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ニートはダンジョンに居場所を求める  作者: アーマナイト


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ニート、舞う

 後悔先に立たず。

 ボクの人生にはよくあることだ。

 その選択をしなければよかった。

 あるいは、その選択をすればよかったと、無益に思い悩む。

 だから、ボクのなかで粘りつくような鉛色の叫びを発している後悔が、現在進行形で自己主張しているのも、珍しいことじゃない。

 まあ、だからといって、このゴブリンとコボルトの濁流に疲弊させられている現状が改善されるわけじゃない。

 今日、最初はデュオシックルを右手に、双魔の剣鉈を左手に装備して、鎌と短剣と体術のスキルの効率的な運用を習得するために、ゴブリンを順調に虐殺していたんだけど、少し慣れてきたから気分転換をかねてコボルト狩りに変更しようと思ってしまった。

 いや、狩りの対象がゴブリンからコボルトに変更しただけなら問題なかった。

 けど、ゴブリンの領域から一度ダンジョンの入口付近を経由してコボルトの領域へ行くいつものルートじゃなくて、第一層中央のゴブリンとコボルトの戦場を横断するように、ショートカットしてコボルトの領域に行こうと思ってしまった。

 いまのボクなら、多少通常よりも強くてもゴブリンとコボルト程度なら余裕だろうと考えてしまった。

 まあ、実際、強敵と呼べるようなゴブリンとコボルトもいなかったから間違いというわけじゃないけど、数がこちらの想定を軽く超えてきた。

 これまで遭遇してきたモンスターの群れは多くても一〇体前後。

 それも複数の群れが襲ってくることはなかった。

 けど、中央の戦場は少なくとも三〇体以上の群れが複数で襲ってくる。

 まるで、ゴブリンやコボルトと無限に戦うラッシュアワーのようだ。

 …………嫌なラッシュアワーだ。

 その嫌な状況に自分がいると思うと、気分が枯れるように沈んでいく。

 殺しても、殺しても、殺しても、殺しても、殺しても途切れない。

 濃霧を幻視してしまうような強烈な死臭が滞留してまとわりついてくる。

 解体?

 そんな余分なことをしている時間もスペースもない。

 前蹴りで強引に押しのけるように間合いをつくって、デュオシックルを振るう。

 数体まとめて両断して、崩れる死体を押しのけるように足を進める。

 双魔の剣鉈で迫る武器を腕ごと切り落として、蹴りで跳ね返す。

 調査員の情報が本当なら、ゴブリンかコボルトの領域に到達したら、遭遇の仕方も通常に戻るらしいけど、後どれだけかかるかわからない。

 距離としては、もうコボルトの領域手前まできている気がするけど、襲ってくるコボルトはまったく減らない。

 まあ、ゴブリンは出現しなくなってきたけど、それを補うように多数のコボルトが出現する。

 ゴブリンの領域から中央の戦場に足を踏み入れて、すぐに変だと思ったけど、引き返さないで前進することを選んでしまった。

 結果、このざまだ。

 索敵で死角と追加される戦力を常に把握して、魔力感知で周囲のコボルトの動きを捕捉する。

 状況に合わせて、鎌と短剣と体術のスキルを選択して対応する。

 それでも、対処できない攻撃はアダマントコックローチの防具で受ける。

 まだ、ぎこちないところはあるけど、ボクの戦い方の理想形の雛形ができつつある。

 これだけ濃密な戦闘を途切れることなく続けていれば、わずかでも成長するのは当然かもしれない。

 中央の戦場にいるゴブリンとコボルトは、時々工夫してくるから格下だと思って気を抜くことができない。

 土や石を投げてくる。

 死体のフリをする。

 味方を楯にする。

 などなど、それぞれの領域だとしないようなことしてくる。

 どれも、そこまで凄い手段じゃないけど、乱戦でやられると凄いウザい。

 距離があるからと油断していると石が飛んできて、死体だと思ったら足元から攻撃される。

 目の前の一体を楯にして、死角から二体目が襲ってくる。

 何度も、そういう目に合って、状況に対処するために強制的に試行錯誤をしていたら、徐々に戦い方が形になってきた。

 怪我の功名じゃないけど忙しくて余裕がないから、焦燥に追いつめられるよりも早く無心で機械のように状況に対処して、後悔から自己嫌悪に浸るよりも一歩でも前進することに専心した。

 デュオシックルを横に一閃。

 数体のコボルトをなぎ払って、二つの肉塊に切り分けていく。

 アダマントコックローチの膝当てを繰り出して、コボルトの頭蓋を粉砕して後方に吹き飛ばす。

 双魔の剣鉈を切り上げて、コボルトの開きを作る。

 遅滞なく蹂躙していく。

 コボルトを観客、あるいはダンスパートナーに即興で殺しの舞を披露する。

 索敵で全周囲を余すことなく把握して、

 魔力感知で次の一手を確認して、

 鎌と短剣と体術のスキルから最適な応手を瞬時に選択する。

 流れるように、

 止まることなく、

 蹂躙して、

 虐殺して、

 殲滅して、

 血と臓物の喝采を浴びて、

 フィナーレへ到った。

 戦場を横断して、ようやくコボルトの領域に到着する。

 愚行と浅慮の果ての殺戮劇だったけれど、どうしょうもないくらい満たされている。

 蛇足のように。

 あるいはノイズのように、コボルトの領域からセーフエリアへ戻るまでに何度か普通にコボルトと交戦した。

 清浄のスキルでこびりついた返り血を綺麗に落として、精神状態を生産モードに移行する。

 淡々と作業をしながら思う。

 あれだけゴブリンやコボルトを倒したのにレベルアップしない事実を、高レベルに成長していると喜ぶべきか、あるいは徒労であったと嘆くべきか、いつもなら悩みそうだけど、そんな矮小な悩みはボクのなかに存在しない。

 後悔を呼び水に、自己嫌悪で心を空費しそうだけど、それすらない。

 いままでのボクは、押されたボタンに反応してスキルを使うゲームキャラのようで、デフォルトのボクよりも強いけれど、いくつかのモーションをスキルに従ってなぞっていただけだ。

 でも、今日、スキルの動きとボク自身が噛み合ってきた。

 完全に鎌や短剣や体術のスキルを使いこなせるとは言えないけど、コツはわかってきた。

 自分という存在が、次のステージに成長するのだと実感できる。

 スキル熟練度のように数字にならないから明瞭じゃないけど、だからこそ自分自身の行動で成長できたと思えるから嬉しい。

 ボクがスキル熟練度やレベルアップ以外で、成長する余地があるんだって思い出せた。

 失敗と挫折なら捨てるほど溢れているけど、成長した事実なんてあまり経験がないから、ただ嬉しい。

 スキルの補正に振り回されるんじゃなくて、補正に逆らうことなくスキルを適切に使いこなす。

 その成長を積み重ねれば、オークのような存在にも挑めるようになるはずだ。

 だから、いまのボクに自己嫌悪に浸る余地なんてない。

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