ニート、スキルを確認する
あれから、ゴブリン一四体、ジャイアントバット二二体、ジャイアントラット二五体を倒している。
ゴブリン以外が出現したことは良かったけど、出てきたのがジャイアントバットとジャイアントラットだと気持ちも盛り下がる。
ジャイアントバットもジャイアントラットもゴブリンよりも格下で、安全に狩ることができるけど、低確率で出現する魔石以外買い取りの対象になるものがない。
ジャイアントバットはゴブリンと同じように、肉が不味くて皮にも価値がない。
ジャイアントラットの肉は高級豚のヒレ肉に似ていて、それなりに美味しいらしいけど、仮に買い取ってもらっても、かつての豚コマ以下の値段にしかならない。解体の手間と一度に取れる量を考えると割りに合わない。皮についても、強度はないけど、軽くて柔らかいから加工しやすいけど、一体からあまり多くの量がとれないから、安い小物しか作れない。だから、やはり採算が合わないらしい。
「スキルウインドウ」
『隠行三 鑑定 索敵二 解体二 暗視一 魔力感知一 スキルポイント五』
見事に補助スキルばかりで、戦闘スキルが一つもない。
エアガンが思っていたよりも効果的で、槍は無防備な胴体に突き刺して倒す用になっている。複雑な槍の運用が必須という感じでもないので、第一層を探索すだけなら武器系のスキルは後回しでいいかもしれない。
スキルについても、鑑定、解体、暗視のように併用に問題ないものと、隠行、索敵、魔力感知のような併用に難のあるものに分類できることがわかった。
ようやく隠行と索敵の同時起動に慣れてきたところなのに、魔力感知を加えるとすぐに不安定になる。
それでも、スキルの同時起動を続けていたから、不安定なりに複数のスキルの同時起動を維持するこつはわかってきた。
戦闘スキルをまだ必要と感じないのには、レベルアップによる身体能力の上昇も関係している。
まだ、アクション映画の主人公にはほど遠いけど、間違いなくボク史上最高の身体能力だ。
それにともない、体がダンジョンの魔力で活性化、あるいは最適化されて、突き出していたお腹の脂肪がかなり消えてすっきりしている。
ダンジョンでレベルアップするとメタボボディがシックスパックになったり、老人が二〇代に若返ったりすると知っていたけど、体感してみると凄まじい。世界中のセレブが大金をかけてパワーレベリングをする理由がわかるというものだ。
まっとうなダイエットやアンチエイジングを彼方に置き去りにするほど短期間に劇的な効果を見せ付ける。
まあ、代償に調子に乗って、ダンジョンに殺される者も一定数いる。
「体がスリムになったのはいいけど、装備も同時に強化されて助かる」
ダンジョンでの強化は体だけじゃなくて、装備にも及ぶ。
レベルアップしてスリムになったことでぶかぶかになっているはずの装備が、強化の一種のサイズ調整の効果で体にジャストフィットしている。
装備の強化はレベルアップと連動しているわけじゃなくて、装備者が直接攻撃でモンスターを倒すたびに強化されるらしい。
もっとも、ダンジョン産じゃないもので作られた装備の強化は微々たるもので、サイズ調整以外の強度などの強化は気休めていどらしい。
「今日は次の一戦で終りにするか」
レベルアップの影響なのか肉体的な疲労はあまりないけど、精神的に疲弊している。
スキルの併用は存在しない筋肉を酷使しているようで、自覚しにくいのに疲労だけは負債のように明瞭に自己主張をしている。
無視して稼動し続けることは可能だけど、予期しないタイミングでスキルがオフになってしまうかもしれない。
今のボクならスキルなしでも第一層なら問題ないと思えるけど、万が一にもここで死ぬわけにはいかない。
アンナとの約束?
そんなものはどうでもいい。
ただ、ボクが生きて感じてみたいんだ。
生きることは鉛色の粘りつく騒音のようなものだったはずなのに、ゴブリンを倒したときにボクの心の内側で確かに芽生えたレーゾンデートルが切り裂くような黄金色の歓喜の産声を上げるのを感じた。
血の見せた虚ろな酩酊の幻かもしれない。
そうだとしても、地に足の着いた心で目覚めたときに、枯れた呪詛と当たり前の絶望以外の気持ちを感じられるなら、それ以上のことなんてない。