
まあ、ボクは一分以上かかって、成功率が五割以下だけど。
しかも、スナオはボクのできなかった足の甲から、風の魔術を放つことを成功させた。
けど、スナオには体術のセンスが欠けているのか、いくらホブゴブリンを相手にやっても蹴りと魔術のタイミングが合わなかった。この風魔術と蹴りを合わせて吹き飛ばす技は実戦で使うことを当分しないと言って、籠手型双魔の杖の話にもあまり興味を示さなかった。
ボクは第三層のセーフエリアで全属性魔弾の練習をしながら、スナオが狩ってきたオークを解体して皮をなめしながら革にする。
第三層のさらなる探索とか、レベルアップとかも大事だけど、全属性魔弾をものにできれば、これからの探索に必ず役立つから変に焦らないで練習に集中する。
ウィザードハットがハーミットハットに代わったからなのか、魔力感知の精度は前よりも確実に高くなって、マギダイヤモンドのなかで魔力がどうなっているのか詳細に把握できている。
そう、把握はできている。
けど、制御できない。
六つの属性へ同時に変換しようとすると、マギダイヤモンドが危険な感じで七色に明滅しながら不気味に輝くし、集束して魔弾にしようとすると、異なる属性同士が反発して拡散して消滅するか、勝手に相殺して打ち消しあってしまう。
成功することもあるけど、はっきり言って偶然でしかない。
よくわからないけど、偶々成功しましたじゃ、ダメだ。
そんな魔術、どれだけ威力があっても実際の狩りで不確定すぎて使えない。
スナオは上手く言語化できていないかもしれないけど、自分のなかに多少時間がかかっても完成させるイメージを確立している。
ボクもボクなりの全属性魔弾を構築する工程を確立しないといけない。
スナオに置いていかれてしまうような錯覚が、灰色の粘りつく焦燥を呼び起こす。
深呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと余計な感情を黙らせて、全属性魔弾に専心する。
一時間以上は続けているけど、まったく進展していない。
気分転換に、六つの属性魔弾を一発ずつ順番に撃ってみる。
…………うん?
魔弾がバラバラだ。
それぞれの属性魔弾を順番に撃ったから、全属性魔弾にならないのはいいんだけど、撃った魔弾に込められた魔力が微妙に均一じゃなかった。
……なるほど、属性を帯びた魔力同士が反発したり、相殺したりするのはこれが原因か。
上手くいかない原因がわかれば対処は簡単だ。
簡単……か?
ダメだ。
スキルや魔術の同時起動には慣れていると思ったけど、これは難しい。
一つの術なのに、途中で六つに分割して均一にしようとすると、属性同士の強弱のバランスが一気に崩れてただの魔力として周囲に拡散してしまう。
それぞれの魔術のスキル熟練度の差も影響しているのか、三〇繰り返して、一度も均一にならない。
もう一度、それぞれの属性魔弾を一発ずつ撃ってみる。
初めに撃った火属性の魔弾に込めた魔力を基準に、他の属性の魔弾に込める魔力を加減する。
当然だけど、これは簡単に成功する。
でも、全属性魔弾として同時にやろうとすると失敗してしまう。
うーん。
…………うん?
一つずつで成功するなら、全ての属性へ魔力を一気に変換しないで、一つずつ属性へ変更した均一な魔力を用意してから、一つの魔弾へと集束させてみるか。
呼吸を整えて、全属性の双魔の杖にゆっくりと魔力を流す。
魔力が先端のマギダイヤモンドに到達したら火属性へ変換する。
まだ、水や土魔術のスキル熟練度は低いから、変換して待機させる魔力の出力は低めにしておく。
一つ目の火属性の魔力のラインを維持したまま、双魔の杖に二つ目の新たな魔力を流す。
杖のなかでお互いの魔力に干渉しないように意識しながら、マギダイヤモンドに到達させて風属性へと出力が均一になるように加減しながら変換していく。
簡単じゃないけど、これは慣れ親しんだ難しさだ。
同時に起動しながら、個別に意識して制御する。
併用に難のあるスキルを同時に起動するときに、いつもしていることでしかない。
地道に焦らず、工程を進めていく。
一分後には、マギダイヤモンドで魔力が最後の土属性へと変換される。
マギダイヤモンドは七色に強く輝いているけど、明滅したり不安定な感じはしない。
均一な六属性の魔力が用意できた。
一応、危ういバランスだけど、六属性の魔力は安定している。
後はこれを一つの魔弾へと集束させるだけ…………どうやって?
一つの魔弾へとそれぞれの属性の魔力を集束させる強力なイメージでもあればいいんだろうけど、ボクにそんなものはない。
うーん、魔力で魔弾の外側を用意して、そこに集束させながら流し込んでみるか。
七つ目の魔力を双魔の杖に流す。
魔力はマギダイヤモンドに到達するけど、どの属性にも変換させないで、無属性の魔力のままで空っぽの魔弾にしていく。
空っぽの魔弾に、六属性の魔力を同時かつ均一に押し込む。
一瞬だけ混沌なマーブル模様になったけど、すぐに光属性とは違った白い光の魔弾の形状で安定する。
第三層のセーフエリアから撃った全属性魔弾が地面を深く陥没させる。
スナオの全属性魔弾と完成までの工程とかは違うけど、ボクなりの全属性魔弾が形になった。
オークの皮をなめしたり、シャドーバットの飛膜と貼り合わせたりしながら、無心で全属性魔弾を練習し続けたら、なんとか一〇秒で一発は撃てるようになりました。
次回の投稿は五月一〇日一八時を予定しています。




