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ニートはダンジョンに居場所を求める  作者: アーマナイト
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魔弾を撃つ友

 スナオが利用することはほとんどないと思うけど、ボクが私服からダンジョン探索用の装備に着替えるついでに離れを一通り案内した。

 まあ、スナオは離れよりも、さまようカボチャやデュオシックルのようなボクの装備が気になるようだ。

 くたびれたとんがり帽子ウィザードハットを上に乗せたさまようカボチャ、禍々しいエングレービングの施された黒い鎌デュオシックル、蜃気楼のように希薄な存在感のシャドーコート、個人的にこれらの装備の性能もデザインも気に入ってるけど、あまりに中二すぎて人前で着る勇気はない。

 そんな装備が、かつてボクよりも重度の中二病だったスナオの心に刺さったようだ。

 さっきからスナオが「凄い」を連発している。

 装備の趣味に共感して褒めてもらうのは、価値観を承認してもらったようで嬉しい。

 ほんの少しドキリと胸が高鳴った気もするけど、多分、気のせいだ。うん、気のせいだ。


「えっと、大丈夫?」


 ボクの言葉にスナオは小さくうなずく。

 けど、ダンジョンを前にして、スナオが顔を青くして震えている。

 さっきまで中二な装備に目を生き生きとさせていた人物とは思えない変化だ。


「だ、大丈夫です。行きましょう」


 とても、大丈夫には見えなかった。

 けど、ダンジョンの探索を中止するのは、自分を必死で奮い立たせているスナオに失礼だ。

 まあ、今日は多分セーフエリアから、出ないから危険はない。

 入口のセーフエリアと通常のエリアの境界線近くまで進んで、スナオの顔色がある程度戻ってから、装備や狩りのスタイル、スキルの構成を聞いてみた。

 予想通りスナオは隠行や索敵のスキルのような併用に難のあるタイプのスキルを、同時じゃなくて他の探索者と同じように切り換えて使っていた。

 ボクが隠行と索敵だけじゃなくて魔力感知のスキルも同時に起動して見せたら、スナオに目を見開いて驚かれた。

 スナオもスキルの同時起動の情報は知っていたけど、なかなかできないからデマか都市伝説だと思って諦めたらしい。

 確かに、一朝一夕にはできないかもしれないけど、スナオの身の安全のためにも隠行や索敵のようなスキルの同時起動を覚えてもらう。

 スナオの狩りのメインウェポンは、ボクが使っていたギロチンシックルと同じようにギロチンストライクの特殊技を備えたトレーニングウェポン、ギロチンアックスと火属性のビギナーワンドだった。

 両方とも、家を追い出されてから半年、ボロボロの金属バットで頑張っていた頃に、宝箱からそれぞれ入手したらしい。

 スナオが着ているジャケット、ズボン、グローブ、ブーツはスリープシープの革で作られていて、それなりに強化されているから、ゴブリンやコボルトを相手にした防具として及第点だけど、ホブゴブリン相手だと一撃死もありえる。

