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[Web版] 新米錬金術師の店舗経営  作者: いつきみずほ
第四章 ちょっと困った訪問者
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006 護衛に向けて (1)

「えぇ!? そ、そんなに危険な場所なんですか!?」


「ロレア、万が一だ、万が一。そもそも家を出て採集者になった時点で、どこかで横死する可能性は常に考えている。今私がここにいるのは、店長殿に出会えた幸運があったからに過ぎない」


 唇を震わせるロレアちゃんの肩に、アイリスさんが手を置き、ゆっくりと椅子に座らせれば、ケイトさんもその背中を優しく撫でる。


「そうね。普通ならあの時にアイリスは死んでいたわけだし。もっとも、家を出るときに別れを告げているから、最期の言葉を伝えられなくても問題はないんだけど」


「うむ。言葉が残せれば嬉しい、という程度だな」


「そ、そんな……」


 改めて採集者の危険性を認識したのか、ロレアちゃんの顔から少し血の気が引いている。


 そんなロレアちゃんの様子を見て、ケイトさんが空気を変えるように笑うと、肩をすくめた。


「ま、ね。それ以降も何度か家に帰ってるから、ちょーっと微妙なんだけどね。毎回、愁嘆場を演じるわけにもいかないし?」


「うむ。それをやった後、普通に『ただいま~』と帰っているわけだからな」


「それは……そうですよね」


 その場面を想像したのか、ロレアちゃんも少し笑みを漏らす。


「ロレアちゃん、そんなに心配しなくても、危険は少ないと思うよ? 本当に、万が一の備えだから。それに実際のところ、前回のサラマンダー討伐の方がよっぽど危険だったんだけど……」


「それは、そうなんでしょうが……サラサさんならあんまり心配ないかなって。あの大きなヘル・フレイム・グリズリーとか、凄くあっさり斃してましたし」


 あぁ、なるほど。

 ロレアちゃんはサラマンダーを直接見ていないから、実感が湧かなかったのか。


「店長殿の無双っぷりを見れば、ロレアの気持ちは理解できるな」

「サラマンダーとヘル・フレイム・グリズリー、比較にならないんですが……」

「一般人から見たら、どちらも強い。そんなものなんじゃない?」

「むむむ……そんなものですか。まぁ、良いです」


 あんまり話を続けてもロレアちゃんを不安にさせるだけだろうし、話を戻そう。


「本当に保険ですけど、助けが欲しいときには躊躇わずに共鳴石を使ってください。直接手は出せなくても、アドバイスだけならできるかもしれませんし」


「それって、錬金生物(ホムンクルス)? それを通してですよね。定期的に確認しないのは、やっぱり魔力の問題ですか?」


「そうだね。できなくもないけど、あそこまで離れると、錬金生物(ホムンクルス)と同調して、感覚を共有するのは大変だと思うから。お仕事にも魔力は必要だしね」


 私もまだ錬金生物(ホムンクルス)を作ったことはないから聞いた話だけど、数百メートルほど離れるだけでも、魔力消費はかなり多くなるらしい。


 錬金生物(ホムンクルス)を直接動かしたりせず、見るだけ、聞くだけならだいぶ節約できるみたいなので、今回はそれで凌ぐ予定。


 それでも普段のお仕事をしながら、アイリスさんたちの状態を何度も確認することは、魔力的に難しいだろう。


「もっとも、錬金生物(ホムンクルス)を作れないとそれらも画餅なんですけどね。本来は素材を集めるのにだいぶコストがかかるんですけど、幸いなことに今回は使えそうな物が揃っているので、この機会に試してみようかと」


 まず必要なのは、強力な魔力の込もった素材。

 これはサラマンダーの鱗と狂乱状態のヘル・フレイム・グリズリーの眼球で賄える。

 ちょっと属性が“火”に寄りすぎだけど、そこは氷牙コウモリの牙で調整が可能。


 それに今回行く場所に関しては、火属性の方が都合が良いので、ある程度の属性の偏りは許容できる。


 一番コストがかかるのはこれらの素材で、私レベルの錬金術師だと、気軽に買い集めることなんて不可能なんだけど……先を見越してきちんと取っておいた私の勝利、だね!


