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ニートはダンジョンに居場所を求める  作者: アーマナイト


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肝を食べる友

多くの誤字脱字報告ありがとうございます。

感想を閉鎖しました。

 不味い。

 どうしょうもないくらい不味い。

 とにかく不味い。

 黒焦げになった肉の苦さを濃縮したような味と、微妙に自己主張する微弱な電気みたいに痺れるような刺激の酸味が、舌の上で見事に合わさって不快なドブ色の不協和音を奏でながら舌全体に広がってねっとりと絡みついてくる。

 反射的に喉が通行を拒絶して、強制的に吐き出しそうになる。

 体の強硬な拒否反応を意志の力で強引に黙らせて、喉を動かしてなんとか胃に落とす。

 すでに口にも喉にも存在しないのに、まったく衰えない最悪な後味と猛々しい獣臭と血生臭い残り香が舌と鼻腔を蹂躙して、なんとか耐えていた心をへし折っていく。

 口直しに急いでオークのしょうが焼きを食べるけど、食感はあるのにまったく味がしない。

 口のなかに滞留している後味がオーク肉の旨味による味覚の修正を許さない。

 恐ろしいなストライクベアの肝。

 味と身体能力強化を確かめるべく、一番強化の効果が高いと言われている刺身で一切れ食べてみたけど、不味すぎて強化アイテムとして常に携帯する気に全然ならない。

 顔を上げれば視線の先でスナオが、青い顔をしながら口を手で押さえて微かに震えている。

 やっぱり、ストライクベアの肝の味はスナオも受け入れられないようだ。

 まあ、これはボクやスナオの個人的な味の好みとかじゃなくて、もっと広い人類にとっての普遍的な不味さだと思う。


「おっ?」


 ストライクベアの肝を食べてから数秒して、強いお酒を飲んだときのように体が徐々に火照ってきた。

 でも、お酒を飲んだときのような酩酊する感覚はなくて、体の中心から金色の脈動するなにかが溢れて四肢の隅々まで行き渡って満たしていくような気がする。

 加速するように気分が高揚して、荒々しい力が全身を循環しながら充溢する。

 根拠はないけど、なんとなくいまならオークを援護がなくても素手で撲殺できると錯覚してしまいそうになる。

 実際に狩りをしみないと正確な能力の上昇率はわからないけど、軽く動いてみて二割から三割くらいは上がっているような気がする。

 けど、変な感覚だ。

 首から上は現在進行形で味覚と嗅覚が最悪なのに、首から下は力が満ち溢れて気分が高揚している。

 心臓付近を中心に広がる高揚感は首から上に届かないようで、継続するストライクベアの肝がもたらす後味の絶望を吹き飛ばすことはなかった。

 でも、これだけの効能があるなら、常用する探索者がいるのも納得できる。

 まあ、ボクはまだ実際の狩りで使っていないから、常用するつもりにはなれないけど、強敵相手の切り札としてお守り代わりに持って行くのはありかもしれない。

 一〇分くらいでストライクベアの肝の後味は消えたけど食事が終了しても、味覚と嗅覚が正常に戻らなくてなにを食べても食感以外わからなかった。

 スナオもストライクベアの肝がもたらした後遺症から抜け出せないのか、無言のまま重い足取りでさっき成功させたばかりの全属性の魔弾の練習に取り掛かる。

 実のところ複数の属性の魔術のスキルを混ぜたりするのは、一応、多くはないけど前例がある。

 だから、あのときスナオなら全属性の魔弾に成功するかもしれないと思えた。

 魔術に関してボクよりも優秀なスナオでも全属性の魔弾は、簡単じゃないようで一発撃つのに一〇秒前後かかっている。

 ボクはそれを見ながら、作業をこなしていく。

 最初は今日、狩ったオークの皮でスナオ用のシャドースーツを作る。

 いまのスナオの装備と同じようにジャケットとズボンでもよかったんだけど、本人がボクと同じようなツナギタイプを希望したのでシャドースーツを作ることになった。

 どこか人っぽいブタのようなオークの頭を無心で割って、脳を取り出す。

 自分のときの手順を参考に、停滞することなくオークの皮をなめして、ツナギに最適な厚みや柔軟性へと加工していく。

 少し加工するだけで相変わらず皮としては破格の魔力を容赦なく消費する。

 実用と見た目の両方のために、加工したオークの革にシャドーバットの飛膜を張り合わせていく。