 スナオの武具と防具は第一層ならともかく、第二層だと厳しい。

 過剰に強い装備を安易に渡すのもスナオの成長によくないけど、ウサギに一撃で蹴り殺される装備で狩りをするほうが危険だ。

 今日中に装備を作ってスナオに渡そう。


「装備を作る?」


 ボクが装備を自作していると予想できないようで、スナオは不思議そうに首を傾げる。


「ボクが素材をスキルで加工してスナオの装備を作る」


 スナオはよくわかっていないみたいだけど、パーティーメンバーの装備ということで加工費抜きの素材の費用だけ出してもらうことで、うなずいてもらった。

 素材を取りに行く前に、スナオの火魔術を見せてもらった。

 事前に狩りで、ジャイアントラットを火魔術一発で仕留めたという話は聞いていた。

 その光景は半信半疑だったボクを驚愕させるのに十分だった。

 不安定で鈍い魔力循環、杖を通る魔力の速度は低速で、ビギナーワンドの先端にあるマギルビーに到達して火属性に魔力を変換する効率も悪い。

 けど、顕現したものは、ある種の魔術の完成形。

 決して派手な魔術じゃない。

 というか、見た目はかなり地味な魔術だ。

 一言で言えば、魔力をライフルの弾丸のように圧縮して、赤い火属性の魔力弾に変換しただけのもの。

 でも、火を弾丸にしたわけじゃない。

 もっと単純でシンプル。

 魔力を火にするんじゃなくて、その前段階の魔力を火属性に変換したものを弾丸にする。

 正確な威力は虚空に放ったからわからないけど、間違いなくボクの放つ火の玉よりも強力で、命中すればジャイアントラットを一撃で狩れるだろう。


「凄い魔術だね。かつてのオカルト研究の成果かな?」


 ボクは中二的な遊びとして学生時代にオカルト研究会に所属していたけど、スナオはもっと真剣にオカルトを研究していた。

 だから、魔術のスキルにも深く傾倒して、一つの強固なイメージを獲得したのだと思った。

 けど、スナオは顔をしかめて首を横に振ながら応じる。


「……違います。魔術なんて信頼してないよ。私は命を代償にしても、あいつらのムカつく笑顔を絶望に変えたかったのに、一度も成功しなかったじゃないですか」


 学生時代の記憶を思い出しているのか、スナオから可視化されそうな濃密な負のオーラが放出される。

 まあ、確かに、オカルトの儀式は一度も成功しなかった。

 やっていたのはオカルトと言いながら、他者を呪う系のものばかりだった。

 イジメと言うほど暴力的でも犯罪的でもなくて、ただクラス一丸となってボクやスナオをいじって笑いものにして見下し続けただけ。

 毎日黙って、あるいは愛想笑いでやりすごしたけど、どれだけあの嘲笑の壁を粉々に壊したいと思ったことか。

 でも、ボクはわら人形と五寸釘で連中がどうにかなると本気で考えていたわけじゃない。

 ボクにとってあれは、ある種のストレス発散の儀式だった。

 けど、スナオにとってはより切実な祈りだったのかもしれない。

 やってることは呪いだけど。


「それは……まあ、そうだったね。でも、それなら、いまの魔術はどういうもの?」


 自分のイメージを信じ込めているわけじゃないなら、あの属性魔弾の高い完成度が説明できない。

 徹底した理詰めでやっているのだろうか?


「昔やったゲームの設定の応用と、試行錯誤の成果です」


「ゲームの設定?」


「はい、銃のような杖を振り回して、弾丸のような属性をまとった魔力が飛び交うマイナーな魔法少女モノFPSの設定です。その世界だと魔力は属性を帯びないと、どれだけ高出力でも攻撃力がなくて、属性さえ帯びれば魔力をわざわざ火や水にしなくても攻撃力が出てました」


 なんとなく納得できる話だ。

 そのゲームの設定と同じように、魔力はエネルギーだけど、魔力そのものにはなにかを破壊する力はない。

 まあ、だから普通は魔力を火や水に変換して魔術する。

 まさか、属性を帯びただけの魔力に攻撃力があるとは考えない。

 あるいはスナオがゲームの設定を強く信じ込んでいるから、あれだけ高い完成度の魔弾を撃てるのかもしれない。


「だから、これ以外の他の人のようにモンスターを焼き殺すような魔術は使えないんです」


「そうか……なら、火の玉を任意の場所で破裂させられるか?」


「え? それくらいなら、威力が低くてもいいならできますよ」


 できて当たり前という顔でスナオが言った。

 ボクはいまだに誘導や連射できても、破裂させるこはできないけどね。

 とりあえず、第一層の狩りでスナオにエアガンやスプレーガンは必要なさそうだ。

次回は三月三一日一八時に投稿予定です。

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