ニート、二重奏を響かせる
目覚めたら、魔力が二割増えていた。
ダンジョンで魔力切れになって、ダンジョンで寝て回復すると、増える魔力量が加算されるのかもしれない。
まあ、当分、魔力の増加にかんして検証が必要だな。
食事をしたら、エアガンとギロチンシックルを手にゴブリン狩りをしに行く。
数時間ぐらいでセーフエリアに戻って小休止を入れて、エアガンをスプレーガンに持ちかえて、今度はコボルト狩りに行く。
空腹と疲労を感じたら、無理をせずにそこで狩りは終了。
食事をしながらスキルを確認する。
「スキルウインドウ」
『隠行八 鑑定 索敵八 解体六 暗視八 魔力感知一二 鎌一〇 魔力操作一二 魔力循環一二 錬金術八 鍛冶五 革加工一 遠見二 魔力増強二 体力増強二 スキルポイント二五』
遠見のスキルは索敵のスキルよりも有効距離が長いから奇襲できる可能性が上がって、奇襲される可能性が下がった。
魔力の出力と総量を底上げしてくれる魔力増強のスキルは、ゴブリン鋼とコボルト鋼を分離するために取得したけど、予想外に魔力循環が強化されて狩りがよりスムーズになった。
身体能力と持久力を強化する体力増強のスキルは、思ったほどの強化率じゃなかったけど、熟練度が上がればもっと強力になるはずだ。
心と体をクールダウンして、心身を狩りモードから生産モードにシフトする。
スキル熟練度の成長の恩恵か、魔力を浸透させてゴブリン鋼を分離するのに、かかった時間は三時間。消費した魔力もかなり少量ですんだ。
休憩を取りながら作業をして、魔力切れになって寝るまでに、ゴブリン鋼を三つ、コボルト鋼を三つ分離した。
起きて、確認してみると、やはり魔力が二割増えている。増加する条件はダンジョンで魔力切れになって、ダンジョンで回復することで確定かな?
もう少し、検証回数を増やしたほうが確実か。
まあ、趣味でしている検証だから、急ぐ必要はないな。
食事をしてルーティーンのように前日と同じように狩りをして、生産の時間に移行する。
これからいよいよ、ゴブリン鋼とコボルト鋼を素材にギロチンシックルのような片手用の鎌を作る。
鑑定の回答によれば、ゴブリン鋼とコボルト鋼の素材にダンジョン鉄を入れると性能が低下するようなので、ボクの鎌にダンジョン鉄は使わない。
ダンジョン鉄は余裕があるときに、インゴットにして買取所で買い取ってもらおう。
集めたゴブリン鋼とコボルト鋼を手にしながら、ギロチンシックルのようなシルエットを脳裏にイメージして、鑑定と鎌のスキルを起動して片手で使う最適の鎌を想定して、錬金術と鍛冶のスキルを起動する。
刀の四方詰めのように、粘りのあるゴブリン鋼を芯鉄と柄に、硬いコボルト鋼を刃鉄に、ゴブリン鋼とコボルト鋼の合金を比率を変えて皮鉄と棟鉄に配置する。
手にしている素材を想定した形状に調整して修正する。合金の比率は微細なレベルでグラデーションのように調整して、鑑定の最適解を参照に修正して、修正して、修正する。一切の妥協をせず、細部の細部まで挑んで、想像の限界を超えて究極の一つを顕現させる。
『デュオシックル』
一〇時間以上集中して挑んだ作業の結晶。
デュオ…………ゴブリンとコボルトの二重奏という意味だろうか。
刃は肉厚になったけど、大きさや形状はギロチンシックルとほぼ同じで、重量が若干軽くなっている。十全に気を使った滑り止めをかねた禍々しい中二なエングレービングの装飾は、性能に影響の出ない範囲でギロチンシックルの意匠を残しつつも、ボクのオリジナリティも出してみた。
魔導ランタンの明かりにデュオシックルをかざしてみると、想定外の問題が表出した。
…………ダサい。
致命的なまでに、ダサい。
気合の入れた装飾のエングレービングは問題ない。
ただ、配色がダサかった。
赤い柄に、濃紺の刃先から青紫から紫を経て、峰で赤紫になる刃が付いている。
性能的には最適解だけど、配色がサイケデリックに毒々しくてダサい。
どうするか。
このデュオシックル、性能としては問題ない。ギロチンシックルだけじゃなくて、ゴブリン合金やコボルト合金の武具の性能を圧倒的に追い抜いている。
でも、ダサい。
暗いダンジョン内でなら、形状はダサくないから、問題ないといえばない。けど、心情的に配色のダサい武具に命は預けたくない。
でも、ダサい配色を気にして、妥協するように他の素材で鎌を作って使うというのも違う気がする。
近くに置いていたダンジョン鉄を手にする。
「そういえばメッキか塗装で刀身が黒くなっていたマチェットを見たことがあるような気がする」
それにならって、錬金術を使ってデュオシックルを、ダンジョン鉄で薄くコーティングしてみるのはどうだろう。
魔力を浸透させたダンジョン鉄をデュオシックルに近づけて、刃先以外を薄く覆うようにのばしていく。
ダンジョン鉄はゴブリン鋼やコボルト鋼に比べて扱いやすかったけど、それでもメッキ並に薄くて、かつ均一に引きのばすのは難しくて、デュオシックルをコーティングするのに二時間近くかかってしまった。
ランタンの光にコーティングしたデュオシックルをかざしてみる。全体が光沢のないマットブラック、刃先のみコボルト鋼そのままの海のような深みのある濃紺。中二っぽい精緻なエングレービングはデュオシックルがマットブラックになったことで、ギロチンシックルよりも死神のような禍々しさがアップしている。
すぐにでも、デュオシックルの試し斬りに行きたいところだけど、デュオシックルを作ってコーティングするのに魔力を使い切っていて、精神的な疲労も限界だ。
今は、とりあえず、寝袋に入って寝る。