 あとの素材は比較的簡単に手に入る物ばかり。


「少し変わった物としては、私の髪の毛を使います」


 ちなみに、髪の毛の代わりに、血液とか、乙女的には手に入れづらいナニカとかを使う方法もある。


 特に後者を使うと、錬成の難易度が下がるんだけど、逆に入手難易度が爆上がりなので、当然私は検討もしていない。乙女なので。


 血液の方だと、錬成難易度が髪の毛とそんなに変わらないしね。


「他にも、もう一種類、髪の毛が欲しいんだけど……」


「サラサさん、私のでも良いですか? ちょっとぐらいなら切っても構いませんよ?」


「ありがと。数本もあれば十分だから、髪を梳かしたときに抜けた物をもらえれば」


「そうなんですか。なら、何も問題ありませんね。……でも、私とサラサさんの髪の毛を使って生まれる生き物ですか」


「まぁ、そうなるね。どうしたの?」


「なんだか、二人の子供みたいですね?」


 少し悪戯っぽく笑って、そんなことを言うロレアちゃん。

 それに反応したのは、アイリスさんだった。


「なぬ? それはいかん。店長殿、私の髪を提供しよう!」


 そう言いながら、私とロレアちゃんの間に、割り込むように頭を突き出してきたアイリスさんを見て、ケイトさんがため息をつく。


「アイリス……そんな小さな事にこだわらなくても」


「いや、ケイト。蟻の一穴だぞ? 油断はいかん」


「油断って……ロレアちゃんは、別にライバルってわけじゃないでしょうに。ねぇ?」


「えぇ、そうです……ね?」


 頷きつつ、ちょっと首を傾げるロレアちゃんを見て、アイリスさんが目を見開いた。


「危険だ! 危険だぞ、ケイト! ロッツェ家のためにも、正妻の座を譲るわけには!」


「えぇ!? まさか、本当に?」


「あ、いえ、別に私がサラサさんと結婚したいというわけじゃなくて、サラサさんが結婚してお店をやめてしまったら、困るかなって。私のお仕事が」


 慌てたようにプルプルと首を振り、そう説明したロレアちゃんに、ケイトさんは納得したように頷く。


「そっか。結構、人生に関わる問題よね、錬金術師のお店で働けるか否かは」


「なるほど、そっちか。給料、違うものな。特にこんな小さな村では。大丈夫だぞ、ロレア。ウチの陪臣は優秀だ。店長殿が領主の仕事をせずとも、問題はない」


「えぇ、そうね。むしろ、錬金術師として頑張ってもらった方がありがたいわよね」


「そうですか。なら、私の将来も安泰ですね」


「うむ。店長殿の配偶者になれば、更に安泰だぞ?」


 ホッと息をつくロレアちゃんに、アイリスさんがニコリと笑って肩に手を置く。

 ……あれ?

 この前の花嫁云々のお話は、ロレアちゃんの頑張りで棚上げにされたはずじゃ?


 何だかこのまま放置してると、防波堤のはずだったロレアちゃんが、取り込まれてしまいそうですよ?


 私は慌てて軌道修正に走った。


「あ、あの! 髪の毛は、私とロレアちゃんの物で、良いんですよね?」


「ん? あぁ、その話だったな。ちなみに店長殿。髪の毛って何のために入れるのだ?」


「えっとですね。錬金生物(ホムンクルス)も普段は自立的に活動するんですが、そのときの性格というか、行動指針というか、そのあたりに影響すると言われています」


 落ち着きがない人の髪の毛なら作製した錬金生物(ホムンクルス)も落ち着きがなく、おとなしくてあまり活動的でない人なら、錬金生物(ホムンクルス)もまた同様に。


 外見にも影響を与えるという説もあるけど、基本的な外見設定は術者のイメージに依って行われるし、今回私が作るのは人型ではないので、ほぼ関係ないはず。


「――複数の人の髪を入れると?」


「その場合は、平均的になるはずです。特徴がないとも言えますが、逆に言えば尖ったところがなくて、安心かもしれませんね」


「なら話は決まり。全員の髪を入れましょ。アイリスだけにして、無鉄砲な行動をする錬金生物(ホムンクルス)ができたら困るし」


「酷いな!? 私、そんなに無鉄砲か?」


「騎士爵家の継嗣なのに、命の危険がある採集者になろうとするぐらいには、ね?」


「うぐっ!」


 ニコリと笑うケイトさんに、アイリスさんが言葉を詰まらせる。

 でも、納得である。


 いくら小さな貴族家とはいえ、跡継ぎが家を出て、危険な仕事に就くようなことなど、普通は許可しない。


 それを許してしまうアデルバート様もアデルバート様だと思うけどね。

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ファンタジア文庫より書籍化しました

新米錬金術師の店舗経営 7巻 書影

新米錬金術師の店舗経営 コミック6巻 書影

コミックヴァルキリーにてコミカライズ版が連載中です。


以下のような作品も投稿しています。よろしくお願いします。

『異世界転移、地雷付き。』

異世界転移、地雷付き。 11巻 書影
― 新着の感想 ―
[一言] 百合要素が出てきて、又それをかなり引っ張ってるのに苦痛を感じて、最後まで読むのを断念……好きな人もいるかもですが、耐えられない人には耐えられないので、百合は取り扱い危険要素ですね
[一言] うーん……やっぱりこのタイプの百合は気持ち悪いな…… 読むのやめようかな……
[一言] アイリスのだけはいれたらだめだな
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