ニート、新しい杖を手にする
コボルトライダーとアサルトハウンドを解体して、犬歯と魔石を取り出す。
アサルトハウンドはスモールブラックホーンと違って、皮や肉に価値がない。
もじゃもじゃの毛は手触りがあまりよくないから毛皮として活用しにくくて、皮もスモールブラックホーンほど丈夫じゃないから防具に向かないし、肉も硬くて筋っぽいのに臭くて食えたものじゃないらしい。
解体の手間が少ないのはいいけど、せっかく狩ったのに活用できるのが犬歯と魔石だけで少し残念な気持ちになる。
コボルトライダーの使っていた槍を回収して、まとめて担いだら帰還する。
セーフエリアに戻ったら、狩りで高ぶった気持ちをゆっくりと深呼吸で静めて、生産モードにシフトする。
持ち帰った上位コボルトの武器から、次々にコボルト鋼を分離していく。
予想通り、上位コボルトの武器に含まれるコボルト鋼は六割前後で、上位ゴブリンの武器に含まれるゴブリン鋼と同じくらいの強化率だった。
デュオシックル、デュオサイズ、双魔の剣鉈は、狩りで使用して十分強化されているから関係ないけど、自分用に作ってあまり使っていないデュオスピア、デュオソード、双魔の太刀は時間があるときに作り直したほうがいいかもしれない。
次に、コボルトメイジの使っていた風属性のコボルト合金製の杖を手に持つ。
鑑定と錬金術で調べてみると、内部はゴブリンメイジの杖と同じ図形のような文字が雑に刻まれていた。
コボルト合金で杖ができるなら、コボルト鋼でも杖の作製が可能なんじゃないかと鑑定に問いかけたら、あっさりと可能だと告げてきた。
それなら、ゴブリン鋼で杖を作るときに、コボルト鋼でも可能だと教えてくれればいいのにと少し思ってしまった。
けど、まあ、ゴブリン鋼で杖を作る方法を聞いて、鑑定が自発的にコボルト鋼でも杖を作れるとは告げないだろう。
気を取り直して、分離したばかりのコボルト鋼のインゴット、コボルト鋼と相性が良くてハイコボルトの犬歯よりも魔力を通すアサルトハウンドの犬歯、コボルトメイジの使っていた杖から取り出したマギエメラルドを用意する。
アサルトハウンドの犬歯を錬金術のスキルでスモールブラックホーンの角と同じように加工して、図形のような文字にしていく。
犬歯で作った文字をコボルト鋼で覆って杖の形に整えて、マギエメラルドを先端にはめる。
『コボルトワンド(風)』
赤いゴブリンワンドと違って、コボルトワンドは色が深みのある鮮やかな濃紺で雰囲気が違う。
左手にゴブリンワンド(風)を装備して、できたてのコボルトワンドを右手に持って実際に使って性能を比べてみる。
左右に風の玉を生み出して、単発、連射と次々に放って試してみる。
ゴブリンワンドは魔力を効率よく属性に変換するから燃費がよくて、コボルトワンドは魔力を属性に変換する速度に優れていて、より素早い連射が可能になった。
どちらも一長一短がある。
ボクは魔力量が多いほうだから、牽制用に連射するならコボルトワンドのほうが、どちらかといえば向いているのかもしれない。
どうせなら、燃費が良くて、素早く連射できる杖がいいんだけど、左右にゴブリンワンドとコボルトワンドを持ちながら、鑑定にぼんやりと問いかけたら、ゴブリン鋼とコボルト鋼の両方を使った杖の作り方を告げてきた。
思わず左右の杖を地面に叩きつけて、へし折りそうになってしまった。
最初に、それを言えよと思った。
鑑定のスキルはある種、検索エンジンみたいなところがあるから、的確なワードを入力しないと欲しい情報を得られなかったり、中途半端な情報しか引き出せないのはわかる。
最初に杖を作るときに、手持ちの全ての素材で最高の杖を作りたいと鑑定に問いかけていれば、よかったのかもしれない。
「はあぁ」
色々な意味と感情をため息と一緒に吐き出す。
鑑定のスキルの使用する上での注意点の確認ができたことと、ゴブリンワンドやコボルトワンド以上の杖が作れるなら、それは間違いなくいいことだ。
そうやって深く長く自分に言い聞かせる。
遠回りの徒労を自分が間抜けだからしてしまったと思うと、心が沈み込んで抜けられなくなりそうだから、杖を作ることに意識をことさら集中させる。
作る杖の素材はゴブリンワンドとコボルトワンドで大丈夫のようだ。
今回は鑑定に、素材や方法など何重にも様々な問いかけをして、確認を取った。
二つの杖から、スモールブラックホーンの角とアサルトハウンドの犬歯で作られた図形のような文字を取り出して、混ぜながらもう一度文字にする。
けど、単純に混ぜるわけじゃない。
文字の太さと大きさに変更はないから、角と犬歯の合計の半分の量も使わない。
それに混合比率も角と犬歯で半々じゃなくて、文字ごとに比率が違うどころか、直線や曲線ごとに、あるいは内側と外側で、違う比率を細かく鑑定が要求してくる。
スモールブラックホーンの角とアサルトハウンドの犬歯の素材としての性能はほぼ同じだけど、ゴブリン鋼やコボルト鋼との相性が違うから、最高の性能を求めると細かい調整が必要になる。
文字が完成したら、鑑定で細部まで妥協することなく精査して、修正して、修正して、修正する。
文字を覆うゴブリン鋼とコボルト鋼も、単純に半々の比率で合金にするわけじゃない。
文字に接触する場所によって、ゴブリン鋼とコボルト鋼の比率を変えて、複雑なグラデーションで彩られたマーブル模様を描くことになる。
鑑定で細かく一つ一つ比率を確認して、全体で捉えてさらに修正して、確認して修正する。
ゴブリンワンドやコボルトワンドより、長くなった六〇センチ紫色の杖を見ながら、どうせなら滑り止めをかねたエングレービングを施したくなる。
鑑定で問いかけたらエングレービングを施しても性能に影響がないようなので、中二の心を全開にして邪悪な悪魔が持っていそうな骨と茨をイメージした禍々しいエングレービングを紫色の杖に施していく。
最後に、先端にマギエメラルドをはめたら完成。
『双魔の杖(風)』
デュオワンドじゃないのか。
表面から魔力を通す関係上、ダンジョン鉄でコーティングしたりできないけど、生々しく脈動するように紫色が所々で赤紫や青紫になっていて、施したエングレービングとあいまって、禍々しいというよりおぞましくなった。
まあ、これはこれで悪くない。
人前で使ったら、通報されそうなやばいデザインだけど、ダサいわけじゃない。
そもそも、この杖を持たなくても、人前でカボチャを被って黒いレザーコートを羽織って、禍々しい鎌を持っていたら通報されそうだ。
一通り双魔の杖で風魔術を使ってみて、コボルトワンドよりもさらに連射速度が上がって、ほとんど機関銃のような気がしてきた。
燃費も良くなって、意図的に無茶な魔術の使い方をしなければ、魔力切れになることは、多分ない。
まあ、低威力に変化はないけど。
火属性と闇属性の双魔の杖を作ったら、魔力切れになるまで魔術の練習をした。




