ニート、刺突する
諦める?
ありえない。
ボクのなかは輝かしい黄金の歓喜と無色な渇望に満たされている。
絶望や諦観を抱いている余地なんてない。
この困難の極致の先を見たくて仕方がない。
不思議な感覚だ。
心は冷めているのに、極限まで興奮している。
迫るゴブリンファイターに焦らず、遅滞なく機械のように精確に体を動かす。
双魔の剣鉈を収納、デュオシックルを左手に、空いた右手にデュオスピアを装備する。
刺突。
こちらの攻撃は、真ん中のゴブリンファイターの円楯に防がれて、致命傷にならない。
けど、
「グギュウゥゥゥ」
ゴブリン合金製の円楯の中心にデュオスピアが突き刺さる。
デュオスピアは円楯を貫いてゴブリンファイターの腕も傷つける。
まだ、槍のスキル熟練度が低いから一撃の鋭さは他の武具に劣るけど、ただゴブリン合金製の円楯を刺し貫くだけなら、ボクの身体能力とデュオスピアの性能で十分だ。
ゴブリンファイターの楯に、ボクの武具が通用するのはデュオシックルで切り裂いて証明している。
楯を貫いたことに驚いたのか、傷ついたゴブリンファイターだけじゃなくて、左右のゴブリンファイターの動きもわずかに停滞する。
うん、好機だ。
デュオシックルを一閃。
「グギャアアアアア」
剣を持ったゴブリンファイターの腕が地面に落ちる。
傷ついた仲間をかばうように、左右のゴブリンファイターが剣を振り下ろしてくる。
左はデュオシックルで受けて、右は楯から抜けないデュオスピアを手放し、双魔の剣鉈を装備して受け止める。
同時に、蹴りを右のゴブリンファイターに放つ。
「グギャウ」
右のゴブリンファイターの左足が膝から横に折れ曲がって、崩れる。
仲間を助けることに意識を割きすぎて、今度はボクの蹴りに反応できなかったか。
迎撃。
飛んでくる矢をデュオシックルで叩き落す。
ダメージを受けようが、眼前に敵がいようが、危険なゴブリンハンターとゴブリンメイジは常に魔力感知で最大限警戒しているから、奇襲を受けることはない。
疾走。
手負いの二体と無傷の一体を放置して、後衛の二体を目指す。
多分、無傷のゴブリンファイターは残って傷ついた仲間を守るか、ボクを追いかけるか迷ってしまったんだろう。
無傷のゴブリンファイターの初動が出遅れた。
今のうちに、距離を稼ぐ。
ゴブリンメイジの魔術は面倒だけど、弱点がある。
魔術の制御は上手いけど、構築するのが遅い。
つまり、致命的に連射がきかない。
次の魔術を放つのに、多分、もう少し時間がかかる。
それまでに、護衛のゴブリンファイターを倒して、後衛に迫る。
突進から護衛のゴブリンファイターの首を目がけて、デュオシックルを一閃。
ゴブリンファイターに剣でデュオシックルの柄を押さえられて防がれる。
やっぱり、このゴブリンたちは強い。
工夫のない攻撃で正面から一撃で倒すのは難しい。
ゴブリンハンターがこちらを弓で狙ってくるけど、射線に眼前のゴブリンファイターが重なるように、位置を修正して援護させない。
時間はかけられない。
出遅れたゴブリンファイターが追いついてくるし、ゴブリンメイジの魔術も完成してしまう。
工夫をしよう。
双魔の剣鉈をゴブリンメイジに投げるフリをする。
ゴブリンファイターは楯を構えてかばうように、ゴブリンメイジへの射線を塞ぐ。
一閃。
それでも、デュオシックルを防がれる。
けど、
「グギャアアアァァ」
爪先を踏み潰すボクの攻撃には反応できなかった。
飛んでくる矢をデュオシックルで迎撃しながら、膝を突いて崩れるゴブリンファイターの顔面に膝蹴りを叩き込む。
アダマントコックローチの膝当て越しに、命が砕ける感触を伝えてくる。
ゴブリンメイジの魔術が完成している。
投擲。
迫る火の玉の軌道をなぞるように、宙を翔る双魔の剣鉈がゴブリンメイジの額に突き刺さる。
ゴブリンメイジが仰向けに倒れると同時に、ボクの直前に迫った火の玉も消滅した。
魔術によっては、術者が死んだら、行使した魔術も消えてしまうようだ。
デュオソードを取り出して、右手に装備。
疾走。
迎撃。
迎撃。
迎撃。
一閃。
ゴブリンハンターの首をデュオソードで切り落とす。
首から血を噴き出すゴブリンハンターの死体から、追いついてきたゴブリンファイターに視線を向ける。
一閃。
デュオソードは火花を散らしながら、ゴブリンファイターの楯を切り裂くことなくそらされる。
一閃。
ゴブリンファイターは武器破壊を恐れているのか、デュオシックルの柄を受けようとする。
けど、
「グギゲエアァァ」
その応手には、もう慣れた。
魔力感知で先読みして、受けようとするタイミングでデュオシックルの軌道を強引に変更して、剣を持った手首を切り落とした。
鎌のスキル熟練度が高いからできることだ。
まだ、デュオソードだと剣のスキル熟練度が低いから、ここまで自在には動かせない。
「グガアアア」
血を撒き散らしながら、ゴブリンファイターが楯を構えて突っ込んでくる。
腕と武器を失いながら、それでも闘志を消さないのは凄い。
けど、動きが雑だ。
一閃。
デュオソードでゴブリンファイターの両足を切断する。
「グギャガアア」
うつ伏せに倒れて、打ち上げられた魚のように暴れるゴブリンファイターに、デュオソードを突き立てて沈黙させる。
後、手負いが二体。
うん?
楯と腕を貫いて抜けないデュオスピアを地面に引きずりながら、ゴブリンファイターが近づいてくる。
自分の腕の断面から溢れ出て生まれた血溜まりをフラフラな足取りで踏み越えてやってくる。
その様は正しく鬼神のようだ。
出血多量で意識は朦朧。
このゴブリンファイターが生き残る可能性はない。
ボクが手を下さなくても、早々に死ぬ。
絶望の可能性しかないのに、このゴブリンファイターの心は折れていない。
絶望の壁に心を折られて、諦観の沼に沈み続けた経験にあるボクからしたら、感動せずにはいられない。
尊敬すら抱いている。
戦術的に言えば、もう一体とボクが来るの待っていた方が勝率はあったんだろうけど。
死に体寸前のその身を戦う意志のみで前進させている。
こちらも全身全霊で相手になろう。
デュオソードを収納して、デュオシックルを右手に装備。
「グギィイイイィ」
手負いのゴブリンファイターが、角を突き出すように突進してくる。
デュオシックルの刃が角の先端と交差して、次の瞬間には股下まで両断していた。
静かに息を吐いて、刺さったままのデュオスピアを収納する。
ゆっくりと足の折れたゴブリンファイターに近づく。
「グギャ」
一閃。
突き出した剣を避けて、その腕をデュオシックルで切り落とす。
一閃。
最後のゴブリンファイターの首が落ちる。
上位ゴブリン六体の群れが、ボクの手で全滅した。




