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ニートはダンジョンに居場所を求める  作者: アーマナイト
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装備する友

 さっそく購入した灰色のズタ袋のような収納バッグが役に立った。

 スナオの装備を作るための素材と、彼がダンジョンで寝泊りするのに必要な毛皮の敷物、寝袋、暖房、簡易トイレなどを収納しても見た目はペラペラのズタ袋のままだった。

 まあ、収納した物の重量は軽減されないけど、あれだけかさ張る物がこれだけコンパクトになって持ち運びやすくなるだけでも十分に便利だ。

 以前のボクなら一〇〇キロ以上の重量を運ぶなんて不可能だったけど、現在は少し重いと感じるけど歩くのに支障が出るほどじゃない。

 ダンジョン入口のセーフエリアに戻ると、スナオがある意味ですごく器用なことをやっていた。

 隠行と魔力感知のスキルを一秒以下の間隔で素早く切り換えていた。

 スナオの存在感が希薄になってすぐに戻るから、まるでモールス信号のように点滅しているように感じられた。

 こんな細かいスキルの切り換えをするより、同時に起動させたほうが簡単そうだけど、買取所の店員の言葉通りスキルを切り換えて使うクセがついていると難しいのかもしれない。


「スナオ、この杖とマントを使ってみて」


 ボクが差し出した火属性の双魔の杖とシャドーマントをスナオは不思議そうに受け取る。


「これは?」


「ボクの作った火属性の双魔の杖とシャドーマント。これからスナオ用の双魔の杖を作るから、形状や使い勝手の良し悪しを教えて。シャドーマントも動きづらいとか、コートの形状のほうがいいとかあったら言って、修正するから」


「えっと、作った?」


「そう、モンスターの武器や皮を錬金術と他の生産系のスキルを使って」


「……ジャックさんは凄いですね。私と違って、同時に使えないと言われているスキルを同時に起動できたり、これだけの物を作れてしまうのですから」


 スナオが暗い表情でうつむいてしまう。


「そうかな? それを言うなら、スナオだって十分凄いよ」


「そうでしょうか」


「魔弾を生み出した発想も凄いけど、魔術の才能は間違いなくボクよりもある。スキルの同時起動も、一つ一つ積み重ねればできるようになるよ」


「……はい、頑張ります。えっと、でも、この杖は凄いですね。こうして魔力を杖に通してみても、まるで抵抗なく流れように駆け抜けていきます」


 まあ、確かにビギナーワンドに比べて双魔の杖は、楽に魔力を流すことができる。


「それで、杖の形状やデザインに要望はある?」


「形状、デザイン……それなら、銃のような形の杖ってできますか?」


「銃? できると思うけど、それって軍用の小銃みたいなのでいいの?」


「そうですね……軍用の小銃よりグリップとストックが一体になっている猟銃のようなタイプでお願いします」


「猟銃ね、わかった」


 ズタ袋から取り出して並べた素材を遅滞なく迷いなく次々に加工していく。

 スナオの使っていたビギナーワンドから外したマギルビーを新しい双魔の杖の先端に取り付けるまではスムーズに進んだ。

 あとは杖というよりもただの棒状のこれを猟銃のような形状に加工すればいいだけだ。

 試しに、ライフルを構えるように杖を構えると、グリップがないから手首が窮屈で握りにくくて、ストックがないからか体にフィットしなくてしっかりと安定しない。

 スナオの体形と骨格を鑑定のスキルで参照しながら、杖の端をフィットして安定するように銃のストックのように加工してグリップを作る。

 スキルの同時起動の訓練をしながらボクの作業を見ていたスナオが目を見開いて驚いているけど、取り合わずにある程度できた杖を実際に構えてもらって、さらに微調整を何度か繰り返す。


