ニート、草原で大鎌を振るう
昨日は、魔力切れになるまで、シルバーラビットやシャドーバットと魔術で戯れた。
途中で、シルバーラビットを相手にしているときに、シャドーバットの群れを引っ掛けたときは、少し焦ったけど、結果的に間断のない攻撃のなかで火魔術を使う良い訓練になった。
まあ、曲線軌道や追尾誘導は動きながらだと、まだできないけど。
わざとシルバーラビットとシャドーバットの群れを引っ掛けて魔術の訓練をするのも悪くないけど、今日は上位ゴブリンの狩りに向かう。
肩で担ぐようにデュオサイズを右手で保持しながら、左手にはゴブリンメイジの杖を装備して、第二層を進んで行く。
デュオサイズで上位ゴブリンを狩るのがメインで、ついでに上位ゴブリンを相手にボクの魔術で牽制になるのか試す。
前回、複数の上位ゴブリンを狩るのに苦労したけど、全力でデュオサイズを振り回せる状況でも苦労するのか確認したい。
デュオサイズはシルバーラビット以外で狩るのに、苦労した相手がいない。
木や枝に邪魔されて自由自在に振り回せないことはあるけど、そういう制約がなければホブゴブリンでも短時間で狩れる。
第二層は草原と森が入り乱れているから、ゴブリンの領域にもデュオサイズを全力で振り回すのに支障のない草原が探せば多分ある。
でも、草原を探すのに夢中になって、中央の戦場に入らないように注意しないといけない。
いまのボクだとまだ中央の戦場で、上位ゴブリンと上位コボルトの群れを途切れることなく相手にするのは難しい。
索敵と遠見のスキルでモンスターを避けて、ゴブリンの領域を目指す。
すぐに遠見で、森の奥に上位ゴブリン四体の群れを確認したけど、今回はスルーする。
樹木の密集した森を避けて、深緑の絨毯のような草原を進む。
踏み分ける植物の力強い生命力を、足裏から伝わってくる弾力で感じる。
青い空は微妙に圧迫感があるけど、優しく包み込んでくるような植物の香りを感じていると、この草原に寝そべって身を任せたくなる。
血と臓物と、最近は焦げる臭いに汚染された嗅覚が、癒されているような気がする。
まあ、すぐに鉄錆のような赤黒い死臭に汚染されてしまうんだけど。
遠見がこちらに近づいてくる三体を捉える。
……三体?
いや、正確には三騎、もしくは六体。
スモールブラックホーンに騎乗したゴブリンライダーが三騎。
ゴブリンライダーの戦闘能力は上位ゴブリンのなかだと低いほうだけど、騙されてはいけない。
ダンジョンにゴブリンライダーが単体で出現することはまずない。
必ずスモールブラックホーンに騎乗して出現する。
ゴブリンキングやゴブリンジェネラルが騎乗するブラックホーンの下位種のポニーくらいの大きさのスモールブラックーホーンでも、サラブレットを上回る速度で突っ込んでくるらしい。
ゴブリンライダーはそんなモンスターに騎乗しながら、上から槍を振り回してくる。
モンスターに騎乗していなければ、ゴブリンライダーが弱いというのはあまり意味のない情報だ。
距離、五〇メートル。
革鎧を着て槍を手にしたゴブリンライダーを乗せたスモールブラックホーンの姿がしっかり見えてきた。
スモールブラックホーンの見た目は、額から角を二本生やした黒いポニーだ。
生き物としては、蹄の形状や内臓から馬よりも牛に近いらしいけど、ダンジョンに出現するモンスターにそういう分類をして意味があるのだろうかと思わないでもない。
それよりも、スモールブラックホーンの皮はグローブや靴、マントもしくはコートの素材として狙っていたものだ。
必ず、ここで狩って素材にする。
杖の先端に火の玉を生み出し、スモールブラックホーンの顔面を目がけて放つ。
