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ニートはダンジョンに居場所を求める  作者: アーマナイト
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ニート、武具を確認する

 右手の赤い短槍でゴブリンの頭を刺し貫き、左手の黒い片手剣で相手の構えた剣ごとゴブリンの胴体を両断する。

 短槍に深く突き刺さったゴブリンの死体を、前蹴りで吹っ飛ばすようにして外す。

 石突の近くを握ってなぎ払うように短槍を振るうと、三体のゴブリンの上半身が下半身から崩れ落ちる。

 最後の一体のゴブリンが反撃することを許さず、片手剣で刺殺する。

 切先は抵抗なく胸部を突き抜けて貫通してしまい、ゴブリンの死体がボクの腕に倒れてくる。

 剣を上方向に振るい、ゴブリンの上半身を左右に分ける。


「突きは簡単に深く刺さるから、ダメだな」


 まあ、ゴブリン相手に武具の性能が過剰なだけかもしれないけど。

 赤い短槍デュオスピア、黒い片手剣デュオソード。

 納品する武具を作るための練習として作った自分用の武具だけど、性能が劣っているわけじゃない。

 ボクの体格に最適化されているし、命中すればホブゴブリンにだって致命傷を与えられる。

 三日かけて納品する武具が完成したから、さっそくゴブリンで性能を試してみた。

 店員に説明するためにも、作った物の使い勝手は知っていた方がいいだろうし、個人的にもこれらの武具が実戦でどんな感じなのか知りたかった。

 デュオスピアは柄もゴブリン鋼だから、超硬合金製の短槍よりも少しだけ重いけど、片手で十分に振り回せる重さだ。

 強度も切れ味も超硬合金製よりも段違いに高いから、ゴブリン相手なら骨や武器に命中しても壊れたりする心配はまるでない。

 他の武具と違ってこのデュオスピアだけ、ダンジョン鉄じゃなくてゴブリン鋼でコーティングしたのは、とくに深い意味はなくて赤い槍というのが中二心に刺さっただけだ。

 デュオソードは片手剣として標準的なサイズだけど、見た目よりも軽い。

 ただ、軽い分扱いやすいけど、重い一撃は放てない。

 多分、ホブゴブリンクラスまでなら問題ないけど、それ以上に頑丈な相手だと厳しいかもしれない。

 まあ、強いモンスターでもシルバーラビットみたいな速くて防御力の低いのもいるから、そこまで致命的な問題じゃないかな。

 作る槍と剣を短槍と片手剣にしたのは、ボクの個人的な趣味じゃない。

 探索者には長槍や大剣の使い手もいるけど、同じくらい短槍と片手剣の使い手もいる。

 片手に楯を装備する探索者はけっこういるから、片手で使える武具の需要は十分ある。

 それに長槍や大剣のような長い武具は、狭い洞窟のようなダンジョンだと使いこなすのが難しいらしい。

 なので、より汎用性の高そうな短槍と片手剣を作ることにした。

 長槍や大剣も店員から注文があったら、次回の納品のときに用意すればいい。

 デュオスピアとデュオソードの使い心地もわかってきたから、コンテナブレスレットに収納して、双魔の太刀を装備する。

 ……少し失敗したかな。

 刀を差す帯かベルトを用意すればよかった。

 ポーションベルトを少し緩めれば、双魔の太刀を腰に帯びることは可能だけど、それだけだ。

 微妙に窮屈で、居合いの姿勢はとれない。

 ポーションベルトを潰す覚悟で無理すれば可能だし、壊れても錬金術と革加工で修理できるけど、居合いのためにそこまでする情熱はない。

 仕方がない、納刀したままの双魔の太刀を左手に持って、居合いをしよう。

 軽く動きを確認するように、刀のスキルを意識しながら、抜刀と納刀を何度か繰り返す。

 違和感を感じたら、少しずつ動きを修正して滑らかにしていく。

 うん、なんとなく抜刀する感覚はわかってきたから、次はゴブリンで試す。

 索敵で発見したゴブリン六体の群れの前に、堂々と立って見様見真似で居合いの構えを取る。

 ジリジリと少しずつゴブリンとの間合いを詰める。

 胸のなかにガラスの緊張が構築されていく。

 ゴブリンに負けることはないけど、未熟な居合いが命中するかわからない。

 ゴブリンを観客に盛大に空振りをする道化になりたくもない。

 どのゴブリンが一番に近づいてくるか警戒しつつ、位置を調整する。

 突進しながら居合いができれば、もっと簡単に攻められるんだけど、もちろんボクにそんな技術はない。

 となると、攻撃してきたゴブリンが間合いに入ってきたところを居合いで迎撃するしかない。

 うーん、受身で少し焦れったい。


「グギャ」


 声を上げながら大振りで突撃してくるゴブリンに、体の向きを微調整する。

 抜刀。

 ゴブリンの上半身が滑り落ちて、下半身が数歩足を動かして崩れる。


「クソ」


 緊張で力みすぎたのか、刀の勢いに引きずられて、わずかに姿勢がブレる。

 後ろに飛んで間合いを取りながら、鞘をコンテナブレスレットに収納。

 姿勢を立て直して、双魔の太刀を正眼に構える。

 意識を居合いモードから通常の狩りのモードにシフトする。

 ゴブリンが二体並んで前進してくる。

 双魔の太刀を横に一閃。

 ゴブリンの首が二つ後ろに落ちる。

 残り三体。

 突進からゴブリンの胴に、わざと双魔の太刀を叩き斬るように振るう。

 両断できたけど、微妙にゴブリンの皮が刃に引っかかる感触があった。

 うーん、やっぱり引くように斬らないと、刀の切れ味を完全には引き出せないか。

 残り二体。

 なるべく脱力して力まないようにして、ゴブリンの脳天から股下へ双魔の太刀を振り下ろす。

 ゴブリンが左右に割れて崩れる。

 残り一体。

 ゴブリンの喉に双魔の太刀を突き刺す。

 ゴブリンがもがくように痙攣しながら落命する。

 もう少し双魔の太刀の感覚を確認したいから続けて、いくつかのゴブリンの群れを潰す。

 双魔の太刀とデュオソードの二刀流などを試してみたけど、悪くない。

 双魔の太刀は間合いもあるし、特有のクセもなくて素直で扱いやすい。

 でも、居合いはイメージよりも難しくて、少し窮屈な感じがした。

 当たり前だけど、居合いはお手軽な必殺技にならないみたいだ。

 うーん、ほんの少しだけ期待してたんだけどね。

 居合いは刀のスキルだけだと補正しきれない感じだった。

 居合いか、抜刀みたいなスキルでもあればいいんだけど、生憎とボクはそんなスキルの存在を知らない。

 居合いを使いこなすなら、地道に練習するしかない。

 暇なときに、趣味でやるにはいいかもしれない。

 でも、双魔の太刀は本当にクセがない。

 クセがないから、少し面白味も感じられない。

 鎌を知らずに、刀のトレーニングウェポンに出会っていたら、刀で探索をしたかもしれないけど、ボクが手にしたのはギロチンシックル、鎌だ。

 ボクには非効率でも、クセが強くて外連味溢れる鎌が合ってる。

 まあ、居合いは上手くなりたいから、時々練習するけど。

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