 何度見ても不思議な光景だ。

 シャドーバットの飛膜は単体だと黒くて薄いビニールテープなのに、モンスターの皮と貼り合わせたとたん存在感が希薄になる。

 貼り合わせたオークの革をツナギの形にしたら、スナオに軽く着てもらってサイズなどに違和感がないか確認して、次の工程にいく。

 ツナギを作るなかでも一番地味で手間のかかる工程、ファスナーの製造と取り付けだ。

 一度経験して、完成品も身に着けているから、一から試行錯誤をしなくていいけど、それでもなかなか大変な作業になる。

 ゴブリン鋼のインゴットを手に、魔力を浸透させて錬金術と鍛冶のスキルで繊細な一つ一つのパーツを作っていく。

 ゴブリン鋼のファスナーが形になったらツナギに取り付けて、スムーズに開閉できるか確かめたら、ひっかかりや小さくても違和感のあった部分を修正していく。

 もう一度スナオにツナギを着てもらって、実際に動いてもらう。

 走ったり跳んだり、体術やデュオアックスを振るってもらって、小さな違和感でも申告してもらいさらに修正していく。

 厚さや柔軟性に伸縮性を各部での最適解へと押し上げる。


「…………これは、防具としての強度よりも、まるで第二の皮膚のように違和感なく滑らかに動けるのが、なによりも凄いです。大切にします」


 スナオの言葉に、共感しながらうなずく。

 オークの革で作ったツナギは着ているのに、激しく動いても伸縮性や柔軟性に違和感がないから驚く。


「気に入ってもらえたなら、なによりだ」


 一息入れてから、今度は自分用の装備を作る。

 けど、急な消失感がボクを襲う。

 

「あれ? 効果が切れた」

 

 ストライクベアの肝を食べてから、約二時間くらいで有り余る高揚感と力強さが消失した。

 二時間、一時的な強化アイテムの持続時間としては悪くない。

 二時間以上も継続する狩りなんて、ほとんどないだろうし。

 まあ、あれだけ不味いと、使用するのにそれなり以上の覚悟がいるけど。

 揺れた気持ちを整えて、再度作業に入る。

 手に入れたオーク合金製のハンマーからオーク鋼を分離してインゴットにする。

 ゴブリン鋼のインゴット、コボルト鋼のインゴット、オーク鋼のインゴットを並べて、深呼吸をしながら意識を徐々に、これからの作業に専心させていく。

 ツナギを作るときには体形などを参考にするために、全属性魔弾の練習をするスナオの姿が視野にあったけど、現在は欠片も気にならない。

 これから作るのは大鎌よりも扱いなれたシックル、つまり片手で使う鎌だ。

 オーク鋼の量的に大鎌でも作れそうだけど、大鎌は新しいシックルに慣れてから作る。

 鑑定と鎌のスキルとデュオシックルを参照して、目の前の素材で至る完成形を脳裏に焼き付けるように強く幻視する。

 幻視した到達点への工程を鑑定のスキルで問いかけて、脳裏に羅列する。

 迷いなく、工程を消化して、素材を完成形へ昇華させる。

 重く粘るオーク鋼を芯鉄と柄に、硬いコボルト鋼を刃鉄に、ゴブリン鋼とコボルト鋼とオーク鋼の合金を皮鉄と棟鉄に配置する。

 専心した心がブレて、ため息が出そうになる。

 柄や刃の長さや厚みはデュオシックルから、それほど大きく変更されない。

 けど、皮鉄と棟鉄に配置される合金がやっかいだ。

 単純な比率のグラデーションなんてどこにもなくて、微細で複雑な配置と比率で変化する三つの金属はどこまでも繊細なカオスでありながら、全体としてはどこまでも合理的で秩序的な様相をしている。

 まったく、ゴブリン鋼のファスナーが児戯に思える難業だ。

 形状を調整して、乱れた合金の比率を調整して、調整して、調整する。

 幻視した演算の産物を突破して、極限を形にする。


『トリオシックル』


 鑑定したら、こう出た。

 ゴブリン、コボルト、オークの三重奏、そのままだ。

 でも、やっぱり見た目がダサい。

 金ピカの柄に、青い刃先と茶色や紫色が混ざって、このトリオシックル、ダサくて若干キモかった。

 破壊と力強さをイメージして滑り止めをかねたエングレービングを施して、ダンジョン鉄で刃先以外をコーティングしていく。

 ボクとしては、このトリオシックルが第三層のモンスターをスパスパ両断してくれることを切に願う。

次回の投稿は四月二八日一八時を予定しています。

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