「よし、できた」


「えっ、それで完成なんですか?」


 なぜか、スナオが残念そうに驚く。


「えっと、なにか足りない?」


「ジャックさんが使っているような装飾をお願いしたらダメですか?」


 スナオが目を潤ませて、上目遣いで言ってくる。

 なかなか可愛らしくてドキリとしてしまうから、そういう仕草は止めてもらいたい。


「ダメじゃないけど、装飾を施していいの」


「是非、お願いします!」


 一気にスナオが大輪の笑顔を咲かせる。


「わかった。それでデザインのリクエストはある?」


「ジャックさんの感性にお任せします」


「お任せね」


「はい、お願いします」


 静かにスナオが頭を下げる。

 ボクの感性に任せる。

 意外に難しい注文だ。

 光属性以外のボクの双魔の杖には骨と茨をイメージしてエングレービングを施してあるけど、それをスナオの杖に施すのは不味い気がする。

 あれは決してダサくはないけど、外見美少女のスナオが持つと犯罪の気配がしてしまう。

 うーん、火属性の杖だからシンプルに燃え盛る炎をイメージしてエングレービングを施すか。

 ストックからマギルビーがある先端に炎が燃え上がるようにイメージして加工していく。

 さらに、紫色の杖のなかで所々にある赤紫と青紫の部分を上手く炎の揺らぎのようなデザインに組み込めるように調整する。


「こんな感じでいいかな」


「……はい、ありがとうございます、大切にします」


 スナオが仰々しく両手で出来上がった双魔の杖を受け取る。


「気に入ってくれたのならよかった。ところで、スナオはモンスターとしてのゴキブリって大丈夫?」


「狩ったことはないですけど、生理的嫌悪感で動けなくなることはないと思います」


「あーいや、そうじゃなくて、防具の材料としてゴキブリ系モンスターの素材を使っても平気?」


「えっと、普通のゴキブリじゃなくて、モンスターとしてのゴキブリなら防具にしても平気です」


「それならよかった」


 スキルの同時起動の訓練に戻るスナオのかたわらで、アダマントコックローチの甲殻とスライムゴムをズタ袋から取り出していく。

 まずは頭部を守る兜から作っていく。

 アダマントコックローチの甲殻を軍用ヘルメットのような形状に加工して、内側に弾力を調整したスライムゴムを張る。

 うーん、スライムゴムがむき出しだと、肌触りがよくない。

 シルバーラビットの革をズタ袋から取り出して、兜の内張りに加工する。

 最終調整をするために、なぜか小さく「私の常識が……」とつぶやくスナオにかぶってもらって頭にフィットするように調整する。

 さらに、アダマントコックローチの甲殻とスライムゴムで次々に胸当て、籠手、肘当て、膝当て、脛当てを作っていく。

 悟ったような穏やかな笑みを浮かべるスナオにこれらを装備した状態で動いてもらって、ズレたり体の動きを阻害しないように調整する。

 スリープシープの革で作られたグローブとブーツをスナオに一度脱いでもらって、アダマントコックローチの甲殻やゴブリン鋼で補強して、殴ってよしのタクティカルグローブと蹴ってよしの安全靴仕様にする。

 続いて、斧のスキルを獲得して、スナオの持っていたギロチンアックスを参考に斧を作る。

 上位ゴブリンの武器から取り出したゴブリン鋼を芯鉄と柄に、上位コボルトの武器から取り出したコボルト鋼を刃鉄に、ゴブリン鋼とコボルト鋼の合金を比率を変えながら皮鉄と棟鉄に配置する。

 出来上がった片刃の戦斧に滑り止めを兼ねたエングレービングを施して、ダンジョン鉄で刃先以外をコーティングする。


『デュオアックス』


 鑑定したら、こう出た。

 スナオにデュオアックスを渡して違和感がないか振るってもらう。


「重いとかバランスが悪いとかある?」


「いえ、大丈夫です。というか、見た目よりも軽くて手に馴染んで扱いやすいです」


 うん、大丈夫なようなので、対シャドーバット用に長柄の大斧を作る。

 スナオなら火魔術の魔弾でシャドーバットを撃ち落とせそうだけどし、まだ第二層に到達してないから早い気もするけど、用意して損はない……多分。


『デュオアックス』


 うーん、三メートルの長柄の片刃の大斧を作ったけど、名前が六〇センチの柄の戦斧と変わらない。

 この分だと大剣や長槍を作っても、デュオソードとデュオスピアになりそうだ。

 スナオのスキル訓練も成果が出てきた。

 隠行と魔力感知の二つスキルを一歩も動かないで集中すれば、不安定ながら同時に起動させることができるようになった。

 初めて成功させたときはガッツポーズをしてスナオは全身で喜んでいた。

 なにかきっかけがあったのかスナオに聞いてみたら、シャドーマントを装備してから隠行のスキルの起動が魔力感知のスキルと同時でも、わずかに制御が楽になったということだった。

 シャドーマントには隠行のスキルに対する補正効果があるから、それが影響しているのかもしれない。

 それなら、さまようカボチャに被せている魔力感知のスキルに補正効果のあるウィザードハットを貸そうとしたけど、今度は補正効果がないとスキルの同時起動ができなくなりそうだからと遠慮された。

 最後にサイドアーム兼解体用に作った双魔の剣鉈と、これらの武具を持ち運ぶためにボクが使っていた収納枠六つのコンテナブレスレットをスナオに渡す。


「……えっと、これは?」


「ボクが使っていたコンテナブレスレット、複数の武具を運用するのに必要でしょ。それは貸与だから、あまり気にしなくていいから」


 ボクの言葉にスナオは疲れたようにため息をしてから、うなずいてくれた。


「そういうわけには…………いえ、大切にお借りします」

次回投稿は四月四日一八時を予定しています。

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