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ニートはダンジョンに居場所を求める  作者: アーマナイト
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ニート、ゴキを装備する

「これは金属じゃないし、皮なのだろうか?」


 ダンジョン第二層のセーフエリアで、購入したアダマントコックローチの甲殻の束を前に思案する。

 皮をなめして革にする工程が必要ないのはわかる。まあ、皮じゃなくて甲殻だし。

 でも、これ皮っぽくないんだよな。

 むしろ、見た目は金属っぽい。

 まあ、錬金術と鍛冶で反応がなければ、錬金術と革加工に切りかえれば良い。それでも、加工できなかったら、できなかったら……そのとき考えよう。

 錬金術と鍛冶のスキルを起動、ゆっくりと魔力を馴染ませるように浸透させ……させ、られない。手応えとして、イメージの問題で浸透しないんじゃなくて、甲殻の加工は鍛冶のスキルの領分じゃない気がする。

 続いて、錬金術と革加工のスキルを起動、うん、今度は魔力が浸透していく。甲殻は金属よりも魔力が浸透しやすいけど、皮よりも抵抗するというか、密度が高くて魔力が多く必要な感じがする。

 甲殻は皮なのだろうかと疑問に思うけど、甲殻も節足動物の外皮と言えなくもないのか?

 まあ、とりあえずは甲殻の加工に集中。鑑定で導き出した防具に最適な密度と厚さに均一に整えて、整えて、整える。

 鑑定で自分の体の形状と可動域を算出して、甲殻を加工して、加工して、加工する。甲殻は金属と違って柔らかいのに、強情で素直に加工されてくれないので、細部が反発して最終調整に手間がかかる。

 六時間かけて、アダマントコックローチの甲殻製の胸当てだけじゃなくて、籠手と肘当て、脛当てと膝当ても完成させた。

 後は、スライムゴムをダンジョン鉄と魔導具の燃料として売らなかった魔石で、衝撃吸収の素材として最適なものに調整して、加工したアダマントコックローチの甲殻に、はり合わせればいい。

 ダンジョン鉄の在庫が数キロしかないけど、多分、足りるはずだ。

 いまさらだけど、皮でも金属でもないスライムゴムは、錬金術で加工できるのだろうか?

 ……ゆっくり、魔力をスライムゴムに浸透させると、まるで抵抗がない。皮よりも浸透させやすいというか、錬金術のスキルが素直にスライムゴムを制御する。金属や皮じゃなくて、こういう素材が錬金術で加工する正道なのかもしれない。

 魔力が浸透したブヨブヨした赤黒いスライムゴムを、スライムのように動かしてダンジョン鉄と魔石を吸収するように取り込む。少しずつ、少しずつ均一に取り込んで、スライムゴムを適正な弾力に修正する。

 ブヨブヨで赤黒かったスライムゴムが、適度に弾力のある黒いスライムゴムに変化した。

 適切な厚さと形状に加工して、アダマントコックローチの甲殻製の防具にはり合わせていく。

 初めて加工したけど、スライムゴムは皮よりも扱いやすい。

 スライムゴムの加工を開始して二時間で、全工程を完了させた。

 青黒い色気すら感じさせる艶の光沢の防具。その色の根源がゴキブリじゃなければ、素直に感動できるのに、微妙な気分になる。

 さっそく、装備してみるとポリカーボネイト並に軽くて、だけどしっかりと守られているような安心感をなんとなく抱く。

 だけど、これ……アダマントコックローチ、いや……ゴキブリなんだよな。

 若干オモチャみたいなポリカーボネイトよりもベテラン探索者っぽい見た目で格好良いし、実地はまだだけど性能も悪くないはずで、そこまで嫌悪感はないけど、やっぱり少しだけモヤっとする。

 まあ、しばらく装備していれば愛着もわいて、微妙な気持ちもなくなるだろう。

 続いて、ホブゴブリンのゴブリン合金製の大剣をゴブリン鋼とダンジョン鉄に分離する。

 うん、分離してわかったことがある。

 ゴブリン鋼の含有率が、二割前後のノーマルゴブリンの武器と違って、六割前後もあって、しかもそれなりに強化されていた。その強化は若干だけど、数日使用して強化したデュオシックルよりも上だった。

