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[Web版] 新米錬金術師の店舗経営  作者: いつきみずほ
第三章 お金が無い?
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018 不意の訪問者 (1)

前回のあらすじ ----------------------------------

マイケルたちに薬草栽培の指導を行う。

溜まっていた仕事を終わらせたサラサは、溶岩トカゲの処理に取りかかった。

「そう言えば店長殿、ケイトとロレアの魔法の方はどうなんだ? 使えるようになったとは聞いていないが」


 ある日の朝食の席、ふと思い出したようにそんな事を聞いてきたアイリスさんに、私は思わず失笑する。


「そんなすぐには結果は出ませんよ~。簡単に使えるようになったら、世の中、もっと魔法使いがいますって」


「ふむ。そんな物か」


 こくりと頷くアイリスさんに、ケイトさんとロレアちゃんも苦笑する。


「そうよね。一応、手応えはあるんだけど……ねぇ、ロレアちゃん?」


「はい。なんとなくって感じですけど」


「最初が難しいですからね、魔法って。二人は環境が良いですから、もうちょっとだとは思いますけど」


 魔法を使う上で、第一歩となるのは魔力を感じ取る事。


 目で見えない物を認識する必要があるので、ある意味、ここが一番大きな難関なんだよね。


 でも、ウチには錬成具アーティファクトがあふれているし、この家は刻印によって常に魔力が流れている状態にある。


 同居しているケイトさんはもちろん、ロレアちゃんも日常的に魔力には接しているわけで。


 たぶん、近いうちにこれはクリアすると思う。


「魔力が感じ取れるようになったら、次は魔力の操作、そして発動と進んでいくので、実際に魔法を使えるようになるまでは、まだしばらくかかりますよ」


「なるほど。ケイトが戦闘で魔法を使えるようになるのはまだ先か」


「いや、アイリス? 私、攻撃魔法を習っているわけじゃないからね? 攻撃魔法って、難しい――の、よね? 店長さん」


「難しいかどうかは、いろんな考え方がありますが、素質が影響するのは間違いないですね」


 錬金術師の場合、魔力の操作が重要視されるけど、攻撃魔法を使う場合に必要なのは魔力の量。


 訓練で上達が望める魔力操作の技量に対し、総魔力量と一度に使える魔力量に関しては、素質が影響する部分が大きい。


 もちろん、魔力操作が上手ければ、小さい魔力で効果的な攻撃を行う事もできるけど、魔力が多い方が有利なのは間違いないわけで。


 逆に、魔力量さえ多ければ、多少技術が劣っていても力押しでなんとかなるので、錬金術師ではなくて魔法使いを選ぶ人には、案外そういう人が多かったりする。


「でも、二人に関しては問題ないと思いますよ。魔力量は多い方だと思いますから、後は練習次第ですね。攻撃魔法を覚えるかどうかは、自分次第ですけど」


「悩むところよね。使えるようになれば、便利そうではあるけど……」


 採集者という立場から迷う様子を見せるケイトさんに対し、ロレアちゃんの方は躊躇いもなく首を振る。


「私は、まずは畑を耕す魔法をしっかりと覚えるつもりです。攻撃魔法を使う機会はほぼないと思いますし、いろいろできるほど器用じゃないですから」