火の玉が命中したスモールブラックホーンは、突然のことに驚いたのか前足を上げて棹立ちになる。
乗せているゴブリンライダーを振り落としてくれたら良かったんだけど、そう上手くいかない。
ゴブリンライダーは騎乗のスキルの恩恵か、なんとかバランスをとって鞍の上から落ちない。
こちらに気づいたゴブリンライダーたちは、火の玉が命中して驚いている一騎を置いて、二騎で突っ込んでくる。
単純な連携なら前回の上位ゴブリンたちのほうが上かな。
先行する二騎のうち、ボクから遠いほうに火の玉を放つ。
スモールブラックホーンの前足の関節を狙ったんだけど、蹄の少し上に命中した。
一瞬、足をもつれて急激に減速する。
二秒後、さらに、顔面に火の玉を命中させる。
スモールブラックホーンは嫌がるように減速して、ボクへ向かっていた進路が反れる。
足を止めて直線になら、ボクは火の玉を二秒に一発放てるようになっている。
一発でゴブリンを絶殺する火の玉を機関銃のように放てる連中に比べればしょぼいけど、それでもボクの努力の成果で、なにより役立っているから気にすることじゃない。
杖を収納して、デュオサイズを両手で構える。
目前に、騎兵が迫る。
ポニーサイズの騎兵とはいえ、この速度で突っ込んできたら、なかなか迫力がある。
緊張で強張りそうな筋肉を意識して脱力させて、初動に備える。
殺意を持って迫る槍と角をギリギリまで引きつける。
静から動へ、滑るように相手の左側に避けていく。
一閃。
相手の進路上に残したデュオサイズの刃がスモールブラックホーンの首とゴブリンライダーの腰を駆け抜ける。
骨や肉、革鎧の抵抗を感じることなく切断する。
背後で派手に倒れる絶命の音がしたけど、気にしない。
次の殺すべき相手が迫っている。
槍を持たない左側に抜けられるのを警戒しているのか、身を乗り出して槍を突き出しながら、ボクの右側を抜けようとする。
槍をわずかに身を反らして回避。
デュオサイズの石突の近くを握って、一閃。
ゴブリンライダーを左肩から右脇腹へ斜めに切り落とし、後を追うように残りの死肉も鞍から落ちる。
乗り手を失ったスモールブラックホーンが駆け抜けていく。
あれの相手は、後だ。
スモールブラックホーンは確かに速いけど、瞬間的にならシルバーラビットの突進のほうが速いし、対処の仕方も似ている。
シルバーラビットと同じように、引きつけてから避けて、カウンターを叩き込む。
避けるタイミングはスモールブラックホーンのほうがギリギリで難しいけど、近距離でシルバーラビットの速度に慣れて、魔力感知で相手の動きを把握していれば、回避するのはそこまでシビアじゃない。
最後の一騎が迫ってくる。
石突近くを握って、一閃。
スモールブラックホーンの首が落ちて、噴き出す血を全身に浴びながらゴブリンライダーは鞍から落ちて地面に叩きつけられる。
背後からゴブリンライダーを失ったスモールブラックホーンが突進してくる。
振り向き様に、一閃。
首を失ったスモールブラックホーンが血臭を撒き散らしなら崩れる。
デュオサイズを収納して、双魔の剣鉈を左手に装備する。
血塗れになりながら起き上がるゴブリンライダーに向かう。
ゴブリンライダー単体の戦闘能力を確かめたくて、こいつはわざと倒さなかった。
「グギャア」
近づくボクに槍が迫ってくるけど、遅い。
突きそのものは鋭く感じたから、槍のスキル熟練度は低くないのかな。
双魔の剣鉈で槍を弾くと、槍につられるようにゴブリンライダーの体が横にブレる。
右のアダマントコックローチの肘当てで、ゴブリンライダーの頭部を叩き潰す。
うん、ゴブリンより強いけど、ゴブリンファイターより弱い。