 ありえないけど、ホブゴブリンの大剣がゴブリン合金じゃなくてゴブリン鋼だったら、あそこまでデュオシックルの刃をめり込ませることもできなかったかもしれない。

 このゴブリン鋼をどうするか。

 案一、デュオシックルにホブゴブリンのゴブリン鋼を使って作り直す。

 でも、デュオシックルはあと数日使えばホブゴブリンのゴブリン鋼よりも強化される。わざわざ、作り直す必然があるとは思わない。

 案二、第二層で通用しなくなってきた名工の剣鉈の代わりの剣鉈を作る。

 シルバーラビットやホブゴブリンの解体に使えるし、いざというときのためのサイドアームを強くするのは悪くない。

 案三、買取店に売る武具を作る。

 …………ないな。

 ホブゴブリンのゴブリン鋼を利用するとしても、安定して入手できるようになってからでも遅くない。

 うん、剣鉈だな。

 でも、剣鉈の柄をどうしよう。

 愛用の剣鉈は刀身が木製の柄におさまっていて、滑り止めに蛇皮が巻かれている。

 木工のスキルを獲得して、ゴブリンやコボルトの槍の柄に使われているダンジョンウォルナットを加工して、シルバーラビットの革を巻くのが無難だけど、柄をゴブリン鋼で成形して、デュオシックルのような滑り止めをかねたエングレービングを施すという選択肢もある。

 デュオシックルとの統一感もあるし、柄もゴブリン鋼で作るか。

 このまま剣鉈を作ることもできるけど、


『スキルポイントを五消費して、短剣のスキルを獲得しました』


 多分、短剣のスキルがあったほうが作る剣鉈の品質が良くなるので、短剣のスキルを獲得した。

 これはスキルポイントの浪費じゃない。戦闘でも活用できるし、解体でももっとうまく剣鉈を使えるようになるから断じて浪費じゃない。

 鉈なら斧にカテゴライズされそうだから、剣鉈も斧のスキルで作るべきなんじゃないかと思わないでもないけど、目の前の愛用の剣鉈は斧より短剣というイメージだから、多分、問題ない。

 ホブゴブリンのゴブリン鋼と残っているコボルト鋼を手にして、息を深くして切れ掛かった集中力を高めて、生産モードに入っていた意識をさらに目の前のことに埋没させる。

 形状は愛用の剣鉈を参照する。

 ホブゴブリンのゴブリン鋼を芯鉄と柄に、コボルト鋼を刃鉄に、ホブゴブリンのゴブリン鋼とコボルト鋼の合金を皮鉄と棟鉄に配置する。

 ゴブリン鋼とコボルト鋼という金属の塊を脳裏に想定した剣鉈に、鑑定と解体と短剣のスキルで牽引して、錬金術と鍛冶のスキルで押し込む。厚さ、形状、比率、細部の細部まで鑑定に解を算出させて、修正して、修正して、修正する。通常のゴブリン鋼よりも抵抗して自己主張をするホブゴブリンのゴブリン鋼を多量の魔力で、お前は剣鉈なのだと調教するように押さえつけて、暴れる力の奔流を一つの現象に昇華させる。


『双魔の剣鉈』


 デュオナイフじゃないのかと思ったけど、それよりも鮮やかな赤と濃紺のグラデーションの配色は剣鉈でもダサかった。

 中二テイストを弱めて実用性に主眼を置いたエングレービングは、質実剛健ないい仕上がりだった。なのに、この配色だと、頭の悪いキワモノキャラが使う猛毒ナイフにしか見えない。

 すぐにでも、ダンジョン鉄でコーティングしたいけど、それは明日する。

 予想以上に魔力を多く消費しすぎて、魔力切れだ。

 欠片の魔力も残っていない。

 若干、不満はあるけど、今日の作業はこれで終了。

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