「うん、その方が良いだろうね。……ロレアちゃんは十分に器用だと思うけど」


 料理は上手いし、錬金術師のお店での店番という、いろいろと面倒なお仕事もしっかりと熟している。


 ロレアちゃんが器用じゃないのなら、誰が器用なのかと――。



 カラン、カラン。



 そんな話をしていると、店舗の方から呼び鈴の音が響いてきた。


 ロレアちゃんが店番をしてくれるようになって、最近はあまり聞く事のなくなっていたその音に、私たちは顔を見合わせて首をかしげる。


「珍しいですね。開店前に人が来るなんて」

「そうだね? 新しく来た人、かな?」


 お店を開ける時間、閉める時間は決まっているので、村の人はもちろん、採集者の人たちも、営業時間外に店に来る事はまずない。


 新しく来た採集者なら、営業時間を知らないって事は考えられるけど、閉まっているのにあえて呼び鈴を押して呼び出すなんて――。


「店長殿、もしかすると、急患とか、そういうことじゃないのか?」

「あっ! それはあり得ます!」


 錬金術師には、医者としての役目も求められる事がある。


 その事を思い出した私は、慌てて椅子から立ち上がったのだが、ケイトさんはそれを否定するように首を振った。


「それは違うんじゃないかな? 急患ならもっと慌てて、サラサちゃんの名前を呼ぶでしょ。名前を知らない人なんて、この村にいないんだから」


「それもそうだな。……それも、行ってみれば判る事か。店長殿、私も行こう」


「じゃあ、私も」


「お手伝いできる事、あるかもしれませんし」


 急患じゃなくても、呼ばれているのは間違いないわけで。

 私がお店の方に向かうと、その後ろをぞろぞろと全員がついてきた。

 急患なら人手があった方が助かるけど、ただのお客さんだったら……ま、いっか。



 カラン、カラン。



「はい、はーい」


 催促するように鳴る呼び鈴に、私は足を速め、扉を開く。


「どちら様……ですか?」


 そこに立っていたのは、壮年をやや過ぎたぐらいの渋い男性と、艶やかさを感じさせる年若いブラックエルフの女性。


 村の人ではないし、採集者にはちょっと見えない。

 まれに商人が来る事もあるけど、そんな風にも見えないし……。

 いや、本当にどちら様?


 私が不思議に思って男性を見上げると、男性は一歩足を引き、軽く会釈をして口を開いた。


「失礼。ここは、サラサ殿のお店で間違いないだろうか?」

「サラサは私、ですけど?」

「あなたが……?」


 二人とも少し驚いたように目を見張り、私をまじまじと見る。


「そうですけど……」


 誰か人が訪ねてくる予定なんて、なかったよね?

 と思ったその時、追いついてきたアイリスさんたちが扉の外を見て声を上げた。


「お父様!?」

「ママ!」

「「……はい?」」


 予想外の言葉に、私とロレアちゃんの言葉がハモる。

 えっと、お父さんとお母さん?


 いや、正確には、男性の方がアイリスさんのお父さんで、女性の方がケイトさんのお母さんか。


 夫婦、ではないよね。


 二人が姉妹という話は聞いたことないし、アイリスさんの外見はハーフには見えない。


 と言うか、ケイトさんのお母さん、若い!

