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ニートはダンジョンに居場所を求める  作者: アーマナイト
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ニート、武具を作る

「ああ、惰眠を貪りたい」


 全身を優しく包むモフモフが底なし沼のように怠惰な眠りへと誘惑してくる。

 昨日、狩りまくったシルバーラビットの毛皮で作った寝具が快適過ぎる。

 普段、寝起きは悪くないんだけど、いまは永遠にまどろんでいたくなる。

 優しい堕落に負けないように決死の覚悟で起き上がり、モフモフの誘惑を振り切る。

 用意をすませて、新しいルーティーンとなってきた第一層のホブゴブリンと第二層のシルバーラビットとシャドーバットの狩りを開始する。

 ホブゴブリンへの背後からの奇襲は成功して一瞬で終わることもあれば、気づかれて普通の戦闘になることもある。

 奇襲の成功率は五割前後で、まだそれほど高くない。

 奇襲の訓練にもなるし、相手に気づかれてからの対応も焦ることなく柔軟になってきたから、なかなか身になる狩りだ。

 ホブゴブリンが再出現するまでのシルバーラビットとシャドーバットの狩りも、目の前の相手に集中しながら周囲を警戒できるようになってきた。

 昨日の成長を確認しつつも、今日は一つ一つの精度をより上げていくように心がける。

 結局、今日の狩りは数回、試行錯誤の結果で攻撃を受けたけど、油断による被弾はなかった。

 狩りで興奮している精神を落ち着けて、ゆっくりと生産モードにシフトしていく。

 これから作るのは、店員に納品する武具だ。

 店員は特に、槍とか刀とか武具の形状を指定してこなかったけど、だからといってマイナーな鎌を渡されても困るだろう。

 探索者に需要があるのは槍と刀と剣だ。

 ハンマーと斧も一定数いるけど、上位三つほどじゃない。

 なら、ボクが作るのは槍と刀と剣だ。

 コンテナブレスレットを渡すぐらいこちらを信用してくれたんだから、こちらも武具の生産に手を抜くわけにはいかない。


「スキルウインドウ」


『隠行二一 鑑定 索敵二三 解体二〇 暗視二〇 魔力感知三二 鎌二四 魔力操作二八 魔力循環二八 錬金術二六 鍛冶二二 革加工一三 遠見一八 魔力増強一六 体力増強一〇 清浄 体術一四 精神異常耐性一 状態異常耐性一 短剣一六 槍一 刀一 剣一 スキルポイント六五』


 生産のために槍と刀と剣のスキルを獲得してしまったけど、後悔はない。

 それらのスキルがなくても錬金術と鍛冶のスキルだけでも、武具を作ることはできなくもない。

 けど、性能で言えば多分、数段劣る。

 ゴブリン鋼とコボルト鋼を成形して刀の形状にはできるけど、反りや刃や金属の配置も最適からはほど遠いものになる。

 個人的な意地だけど、中途半端な物は作りたくない。

 今日は刀を作っていく。

 木工のスキルを獲得して、柄をダンジョンウォルナットで作ろうかと少しだけ思ったけど、双魔の剣鉈の柄がゴブリン鋼のままで問題ないから、今回は刀もゴブリン鋼の柄でいく。

 一本目は練習もかねて自分用の刀を作る。

 まあ、メインウェポンは鎌で、刀は趣味で使うだけになると思うけど。

 鑑定と刀のスキルに問いかけ、最適解を幻視する。

 自身の骨格を考慮して、反りと長さを調整する。

 到達すべき完成形を脳裏に焼き付けて、逆算するように素材をそこに押し上げる。

 昨日、分離したホブゴブリンのゴブリン鋼を芯鉄と柄と鍔に、コボルト鋼を刃鉄に、ホブゴブリンのゴブリン鋼とコボルト鋼の合金を皮鉄と棟鉄に配置する。

 合金の微細な比率の調整が、滑らかに進んでいく。

 鍛冶のスキルが、いつもより繊細に起動して工程を制御している気がする。

 熟練度が上がったからか、そう感じているのだろうか。

 掲げた幻想に、寸分の狂いもなく現実を一致させる。

 自分用だから、柄と鍔に中二心の溢れるエングレービングを施す。

 仕上げに刃先以外をホブゴブリンのダンジョン鉄でコーティングする。

 いつもなら、これで完成だけど、刀なら居合いのためにも鞘が必要だろう。

 ゴブリン鋼を手に、作った刀に最適な鞘を加工していく。

 鮮やかな赤一色で鞘単体なら悪くないけど、黒い柄や鍔と配色のバランスが悪いので、ダンジョン鉄でコーティングする。

 ゆっくりと刀を鞘に納刀する。

 引っかかることも、詰まることもなく、滑らかに、淀みなく刀は鞘に納まる。


『双魔の太刀』


 これは刀じゃなくて、太刀に分類されるのか。

 刀身の長さかな?

 まあ、いいけど。

 これで基準となる刀ができた。

 ボクの身長が男性の平均よりほんの少し小さいことを考慮して、刀身を少し長めにするか。

 斬る対象をオーク以上に想定して、やや肉厚にして幅広にする。

 反りはこのままでいいかな。

 直刀がいいなら、片刃の剣でも使えばいい。

 いまの魔力量で、後二本はいける。

 到達地点を修正して、より無心で工程をこなして、さっきの刀を参照にしながら、差異を意識して細部を的確に修正していく。

 柄に施す滑り止めのエングレービングも、無機質で実用的なものにする。

 鞘に納めて、完成。


『双魔の剛刀』


 名前がさっきと変わった。

 まあ、印象も少し無骨になったから、剛刀という名前も変じゃない。

 納品用の刀の一本目はサンプルとして、あえて刀も鞘もコーティングしない。

 個人的にこの配色はダサいと思うけど、世間だと違うかもしれない。

 だから、刀身が微妙なグラデーションのまま納品する。

 二本目の双魔の剛刀は、工程に慣れてきたからより短時間でスムーズに完成した。

 短時間で作ったからと言って、完成品の品質は欠片も落ちていない。

 二本目の双魔の剛刀は刀も鞘もダンジョン鉄でコーティングした。

 ダンジョン鉄でコーティングした場合のサンプルだ。

 サンプルとしてゴブリン鋼とコボルト鋼でコーティングしたバリエーションも用意する。

 まあ、カラーバリエーションはゴブリン鋼とコボルト鋼の合金による紫系のコーティングをすればさらに増えるけど、そこまでサービスしようとは思わない。

 コーティングは錆止めの意味もない、ただの装飾だ。

 元々、ダンジョン産の金属は錆びないから、錆止めの意味がないのは当然か。

 自分の装備にもしている工程だから、納品する武具にも望まれればするけど、それ以上はしない。

 コーティングで性能は変化しない。

 けど、命を預けるものだから、外観を気にするのもわかる。

 だから、コーティングくらいはする。

 でも、それ以上を望むなら、芸術家でもないボクじゃなくて、他の才能ある者に頼った方が建設的だ。

 まあ、納品前に、こんな杞憂になりそうなことを考えても仕方ない。

 無駄に悪い予感を想定して、怯えるのはボクの悪いクセだ。

 余計思考を断ち切るように、残った魔力を使い切るようにホブゴブリンの武器からゴブリン鋼を分離していく。

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