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ニートはダンジョンに居場所を求める  作者: アーマナイト
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ニート、犬を躾ける

 次の日、新しくヘルメットに取り付けた透明なポリカーボネイトのフェイスガードの視野を確かめて、魔力循環と鎌スキルとギロチンシックルの実戦での使い心地を確認するために、午前中はジャイアントラットやジャイアントバットと戦いつつも、ゴブリンをメインにひたすら狩りをおこなった。

 その結果。


「スキルウインドウ」


『隠行五 鑑定 索敵四 解体三 暗視四 魔力感知四 鎌四 魔力操作四 魔力循環三 錬金術一 鍛冶一 革加工一 スキルポイント〇』


 という感じに成長している。

 訓練じゃない、実戦を通して新しく獲得したスキルを確認してみると、魔力循環は身体能力を劇的に上げるとか、傷を瞬時に治すとか、わかりやすい効果じゃないけど、身体能力が微強化されて動きがスムーズになって、体力の微回復により持久力が上がって、結果的に継戦能力が上がっている。

 一方、鎌のスキルは訓練との差異はあまりなかった。

 草刈鎌ですら数えるほどしか触れたことがないのに、まるで達人のように速く鋭い一撃を振るうことができる。

 でも、気をつけないといけないのが、鎌の振りは達人並みかもしれないけど、戦いは素人なので、フェイントや牽制を織り交ぜた戦いの流れを組み立てたり、間合いの駆け引きはできない。

 だから、自分の分際を理解しないで、強くなったと勘違いすると、自滅することになる。

 ギロチンシックルは首に命中してギロチンストライクが発動すると凶悪だけど、胴体に命中させても致命傷にならないことがあるので、店員の指摘通り鎌としての攻撃力には注意しないといけない。

 昼食のカロリーバーをミネラルウォーターで流し込んで早々に終わらせる。リュックサックを登山用の大きな物から、買取所に行ったときに持っていった少し小さくて動きやすいリュックサックに交換して、エアガンをホームセンターで買った新装備に持ちかえる。

 心臓から沸き起こる白くて冷たい粘るさえずりが、全身を駆け巡り恐怖と緊張を呼び起こす。

 不安と恐怖を振り払うように深呼吸をするけど、溺れてあえぐように息が乱れてしまう。

 コボルトと再戦する。

 これは決定事項。

 再考の余地なんて欠片もない。

 コボルトから逃げるように、こそこそと探索をする?

 視界を閉ざして闇色の騒音に包まれて、矮小な安寧で妥協する?

 ありえない。

 準備に時間をかけるのは問題ない。

 でも、探索者として困難に挑まないと、ボクの心は根腐れを起こして倒壊して、二度と立ち上がれなくなる。

 だから、一歩一歩、ダンジョンを進む足を止めない。

 怖くて怖くて妥協したくなるけど、恐怖で震えて鉛のように重くなっている足は絶対に動かす。

 索敵、暗視、魔力感知に、意識を強めにする。

 嗅覚の鋭いコボルトに対して、隠行はあまり有効じゃない。だから、隠行を起動はさせておくけど、破られることが前提。奇襲ができたらラッキーだったぐらいの気持ちでいる。

 反応は六つ。

 木々の静謐な香りをゆっくりと取り込んで、魔力循環を安定させて、平静を急造で偽造する。


「ガウウゥゥゥ」


 一体が正面から来ると同時に、他のコボルトがこちらを取り囲むように動く。


「遅い!」


 左手に持った新装備を目の前のコボルトに放つ。


「キャーーーン」


 コボルトが武器を手放して、顔面を押さえて地面をのた打ち回る。

 無防備な首をギロチンシックルで遅滞なく狩る。

 これが新装備、魔導スプレーガンの威力だ。

 魔導って付いてると凄そうだけど、実際は電池やバッテリーの代わりに魔石が動力になっているだけの、性能としては標準的なスプレーガン。魔導式は、この国の切迫した石油事情に後押しされて、ここ二、三年で開発された技術で、最近では広く一般に浸透している。

 スプレーガンに装填しているのは水や塗料じゃなくて、トウガラシから抽出したカプサイシンとお酢の混合液。カプサイシンは熊すら撃退する成分だし、お酢は犬の躾にも使われるらしいので、コボルト相手には最適なはずだ。

 それに、フェイスガードをしているから、万が一ボクに混合液がかかっても大丈夫。

 一体が囮になって、包囲する予定が崩れたからか、動揺したかのようにコボルトたちの動きが一瞬だけ停止する。

 奴らにとって致命的なすきで、ボクにとって絶好の機会。

 手近なコボルトの顔面を狙ってスプレーガンを放つ。


「キャウン」


 犬のような悲鳴を上げてコボルトが地面を転げ回る。

 倒れたコボルトをカバーするように、別の二体が左右から迫る。

 左のコボルトにスプレーガンを放ち、右からの攻撃はギロチンシックルで迎撃する。


「キャーーーン」


 地面を転がるコボルトが一体追加された。

 余裕をもって、右のコボルトにスプレーガンを放てる。

 流れ作業のように、コボルトを地面に転がす。

 鎌で攻撃を迎撃して、スプレーガンを確実に命中させる。たった、それだけで、前はあれだけ苦労したのに、眼前のコボルトを簡単に無力化できる。

 一瞬の痛みで少しの時間だけ動きを止めるエアガンと違って、カプサイシンとお酢入りのスプレーガンは一瞬どころか数分からもしかしたら数時間、相手を戦闘不能状態に追い込める。

 地面を転げ回るコボルトの背中を順番に踏みつけて、次々に首を狩っていく。

 戦う前の不安と恐怖がなんだったのかと思いたくなるような結果だ。

 だけど、これで勘違いしたり、調子に乗ったらダメだ。

 コボルトが弱くなったわけでも、ボクが強くなったわけでもない。ただ、スプレーガンという要因によって一方的な展開になっただけだ。

 ボクにエアガンやスプレーガンを使わないで、ゴブリンやコボルトを安定して狩る実力は現時点だとまだない。

 

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