 さすがエルフ。どう見ても姉妹にしか見えない。


「おぉ、アイリス、ケイト。やはりここで間違いなかったか」

「なんでここに、お父様たちが?」


 ほっとしたように応えた男性に対し、アイリスさんたちはやや困惑気味。

 訪ねてくる事は、彼女たちも聞いていなかったのだろう。


 アイリスさんならうっかり伝え忘れた、なんてこともありそうだけど、ケイトさんならきちんと私に伝えているだろうし。


「もちろん、用事があるからに決まっているだろう」


「それはそうでしょうが……。あー、店長殿、申し訳ないのだが、お父様たちを中に入れても良いだろうか?」


 アイリスさんたちの故郷がどこかは訊いていないけど、おそらく遠くから訪ねてきたお二人。


 アイリスさんも立ち話では終わらないと思ったのか、私の方を見て申し訳なさそうにそう尋ねるので、私は当然と頷いた。


「あ、はい。気づきませんで。狭いところではありますが」

「かたじけない」

「お邪魔しますね」


 お二人を招き入れ、家の奥へ。

 応接室なんて洒落た物はこの家に存在しないので、案内できるのは台所兼食堂。

 先ほどまで朝食を食べていた場所である。


 なんだか最近、お客さんが来ることが増えた気がするので、本気で応接間の増築を検討すべきかもしれない。


 アイリスさんたちが同居するようになって、六人掛けのテーブルと椅子を新調したので、お客さんが二人来ても、一応、座る事はできるんだけど――。


「むむっ。食事時にお邪魔してしまったか。申し訳ない」


 こういう時にちょっと困る。


「いえ、ちょうど食べ終わったところでしたので」


 食後のお茶を飲みながら食休みをしていたところだったので、これは本当。

 手早くテーブルの上を片付けて、お二人に席をすすめる。


「きちんとした部屋も無くて申し訳ないのですが……どうぞ、おかけください」

「いやいや、突然押しかけたこちらが悪いのだ。気になさるな」

「はい、こちらこそ申し訳ありません」


 少し恐縮したように腰を下ろしたお二人に、そつが無いロレアちゃんがお茶をお出しする。


 そしてロレアちゃんは軽く一礼すると、私に『お店の開店準備、しておきますね』と囁いて、部屋から退出。


 残った私たち三人が椅子に座るのを確認して、アイリスさんのお父さんが口を開いた。


「改めて挨拶させてもらおう。儂はアデルバート・ロッツェ。そこにいるアイリスの父親だ」


「私は、カテリーナ・スターヴェン。ケイトちゃんの母親で、ロッツェ家に仕えています」


 アデルバート様の方は、口髭を生やした少し渋いおじさん。

 雰囲気から年嵩に見えたけど、よく見るとそんなでもなく、たぶん四〇前後かな?


 カテリーナさんの方は、一見するとケイトさんの姉のようにしか見えないけど、そこはエルフ。母親という情報を考慮すれば、最低でも三五は越えているよね?


 全くそうは見えないけど、確かケイトさんが二一って聞いたことがあるから。


 ちなみに、言われなければ判断のつきにくいケイトさんとは違い、純粋なエルフらしいカテリーナさんは、耳と肌の色にしっかりとその特徴が出ている。


「あ、はい。私は錬金術師のサラサです。この店の店長です」

「サラサ殿には娘たちがお世話になっていると聞いている。礼を言う」

「ありがとうございます」

「い、いえいえ、たいしたことでは……」


 姿勢を正し、軽く会釈をする二人に、私も慌てて頭を下げた。

 と言うか、アイリスさんって、貴族だったんだね。

 そうじゃないかな~、とは思ってたけど。


 チラリとアイリスさんに視線を向けると、彼女は少し焦ったように、わたわたと手を動かす。


「あ、いや、隠していたわけじゃないんだぞ? うん、あんまり身構えてほしくなくて、だな!」


「いえ、何も言ってませんけど?」


 そもそも私、貴族だからといって身構えたりしないし。


 昔ならいざ知らず、師匠のお店で働いていると、師匠にお尻を蹴っ飛ばされて店から追い出される“貴族”という物を頻繁に見る事になるから。


 ホント、師匠って怖い物知らずだよね。さすがマスタークラスは伊達じゃない。


「そもそもだな、貴族って言っても、小さい村を二つばかし持っているだけの騎士爵、木っ端貴族なんだ! 端くれだな、うん!」


 それ以上何も言わない私に慌ててるのかもしれないけど、言い方が酷い!

 事実なのかもしれないけど、アデルバート様も渋面になってるし。


「おい、アイリス? 儂もそのことは否定しないが、もう少し言い方をだな……」


「あっ。お、お父様、これは決して、悪い意味では! その、店長殿にあんまり気にしてもらいたくなくて、と言うか……」


 今度はアデルバート様に対して言い訳を始めるアイリスさん。


 木っ端呼ばわりして悪い意味じゃないも無いと思うんだけど、アデルバート様は苦笑して軽く首を振った。


「あぁ、解っている。公の場で言わなければ問題ない。他の貴族の手前もあるしな」


 それはそうだよね。


 謙遜して言っているのだとしても、他の騎士爵の貴族も木っ端貴族呼ばわりするに等しいわけだから。


 アイリスさんもそのことに気づいたのか、アイリスさんがしゅんとして、背を丸める。


「す、すみません。気をつけます」

「うむ。そうしてくれ」


 そんなアイリスさんを苦笑して見ていたケイトさんが、表情を改め、アデルバート様に向き直る。


「それでアデルバート様、この度は一体? 来られるとは伺っていませんでしたが……?」


「あぁ、それはだな……」


 ケイトさんの問いかけに、アデルバート様は少し言いづらそうに、隣に座るカテリーナさんと顔を見合わせると、軽く息を吐いてから口を開いた。


「アイリス。今日はお前を連れ戻しに来た」

 

 

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